8.初めての朝日と『アルラウネ』
ん?むう…いつの間にか寝ていたようだな…
あれ、リビングのソファーで俺寝たっけ?
いや、ソファーベッドなんて家にはないぞ?
あれれ~それに、なんだこのさらさらとしたものは…髪の毛!?
え、俺、誰かと一緒に寝たのか?
「すぅ…すぅ…んんっ。タケル~♪
ボクは幸せだよ~…ふふっ…すぅ…すぅ…。」
寝言か?銀髪サラサラ~銀髪!?
それに、耳が尖っていらっしゃる。
肌も浅黒いのだが…こんな綺麗なお嬢さんが俺の名前を…そうか、これは夢だな…
「あは、はは…俺は何て夢を…うぬぅっ!」
俺の朝の生理的なテントに寝返りを打った彼女の健康的な太ももがHIT!
やばいやばいやばい…この感触はやばいぞ!理性ががが…
「タケルぅ~我慢しなくていいんだよ?」
ああ~変な寝言を囁くなよおじょ…うさ…
あ、そうだっ!俺は死んだんだなっ!コンビニに突っ込んできた大型トラックに…そうか、天国か。
それなら仕方ないよな、うん。
このお嬢さんとにゃんにゃんな関係でも問題ない。
てか、寝言ですらこんなに慕ってくれているんだ。
大丈夫。自身を持て渡来タケル!男だろう?勇者の剣を開放するのだ!
…。勇者?…魔王!?はっ!
ぺたぺた…
角だ!角があるぞ俺!天国ではなく地獄だと!
なんてこった!
生殺しというヤツか!怖ろしい刑だ!俺の精神を削る怖ろしい策だっ!
ぐおおお~美女が添い寝してるのに!手出しできないということか!?何たる地獄!
「んっ…んむう?あ、おはよ~タケル~」
俺が悶えていると銀髪の美女が目を覚ましてしまっ!おおうっ!俺の胸板に頬ずり!
そしてそのまま俺の顔を覗く眠たげな赤紫色の双眸。
綺麗だな~うん?むむむっ…???
「ん。」
もう天国なのか地獄なのかどうでもよくなりました。
唇が重なっちゃったんですから…
思考が溶かされていく、このまま…
このまま元気な勇者の剣をっ!
<…。勇者様、何してるんですか?>
とても冷たい女性の声が急に聞こえたせいで驚いて唇を重ねる美女に抱きついてしまう。
「んあっん!タケル!激しいよ!ボ、ボクはまだ心の準備が!
は、離してくれ!おはようのキスをしたのは他意はないんだ!
ただの好奇心なんだ!
だからまだそれ以上は…今のところは待ってくれ!」
俺は何て事を…。
…あ、俺は何をしているんだ?こんなに寝覚めが悪かったか?は、恥ずかしい!!!
<召喚酔いが今頃ですか…。役得ですね?>
ああ、声の人よ!正気に戻してくれたのはいいが、俺かなりやらかしてるな。
「ごめんよ、リーナ。寝惚けていたようだ。」
耳元で囁く。
「ふぁあっ!ボク、変な気持ちになっちゃうっ!ははは、早く離れたまえ!」
申し訳ありません。俺はそう思うと離れ、ソファーから起き上がる。
「疲れがきたのかね…俺は、寝起きがいいほうだったんだが…。」
「ボクに言われてもね…まさかアラームより早く目覚めてしまうとは。
疲れている割りには早起きなんだね、タケル?」
アラームあるのかよ?リーナの言葉に反応してそちらを見るとクリスタル?石ころ?
まあ、それを握りながら首を傾げていた。
「俺もそこらへんはわからんな、時差でもあるのかね?この世界の時間は?あと一年は何日?」
気になるよね?ああ、俺も気になる。
「時差があるのはまあ、長距離用の伝石の実験で解っているとして、時間は24時間。
まあ大体らしいけどね。昔の偉い学者さんが言ったらしいよ?
そしてこの結石はね、太陽の位置によって設定した時間帯に反応するんだ。
だから、時間がどうとかまでは時計を見に行かないとわからない。
そして、最後に一年は約360日といわれている。
まあ、それくらいだろうって所だね。
年に何回か日が長~い時があるからね…
数日のズレみたいなのはあると考えといてくれ。」
サマータイムに近いのかね?
まあ、似たような世界、しかし多種族並び魔法がある世界なのはこの世界が今までいた世界と違うということを如実に伝えてくる。
「説明ありがとう。それじゃあ、屋上に行こうか?」
「うん♪」
素敵な笑顔だ!それが俺に向けられているというのがたまらなく幸せだな。
部屋を出て、薄暗い廊下を歩く。城内の明かりもいつの間にか落としてあるな。
「トライオス陛下、リーナ様おはようございます。」
おや、彼は背が高い兵だったな、背の低い兵とディオンの三人でいた気が…
「ああ、おはよう。えっと…」
「ん~おはよ~。?どうしたんだいタケル?」
「いや、名前を知らないなぁと思ってね。すまないが名前を教えてもらえないかな?」
彼は敬礼のまま…
「マルノトといいます。」
「そうか、マルノトさん。おはようございます。」
俺は挨拶し直した。すると両手を突き出し左右にパタパタ
「さん、だなんて!陛下。マルノトでお願いします。我らは兵なのですから。」
「そうは言ってもな、急に現れた俺にそんな気遣いもいらんだろうに…よそ者だぞ?」
「だとしてもです。ローブを身に纏い、颯爽と歩くその姿に敬意をいだかせてください。」
「そんなもんかね?」
「そんなものだよ?タケル。それじゃ、ボクたちは屋上で朝日を見てくるからね。お勤めご苦労様です。マルノトさん。」
おや?リーナがさんをつけるのは珍しいな…
マルノトと別れてからふと思った。
「彼も城勤めが長いからね。ボクも流石に敬意をいだいているんだ。」
そうか、となると…ディオンやレベックはそこまで長くないのかね…。
「まあ、他の兵や民との交流が増えるだろうから、今から色々と知っていけばいいよ。
ボクなんか10年近く居てもまだまだだからね。まあ、ほとんど王城勤めだからしょうがないか…。」
研究職の定めかね?まあ、俺は一般人の生活の方がいいかな…でも、どんな生活をしているかも知らんから一概には言えないか。
屋上に着く。ほ~壮観だね。
山や木々が見える。自然はあるようだ。
砂漠地帯とかじゃなくて良かった。
川も見えるから水にもそこまで困らなさそうだな。
そして、金色の朝日が昇る。美しい…
「綺麗だね…タケル。」
「ああ、誰かとともにこの景色を分かちあえるとは、一人じゃなくて良かったと思えるよ。傍にいてくれてありがとう、リーナ。」
「ふんっ、どうせ我は仲間はずれだなっ!」
ん?幼女の姿に戻った?先生がいじけているぞ、てか、普通に朝日に当たれるんですね?
ヴァンピールなのに…
「我は我だからな!朝日には負けん!昼間は流石に厳しいから、その時はトライからエネルギーをもらうぞ?血でも可だが、やっぱりあの味をもう一度…ふひっ。」
よだれも輝くほどの朝日。こんなんでいいのか?金色髪の先生よ…。
それはさておき、屋上の景色は素晴らしい。
多種多様な民家も見える。種族の分だけちがうわなそりゃ。わくわくしてきたぞ。
「…はあ、トライはげんきそうじゃの…我はほてりを解除するために四回はかかったぞ。おかげさまでこの姿になってしもうたがのぅ…。(チラッ)」チラッ!
生々しいアピール好きだよな…やっぱ…
「もうヴィオリラ先生はサキュバスでいいんじゃないか?俺にはそうとしか思えようが無いのだが…。」
「ボクもさすがにそう思えてきた。先生、種族偽ってません?」
リーナも残念なものを見る目を先生に向けている。それでいいのか教え子よ!
「な、我はサキュバスでもインキュバスでもないぞ!ただ、性に興味があるお年頃なだけだっ!角も尻尾も無いんだぞ!それにだえ!むむっ~!!!む~!」
な、なんだ!?先生が「だえ…」と何か付け足そうとしたらリーナがその先生の口を手で押さえた。
「先生はヴァンピールですよ!うん。ボクが保障するよタケル!翼だって見ただろう?」
何が起きたんだ、冷や汗だらだらなリーナ…
「も、ももも~!!!っふは、そうか!そうなのだな!ふふ…リーナよ、そう言うことか。なら、ラーベルに頼むと良い。彼女も気になる殿方がおるらしくてな…花壇のすみのほうに何種類か植えてるらしいからの。」
手を振りほどいた先生は小声でリーナに耳打ちをする。
「え!?ラーベルがついに…行動に?」
「いや、悩んではいるようじゃ。だが、念のためじゃろうな。」
「そうか…それなら少し、ほんの少しだけ分けてもらいます。情報ありがとうございます。先生。」
リーナは先生から何かみみよりな情報を聞いたらしく、頭を下げた。
だが、当の先生は…
「ふふっ…だが、急ぐんだな。我のこの気持ちも強い。
だからの、次の満月の夜は勝負するぞ?
確実に…。
リーナがどうしてもと言っても満月の夜は行動を起こすからの。
イヤならその前に、行動せいよ。我は、順番は気にせん。
時間は限られておるぞ…ふふっ…ふひっ…ひひひ♪」
「っ!?…わかっています。
だから、先ほども発言を阻止させていただきました。
そして、ラーベルから少しでも分けてもらえれば、ボクも少しは勇気を持つことができます。
ですので、先生が先とは行きませんよ!
もしものときは昨夜のようにショックやスタンを使うまでです!」
「それは普通の夜での話じゃ。
満月じゃまず我にその手の魔法は効かんぞ?
それこそ我を止めれるのはトライくらいの魔王並みの実力者だろうな…。
だが、我も策を用意するからの…ふひっ…おっとよだれが。
じゅるり。」
何か俺を置いて話が進んでいる。
だが、小声なのでちょいちょい聞こえず、気になる。
「して…ナイスガイ仮面の下もなかなかの面ではないか…なぜ、仮面を?」
小声でのお話は終わりらしい。あ、そういえば仮面・オン!
「あ、え?仮面が出てきおった!どゆこと?」
その言葉にリーナが頬をぽりぽりとかきながら苦笑い。
「それはですね…。タケルが右目の下の隈を気にしているからというのと、回復魔法を使うと眩しいからです。」
そう。この仮面はリーナの優しさと俺の角でできている。
「は~回復魔王。いや、回復魔法ね。勇者だからか?アヤツも使えておったもんな…。」
昔のことを思い出しているのか、その土地の方角を向いているのかわからんが、遠い目をしている。
とても悲しそうな表情だ、だが、声色には楽しかった頃の思いでを懐かしむように感じられた。
俺は、回復魔王で決定なのかね?
てか、魔王と魔法を間違えやすいってどーよ?
「なんなら使って見せようか?回復魔法…あ、今は手袋つけてるから眩しくないんだったな。」
「ほう?まあよい、使えるかどうかは知りたいからの…ヒールで構わん。我に頼む。」
そう言うと目を瞑り、つま先立ちぎみになりながら…唇を突き出す!
は?何を求めてるの?「ちゅ~」とか聞こえてくるんですけど…。
「はよせい!さあ、我に口付けを捧げ、耳元で囁くがよい!トライよ!さあっ!」
…。
ぺちんっ!
「んふゆっ!トライ、なにをする!我はそんなことは望んでおらんぞ!…て、リーナか。」
「先生。何がしたいんですか?ふざけるならタケルに先生には魔法使わないように言いますよ?ふふっ、のけ者ですね?」
俺が困っていると、リーナが先生のおでこを軽く叩いた。
「な、のけ者じゃと!?」
「そうですよ?あの、アコーですらすでに回復魔法をかけてもらっているんですからね!」
「な、ななな、なんじゃと!?あのアホのアコーですら…。ごめん、ごめんよ~ふざけないからな!ゆるしておくれ~」
そこは俺にだろう?リーナが魔法使うわけじゃないんだからさ。
リーナが目で合図を送るので、仕方なく先生の頭に右手を乗せると…
「ヒール!」
淡く輝く!朝日と相まって神々しささえある。かっけ~いや、綺麗のほうがいいか。
「あ、ああっん!これは!凄いな…我としたことがいやらしい声が出てしもうた!
いや、トライに聞かせる分には問題ないの。
なあ、な~な~今のには欲情したであろう?
なあ、どうだ?
今から我の塔で励まんか?我は捧げてもかまわんぞ?ささっ」
そう言いながらローブを引っ張る欲望まみれな先生。あまりがっつくなよ…流石に萎えるよ?
俺はげんなり…疲れがどっと来るね…。
「先生!流石に、嫌われちゃいますよ?タケルの表情見てみてくださいよ。」
「ん?むむ、仮面でほぼ分からん!だが、嫌いにならないでくれ~頼む!この通りじゃ~!」
すがりつく幼女。泣くな泣くな…
仕方ないので乱暴にだが頭をなでる。
「ふぁっふぁ~!!!こ、これはすばらしいの!そうかそうか、我を好いていてくれるんじゃな?ふひっ…幸せじゃの~♪」
これだけで幸せになってくれるとは…。
「ぶー。単純すぎやしません?ボク達は用事ができました。ささ、タケルもラーベルの所に行くよ。昨日の夜に約束しただろう?」
お~そうだったな。
「そうだな、ハーブティーのこととかも他に種類があるのか、その他に取り寄せれたりするのかも聞いてみたいな。それじゃ、先生。失礼します。」
「あ~行かないでおくれ~かむばっ~く!トラ~イ!」
手を伸ばす先生に手を振りながら俺とリーナは屋内の扉へと向かった。
そして、一階?の中庭?っぽいところに…う~む。
この城はちょっとした病院とか学校くらいな感じだな。
広さもそんな感じだろう。
は~レベックが言っていたが、確かに色々と混ざってはいる。
フルーティな感じも受けるが…青々しい匂いもする。
慣れれば問題ないくらいかね?
この中庭の光景は、なんとも懐かしささえある。
何となく家庭菜園って感じもしなくもないな。
あ~、俺もちょいちょい庭いじりしてたな~野菜を育てるか!うん。そうしよう!
野菜魔王でもなるか?
野菜は新鮮なのがうまいからな!野菜はうまいだろう?
キミ達もそう思うよな?
な!?まさか…嫌いとか言わないでくれよ!
「…。タケル。何を一人で頷いたり、凛々しい顔してるのかな?ボクは凄い気になるんだけど?」
そんな不安そうな顔しないでくれたまえ!野菜の良さをだな!
「あらあら~?うっふふっ。植物に興味がありまして?
お若いのに、庭いじりとしゃれ込みたいとは…面白いお方ですね。
リーナさんの…ふふっ、そんなにお顔を赤くなさらなくても…かわいいわね?」
いつの間にか女性が…
「んもう。ラーベル!それにタケル。庭いじりがいいのかい?
なら、畑を近場に用意できるから好きなのを試してみたら?」
ほう?畑か…老後の嗜みって人もいるだろうが、都会から離れて若いうちから始める人も増えているよな。うん。
自由に使える土地があるなら好きな野菜を植えてみるか。
「はじめましてだな。俺の名前はトライ・タケル。貴女がラーベルさんですね?よろしくお願いします。」
想像していた感じと全然違うな。
黄緑色っぽい髪に麦藁帽子?のような被り物。
そして、白のサマードレスなのが驚き。
二の腕まである白い長手袋装備に足元は茶色のグラディエーターサンダル。
なあ、俺の感覚が間違っているのか?これが庭師の装備とは思えん!
俺が呆然としていると、エメラルドのような双眸を細める。
「ええ、はじめまして。お会いできて光栄です、魔王陛下。」
そして、恭しくスカートの裾をつかみ一礼。アコーとは違い洗練されている。
まあ、あの時は兜付きだったから珍妙に思えただけかね。
「お噂はお聞きいたしました。バグパス様に代わるお方だということも、そして、ヴィオリラ様が狙っていることも…うっふふっ。仮面の貴公子といった所でしょうか?」
大人びているはずなのに、その微笑みは少女のように幼く明るい。
不思議なお方だ。
妖精といわれたらそりゃ確かにと言った所だな。
華が咲くといった言葉がよく似合う。
「あらあら、そんなお顔をなさらないでくださいな。
私も気になるお方が居りますので。
それに、リーナさんが嫉妬なさいますよ?ふふっ♪」
おや?俺はそこまで思っちゃいないが?
「もうっ!からかわないでよっ!そう、それで相談なんだけど…ラーベル。」
そう言うと二人で何かを話し始める。
はあ、また俺は教えてもらえんのか…。
植物でも視て回るか。
「それで、相談なんだけど…ヴィオリラ先生がラーベルに頼めば分けてくれるとか…。頼めるかい?」
「あら?そのようなものが必要でして?
私も用意してなんですが…使うべきかどうか、いえ、使うことに恐怖があるのですよ。
嫌われてしまったらどうしたものかと…
彼は気難しい方ですから、特に…。」
その言葉にリーナは苦笑いを浮かべる。
「確かに、気難しいお方だとは思うよ。
でも、ラーベルのことを気にかけてくれるじゃないか?
それに、立派なお仕事だってしている。
彼ほど職務を全うしている方はいないと思うな。
それでも、庭や庭園ではお優しい顔をなされる。
それを作ってあげているのはラーベルじゃないか!自信もちなよ?
…ってことでボクに分けてくれない?たのむよ~」
「陛下もリーナさんにはかなり気を許しているご様子。不要なのでは?」
ラーベルの言葉にリーナは首を左右に振る。
「いや、こんなことを言ってなんだけど…ボクに必要かな~と、好きな気持ちが強くても…。
勇気が出なくてね。
もちろん他の準備もしている、だけど…先生にも宣言されちゃって…焦っているのも確かかな。
ボクらしくないや…。」
親しい友のように、そして仲むつまじい姉妹のようにも見える。
「そう…ね。
確かに、怖いと思う気持ちがどこかにあるものよ?
仕方ないわね…私は念のためだから、まあ、分けても問題ないわね。
でも、用法容量には十分注意してお使いになってね?約束よ?
強すぎた~激しすぎた~
とか後日言うようなはめにはならないでよね?それが心配だわ。」
「分かっているよ。こう見えても小さい分量まで気にするたちだからね。」
「それは知ってるわよ。長い付き合いじゃない?
まさかこのまま先を越されちゃうのね…。私も機会があればいいのだけれども。」
ふむふむ…ラーベルさんの想い人はどのような方だろう?
ちょいちょい聞こえてくる限りじゃあ、気難しいって所か…仲良くなれればいいのだが。
まあ、庭園で癒されるような方だ、問題ないだろう。うん。