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クロレアと黄金の鎧

街の広場の一角に、アグリアの小隊のメンバーが輪になって食事をとっていた。王都を離れてからあってないのもあって、マックは随分と懐かしく感じた。


「はい」

「ありがとう」


スープの入った椀を受け取ってマックは腰を下ろす。


「そういえば、アグリアの小隊は戦ったりしたの?」

「いえ、街に入る頃には他の騎士団の方達がいましたので交戦はほとんどんありませんでした」

「残存した魔物の掃討をやったくらいですか」


アグリアが応えてクロレアが、うーんと考えるにしてから言う。それくらい戦闘らしい戦闘がなかったということだろう。


「マックさんは」


アグリア達と街の戦闘の話する。彼女らは、リーンの騎士団や街の被害が大きすぎたので、内容は可能な限り薄めにマックは話した。彼は戦況を変える程活躍もしてないし、相手は数の多さを武器に攻めて来ていたので、戦い事態は壮絶であっても地味なものだった。


 話も一通り終えて暗い雰囲気が流れていると黄金の鎧に包まれた、目つきが異様に鋭い音がやってきた。


「やぁ、クロレア。君を捜していたよ」

「誰?」

「私の、士官学校の同期です。ルマーニア、騎士団長になっていたのですね」


 エアリスの問いにクロレアは頭を抱えて応えた。その様子から、彼が問題児であるというのがその場に全員が理解出来た。彼のふんと鼻を鳴らして、眼鏡を押し上げる。


「カタリナ」

「はっ」


 傍に控えていた、女性騎士が前に出て来た。


「平民の兵士よ。よく街を守った。褒美だ。これをくれてやろう」


 金貨がマックの方へ投げられ、マックは片手でそれを掴んだ。


「ん?」


 理解出来ていないマックであったが貰えるものは貰う主義である。何も言わずにポケットにしまった。


「平民、それで剣でもなんでも買うが言い」

「はぁ、ありがとうございます」


 礼をいったマックだが、マック自身、言われなくても今回で使用した剣は買い替えるつもりであったし、その手の金は将軍にいえば幾らでも出てくる。


「で、何しに来たのかな?」


クロレアがルマーニアに問いかける。黄金の鎧が日に当たってやたら眩しいのか眼を細めていた。


「ふふ、久しぶりあった士官学校の同期だ。挨拶にきてもおかしくあるまい?」

「いや、まぁ理由として間違ってないけど」


 話すたびに、眼鏡をいじったり髪をいじったり見ていて飽きない奴だなとマックは思いながら、後ろの女性を観察する。彼女も実力者かといつでも彼とマック達の間に入れるような距離を保っていた。


「まぁ、本音を言えば。属性魔法も使えない、能無しクロレアがどうやっているのかを見に来たが、なんだうまくやれているようではないか」

「それは、どういう意味ですか」


 能無しということに反応したのか、エアリスがルマーニアを睨みつける。彼女自身も、力、能力については複雑な問題を抱えているためにその手の話題には過敏だった。


「なぁに、クロレアは属性魔法をつかえない、貴族にあるまじき奴だからな。能無しと言われてもおかしないし、戦場で死んでもおかしくないからな、あっははは」

「その私に、歯が立たなかったのがよく言うわ」


 クロレアがおかしそうに笑って、陰険とした雰囲気が霧散した。


「え、なに?この人弱いの?」


 その話に食いついたのはエアリス。彼女は、確かめるようにクロレアを見る。


「ぐぬぬ、士官学校の話だろう。クロレア!」

「何度負けたのよ。百戦はした記憶があるわ。一度も負けなかったけど」


ルマーニアは、地面を何度も踏みつけて苛立ちをあらわにする。


「俺は、あのときよりも強くなった。いまなら負けん!」

「そうね。私ももっと強くなったわ」


睨むルマーニアは、涼しい顔で受け流すクロレアに、お付きの女が二人の間にはいった。


「そろそろお時間です。ルマーニア様。我々も食事を取らないと昼の会談に間に合いません」

「そうか。行くぞ、カタリナ」

「はい」


黄金の鎧に純白のマントなびかせて、ルマーニアは去っていった。カタリナは此方側に頭をさげてから彼についていく。一体になしにし来たのやらと周囲一同思いながら、食事を再会する。


「ねぇ、クロレア」


 エアリスが、じーと彼女の方を見た。


「なぁに」


 食事の手を止めて彼女はエアリスを見る。


「彼は何しに来たの?」

「さぁ、おそらく本当に大した意味はないんでしょうね」

「仲いいの?」

「うーん。どうでだろう? 彼とは喧嘩を売られてそれで決闘をしていた記憶しかないわ。でも私は彼が嫌いじゃないわ」


その一言に、キュピーンと全員の眼が輝く。


「それじゃ、好きなのですか?」


明らかに興味津々とアグリアが、全員を代弁して聞いた。が、クロレアは首を横に振る。


「彼はタイプじゃないの。でも、彼に勝負に勝った事で直接的ないたずらが減ったのは確かだから」

「えっと」


マックを除いた全員が困惑した表情になった。


「貴族であるのに属性魔法を使えない。貴族なら強弱の程度はあれ誰もが当たり前に使えるのにね。で、私はそれを使えなかったの。それにそのときの私の態度もよくなかったのかもしれないわね」


彼女にとってあまり暗い過去のはずなのに、いかにもそのときが楽しそうな表情をクロレアはしていた。


「でね、あいつ。さっきのルマーニアが、一人教室に佇んでいる所にいったの。お前が、無能のクロレアかって?魔法の成績以外が良くて、影でしか言われなかったけど直接言われたら、私も喧嘩売ってるの?ってにらみあっちゃった」


「それで決闘になって勝ったのですか?」

「ええそうよ」


エミュの言葉にクロレアが頷く。


「それから彼は、何度も私に挑んで来たの?無能と呼んだ相手に、何度も挑戦し続けた負け続けた。それで彼が弱いんじゃないかって思った馬鹿もいて、私以外でも勝負事が広がったの。それが、学校全隊に広がって、いつしか私たち関係なく決闘場がにぎわったわ」


「まるで闘技場みたい」


エアリスが、羨ましそうに言う。


「ええ。そうかもしれない。早朝に決闘をおこなって授業に出れないなんて事が、頻繁にあったから」


なにそれ、どこのバトルジャンキー?と聞きたくなる程、全員があっけにとられていた。少なくとも貴族の士官学校ではまず見られる事はないだろう。貴族には格、誇りとか様々な要素が相まって、個々での戦闘を行う事は滅多にしない。


「彼は、笑っていたわ。これが切磋琢磨という奴かって。私も、その光景を見てたぶん、初めて学校で笑ったと思う」

「でも。硬貨を投げた時はなんかまんま嫌な奴でしたよ」


 エアリスが、少しだけ頬を膨らませて抗議の視線を送った。


「うーん、私もその真意は測りかねるわ。それに人の顰蹙を買う事においては、彼は得意だし」

「それって褒めてませんよ」


エミュが、飽きれた声を上げる。


「だから、その硬貨もそこまで悪い意味で渡したじゃないと思うわ」


 クロレアにそう言われて、マックは先ほどもらった硬貨を取り出して見つめた。金の硬貨が太陽に照らされてきらりと光った。

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