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過去に縛られる話

汗、寝苦しさ。

ずきっと頭から痛みを感じてベットから身体を起こす。

外を見ればまだまだ暗い。


酒場で酒を飲み自室に戻ったのだっけ。

何もない自室をぐるぐると見回した。


「嫌な夢もみたな」


大事な人間が死んでいく瞬間。

そんな一瞬、夢とはいえ眼の前にあった。


ベットの横になる。

けれど眼は冴えて眠る事などできそうもない。


もう見たくない。


寝られないのならばと、俺は着替え外に出た。

いく当てもなく、ぶらぶらを街を歩く。

何も考えず歩き辿りついた場所は訓練場。


「はは」


笑い声が出る。

無意識にここにきてしまう重度なまでの習慣。


入り口にたっていると中から物音が聞こえた。

まだ夜。

人は普通ならいないはず。


気になって中に入る。

適当な訓練用の剣を、いつも隠し置いている場所から取り出し音のする方へ。


近づいていくと向こうもこちらの存在に気がついたのだろう。

暗闇で顔は見えないが動きが止まる。


「だれだ?」

「なんだ、隊長か」

「あ、なんだよ。お前もか」


そこには訓練用の剣を持ち汗だくなった隊長がいた。


「最近残らないと思ったら、いつもこの時間にやっているんですか」

「まぁな。それより、せっかくきたんだ」

「そうですね」


返事とともに切り掛かられた。

とっさに剣を両手に持ち受け止める。


重い。


弾き飛ばされそうになりながら蹴りつける。


「おせぇよ」


ひらりと躱されて、首筋に向かってくる剣筋が見えた。

膝を曲げて地面と平行になるように身体を倒す。

片手を地面について飛ぼうとする。

隊長と反対方向に逃げ。


「取る」


られなない。

視界に剣を横一線に構えている隊長の姿があった。


「ちょっ」


ちょっと待った。その言葉を言い切れず技が放たれた。

風が刃となってこっちを襲う。


「ッゥ」


訓練用の剣とはいえ、実践となんら遜色な強度はある。

剣で受け止めたはずなのに。


全身に痛みが走る。

ぎりぎりと剣が刃とぶつかり合う音。


隊長の技をまともに止めるには、手に持った剣ではあまりにも不安。


壊れるな。

壊れるなよ。


そう祈りながら身体回転させる。

刃をそらす事に成功。


地面に着地して怒り半分に隊長を見ると。

こちらにゆっくりと歩いてきながら、手を出した


「ほらほら、本気でこいや」


ちょいちょい手を指を動かして挑発してくる。

地面を蹴り、望み通り全力で切り掛かった。






「っつ、本当に強くなりやがった」

「隊長は、本当に丈夫すぎる」

「そりゃ、おまえもだ」


地面に二人して大の字になって転がっていた。

もう既に夜が明けて朝になっている。


何時間も剣をあわせる。

技を駆使して全力で戦う。


普通の鍛錬では技の使用は基本はなし。

ここまで全力でやったのは久しぶりだ。


だからこそすっきりした。

爺、相手だって技は使ってないのだから。


「こういうのは懐かしいな。お前らはガキだった。あのときは、複数でかかっても余裕だったのに」

「隊長だって、ただの兵士だったじゃないですか」


戦えば戦うほど。

強くなった。


自分の変化が感じられる頃には、周りもかわっていった。

隊長もころころと入れ替わっていた。

もっともこの人が自分の隊長になるとは思わなかった。


「会いてぇな」

「仲間にですか?」

「当たり前だろう。ずっとそうだ」


ずっとおいてかれてばっかりだ。

そう小さな声で隊長がいった気がした。


兵士とはなんなのだろう。

魔物を倒し、敵を倒し。


その先に一体に何があるのだろうか?

わからない。

わからなかった。


戦場では考える暇はなかった。

今、時間もあるのに見つからない。


戦う事ばかり、考えてしまう。


「日々、培った習慣は拭えないってか?」

「それは、隊長も一緒でしょ」

「いいや、お前はまだ若い」


それの何が関係あるのか?


「だから、もっと気軽に生きろよ」

「戦うなと?」

「ああ、もう戦場はいいだろう?」


ぶちっと何かがちぎれる音がした。

なぜ自分の事を隊長に指図されないといけない。


だいたい。


「隊長だって、俺と同じくせに」

「はは、だろうな。だから俺とお前は二人して部隊に取り残された」


たった二人だけの部隊になった。

そんな形だけの部隊を残しておく必要がないのに。


俺は知らないが、そうなった理由をこの人は知っている。

ずるい。

俺は爺に信用されていないのか。


「これは爺の命令でもある。まぁ、もう戦場には早々戻れないだろうな」


ある程度は、覚悟していた。

三年。

ずっとほったらかしにされて。


訓練と警備だけの毎日。


「もう、爺は俺を必要ないっていったんですか」

「だったら、騎士団の教導にあてることはないだろうよ」


命令。

それなら仕方ない。

諦めがつく。


何も指示されなかったら、爺が将軍職を辞めてもその爺の関係する部隊に派遣される。

そこで戦い。

戦いぬいて死ぬ。


「まぁ、完全強制じゃないさ。傭兵にもでもなれば戦場にはいけるだろうよ」


隊長は昔からそうだ。

道は指し示すのに、決断を人にゆだねる。


そして当人がそれが絶対に正しいとわからせて。

だから、反論できない。


生きる事なら王都にいる方がいい。

ここにいれば、平穏な生活を手に入れる事が出来る。


けど、それは今まで培ってきた戦う術を捨てる事に等しい。

昔のように戦えなくなるのがわかる。


今は、まだいい。

戦場を経験した兵士やベオ爺と戦えるから。


この街の警備の部隊にでも入ればどうなるか。


怖い。

力を失うのが。


力を失う事で、薄れていく記憶がもっとなくなりそう。

仲間がいた事すら、忘れていってしまいそうで。


「後、一年だ。その間に、決めておけよ。爺もお前が決めるんなら文句はいわねぇから」

「俺は、必要ないの?」


逃げられても問題ない。

いてもいなくてもいい存在。


そうなってしまったのだろうか。


「いたっ」


頭を隊長に叩かれた。


「違う。お前はもう認められたんだよ」


隊長は笑った。


でもだけど。

戦わないと、死んだ仲間に顔向けできない。


「仲間を理由にするなよ。やりたい事をやれ」


立ち上がった隊長が、厳しい口調で頭をポンと叩いた。


「じゃ、先にあがんぞ」

「了解」


隊長を見送った後、また地面に寝そべる。


「わかんない」


自分が何をやりたいのか。

一年の猶予がある。


ある少女の横顔がよぎった。

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