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追悼の宴

復興が始まり、一週間経って一段落ついた後。生き残った街の者達が薪を焚いて、酒を振る舞っていた。そこには十人も満たないリーンの騎士団の姿もあった。

 

 集団の隅でマックは、一人で杯をあげていた。傷もほとんど完治していて、酒のアルコールが、血を熱くさせる。


「なんで、一人で飲んでいるの?」


ミリアが、声をかけた。生き残っていた騎士団の仲間と杯を交わしていた彼女だが、一区切りがついたのだろう。無言で飲み続けるマックの傍まで来ていた。


「仲間はいいの?」

「ええ、もう済んだわ」


彼女は機嫌良さそうに頷いた。


「墓はどうするの?故郷に?」

「ううん、皆、死んだときは戦った戦地の街にって決めていたの。遺影は家族の元に持って帰るわ」

「ん。そっか」

「そうよ。そっちの方が盛大な墓も建ててくれるし、戦った私たちの事を長い事覚えていてくれるでしょう」

「確かに」


マックは、彼女の言葉に頷く。元いた、村よりも共に戦った街や村の方が自分達の存在を認めてくれた。マックには戻る村がなかったが、村に帰った者達の中に、結局戦場へ帰って来た者達が多くいたのだ。お互いに話題もなくなり酒を飲む音だけが、周りの喧噪に消えていく。


「マックさんは、いつまで戦うつもりなの?」

「んー。たぶん。いつまでも」

「止めたくないはならない?」

「んー」


マックは、酒によって気持ちが軽やかになったのか、杯に酒を注ぎながら口を開いた。


「たぶん、俺じゃ戦う事しか証明出来ないんだと思う」


十年近く戦い、その記憶が離れない。いつだって彼の頭の中に残っている。例え、王都での平和な時間がそれを薄れさせようとも、彼自身は思うのだろうと。ここは違うのだと。


「内の部隊に、姫様がいるんだけどさ」

「へー。姫様?って、姫様!?」


驚いて杯を落としそうになるミリア、逆にマックが意外そうな顔をする。


「知らないの?」

「当たり前よ!どこかの騎士団に入団したのは聞きましたけど、まさかこの騎士団とは」

「意外でもないでしょ」

「まぁ、それは」


マックの所属する騎士団は、決して位の低い騎士団じゃない。王都にいるのがその証拠だった。平凡な騎士団なら、魔物が生息する前線に派遣されている。


「んで、その姫差が俺を必要だっていったんだ」

「へー、それで」


マックの言葉に、ミリアは低い声で聞き返す。何故、この宴席でどうして色恋沙汰の話を聞かないといかないといった顔だ。


「だから、俺は戦わないと」

「はい?なんでそうなるのよ?」

「え?だって、俺は戦って生きて」

「それ以外を覚えればいいじゃない?」


ミリアの返しに、マックはうなった。


「出来たら、苦労は」

「そんなの、兵士であった最初のも一緒じゃない?私はそう思うけど」


ミリアの良いように、マックは言い返せなかった。彼自身がその言い分を納得してしまったからだ。


「覚えていきばいいのよ。だれだって、最初は初心者です」

「ミリアは、どうするの。これが終わった後」

「私は、争い事に向いてないとわかったわ。世界を旅して、それから故郷に帰って探索者や研究者や農家でも出来ない事はないわ」

「随分、広い」

「ええ、私の能力は何でもできるのよ」


勝ち誇ったように、ミリアは笑った。事実、索敵魔法が得意で騎士学校を出た彼女は潰しの効く能力を持っている。なろうと思えば、役所勤めも可能だろう。


「旅に出たら。その話、聞かせてよ」

「ええ、諸国をぐるっと回るつもりですから、楽しみしていてください。あ、もし、王都で昇進できていたら、仕事の紹介もしてくれると嬉しいわ。王都の生活も悪いもではありませんでしたから」

「もちろん」


マックは、ミリアに酌をして彼女の返礼を返す。


「おっ」

「始めるみたいですね」


リーン団長に、ルゥ、その他の団員が音頭をとって歌い始めた。リーンが恥ずかしそうに顔を赤らめながら、高い奇麗な声を響かせる。周囲から野太い声も混ざり、大合唱へとなる。その様子を二人は、遠巻きに見ていた。


「混ざらないのですか?」

「見ているだけでも楽しい」

「いえ、混ざりましょう」

「っと」


ミリアに、手を引かれてマックは集団の中に連れられる。ミリアは既に歌い始めていて、手でマックに歌うように促す。彼は、歌う事になれていないのか,戸惑いながらその合唱に混ざった。






夜があけて、地べた寝転がっていたマックは、頭を襲ってくる痛みに耐えながら起き上がる。酒を深く飲み過ぎたのか、途中からの記憶がない彼は腹を出したまま眠るミリアを見てため息をはいた。


「風邪引くよ」


 いつの間にかけられて地面に落ちてしまっていた毛布を彼女にかける。野外で寝てしまった割に、寒さを感じなかったのは、この毛布と隣で寝ている彼女や騎士団員のせいか。周囲を見渡せば寒さを和らげるために全員が集まり、身体を寄せ合っていた。


マックは、寝ている彼らを踏まないように輪から出る。


「顔でも洗おう」


 彼に取って、身体がふらつく程の深酒は久しぶりといってよくて、また集まって寝るのもどこか懐かしい。つめたい水を頭から浴びて、水を飲んで意識が覚醒した彼はその場に座り込む。宴会の疲れからか、あまり動く気に彼はなれなかった。


 復興されている街を彼は静かに眺める。道に転がっていた屍は残ってなくても、傷だけになった建物がその戦場の跡を残している。


「本当なら」


 こんな傷を残さない方がいい。これは、城壁をぬかれて侵入された証拠だからだ。街が平和で安全なければ人も商人も誰も寄り付かない。今後、この街が発展するには二度とこのような傷を残す訳にもいかなかった。


「でも、どうして。あれだけの魔物が、領内にいるんだ」


 マックは不思議に思う。街の部隊も、警護にはいったリーンの騎士団も決して弱くない。何日も攻め続けられる程の数がいなければここまで追いつめられ事はなかった。どこから侵入された?どこかの戦線がやぶられたのか?


「それはおかしい」


 西の中央の間の都市とはいえ、国の中央に付近に位置するこの街が攻められるのはあまりにも不自然だった。それならば、警備が曖昧な西と中央の境目の街が攻撃されていてもおかしくはないし、その話はきかない。


「将軍にでも聞いておこう」


 マックは井戸から水を汲んでに顔へかけてその場を後にした。


「おっ。マック」

「隊長」


 城壁を付近を歩いていたマックに、城壁の修理の警護を担当していたジオが駆け寄って来た。


「どうだ。身体の調子は」

「大丈夫です。しいていうなら、酒が抜けてないだけ」

「そりゃ半日ちかく飲んでいればな」


飽きれたようにいうジオに、マックは首を傾げる。


「どうして隊長がしっているのですか?」

「あ、それりゃ、あんだけ騒げば、周りか話が入ってくるさ」

「なるほど、確かに」


 隊長の良い分に、納得したのかマックは、修理されている城壁を見た。まだ復興途中とはいえどこもかしこも崩れていて、穴をあけられていた所もあった。報告では、門が破られたと聞いていたマックだったが、城壁も破壊されていたらしい。


「これは、保たないわ」

「だろうな。良く生きていた」


 隊長もあまりの壊れっぷり、生き残った者達へ感嘆の声をあげる。


「魔物が減っていたのは、リーン団長がいたのが大きいと思います」

「あの、幼女、騎士団長かが?」

「はい、魔法で外の魔物を間引いていたみたいです。殲滅魔法が外にむかって何度も放たれているのを見ました」


 それがなければ、おそらく押し切られていただろうとマックは思う。彼女が内包する魔力の大きさは、数百人を越えるものがある。ただし、その力に振り回されていて、上手く使えこなせていないのだろう。またそれもマックは理解出来た。強大な魔力を制御するのは、大自然をコントロールするのに等しいのだから。

 

「なぁ。おまえ、本当に大丈夫か?」

「なにがです?」

「身体だ、身体。無理してないか?」


蹴りを数発、宙に放ったり拳を打つ事でマックは応えた。


「どう見えます?」

「正常だな」


少し、安心した表情になった。


「それと、わかってこともあります」

「あ。なんだ?」


言うべきか、少しの時間マックは悩むも口を開く。


「俺は、姫様にふさわしくない」

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