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カストレの街防衛戦2

「ここは?」


眼を覚ますと白い部屋の中。周りからうめき声が聞こえてくる。


「起きました」


ミリアがいた。顔を血で濡らして甲冑からも血と汚れが目立つ。


「どこ?」

「カストレの街ですよ」


周囲を見渡せば、自分と同じ怪我人が横になって寝ていた。


「外は?」

「今もなお戦闘中です。私も休憩の時間を頂いたので様子を見に来ました」

「そう、他の人は?」

「いないのは残った者だけです。みんな無事でした。ありがとうございました」

「何もしてないよ」


首を横に振ると、ミリアも首を横に振る。


「あそこで止めなければならなかった。逃げる者に魔物は厳しく必要に追ってきます。貴方が、魔物達に脅威と感じさせなければ、捕まっていたでしょうから」


ミリアは、はかなく笑う。それが無理をしているのがわかった。おそらく彼女は初めて部下を失ったのだろう。今はまだ戦場であるからその感情を抑えている。がそれでも、傷ついて異な訳ではない。


「俺も、戦う」


身体を起こして立ち上がる。


「駄目です。まだ寝ていないと。戦える状態じゃないんですよ」

「戦える。この程度何も問題ない」


痛む身体を魔力を活性化させて動かす。ぎちぎちと肉と骨がきしむ音がする。おさえようとしたミリアの手をどけた


「案内して、戦場はどこ?」

「え、でも」

「してくれ」

「わ、わかりました」


ミリアに連れられて、高台へ上る。そこから見下ろされる魔物の数に唖然となった。


「ここ、最前線じゃないよね」

「はい。私もこんなのは初めてですよ」

「だろうね」


内地の人間では絶対に見れない光景。どこから沸き出したかは知らないが、これではいずれ城壁が突破されるのも時間の問題だった。


「市民は」

「城内、中央庁の方へ避難は済ませてあります」

「そっか、門を守りにいこう」


足を進めた横にミリアが連れ添う。


「ええ、おともします」

「自分の部隊の方は?」

「団長に外させてもらってます。直属の皆はいなくなりましたし」

「そう」


指揮出来る状態じゃないと判断されたのか。


「こっちです」

「え、ああ」


手を引かれて歩く。着いたのは武器庫。剣に防具を一式を渡されて身につける。それらが多少、重いと感じるくらいに弱っていた。


「準備は出来ました?」


着替えるのに外で待っていたミリアが顔をのぞかせる。


「うん、終わった」


剣を何度かふって確認をする。大丈夫戦える。


「行こう」

「はい」



城壁につけば、人の阿鼻叫喚が耳に嫌でも入ってくる。城壁に纏わり付く大型種、オークやオーガにトロール。小型のゴブリンまでいて、弓だけでなく魔法まで飛ばしてくる。部隊の損耗が激しいのか、次々と部隊が投入されていた。


「梯子をおろせええ!」


怒号を聞いて眼前にかけられる梯子を蹴りとばす。ミリアは既に、こちらに射かけてくる弓兵や魔法使いの部隊に魔法を打ち込んでいた。


 上って来たゴブリンをけっては落とし、梯子を外しそんな戦闘を半日続け、日が暮れても松明を抱えて攻められ続けた。三日も立てば終わりがない攻防から、此方の部隊の損耗が激しくなり城壁に上られる個所と回数が増えていって、終わりが見えるようになった。


 それでも戦うしなくて、残っている人間が減っていくのがわかってもどうしようもなかった。


「ミリア」


魔法を打とうとしていて、魔力がきれかけてきたのと疲れに寄る注意が散漫になった彼女に切り掛かるゴブリンを斬る。


「大丈夫」

「はい、問題はありません」


彼女は笑っていた。どこか螺子が外れてしまったのか。劣勢にであるのに笑みを浮かべている。


「ここは放棄する!全隊は内城まで退け!」


その声が聞こえて、撤退しようとするも足を止めたままのミリアがいて直ぐ彼女の傍に寄った。魔物が上って来て、もう長々とこの場にいれる余裕がない。


「ミリア、退くぞ」

「何処に逃げるんです。ここが突破されたらもうどこにも」

「いいから」


諦めても剣を持ちゴブリンを倒しているのはいいが、諦めるのは最後の最後まで戦った人間がするものだ。まだ、防衛戦の一部が破られただけに過ぎない。


 彼女を連れて、彼女を案内するように道を切り開く。もうほとんどの人間が残っていないのか。攻撃は集中してくる。それでも、ゴブリン程度の攻撃ならばよほどの急所にでも当たらない限りダメージになりやしない。


「ミリア、あそこだ」

「そこの二人、駆け抜けろ!」


柵が立てられて弓がこちらに向かって放たれる。頭上を越えて弓が後ろに続いていた魔物達に浴びせられる。柵を上って一息つく。矢で相手の足が今は止まっているが、この柵にも取り付かれるのは時間の問題だった。


「ミリア、大丈夫?」


息を切らして、絶え絶えに彼女は咳き込む。魔法の使い過ぎで身体の強化すらおぼつかないらしい。


「ど、どうして、撤退なんですか?」


息を整えたミリアが、声をかけてきた指揮官らしき男に尋ねる。


「門が破られたそうだ」

「それなら、仕方ないのかもしれませんね」


彼女の眼から光が消えた、城壁の方を見た。門が破られたという事は城壁そのものが意味をなさなくなったという事。


「破られた門を押さえるために、かなりの部隊が死んだ。ここまで帰って来た部隊も四割にも満たない」

「ほとんど、全滅じゃないですか」

「ああ、現有戦力で当初の3割もいない」


もう持たない。それが数字で出てわからざる得なかった。


「リーン団長は?」

「あの方は、公爵家の令嬢だぞ。前線に出る訳がないだろう」

「騎士団はどうなっています」


ミリアの問いに、男は応えない。わからないのか応えたくないのか。


「隊長、奴らが、トロールが、オーガが、こちらに向かってきます。弓じゃとまらねぇ!」

「ちっ、一斉射、構え!その後、内城へ退くぞ!」


隊長と呼ばれた男が柵に飛び乗って様子を見る。


「放て!」


弓が、放たれて連続した音が響く。


「退け!」


男達についてく。止まっていたミリアの手を引いた。駈ける、坂を駈けて高台にそびえる最後の砦へ。


「止まれ。ここで食い止める。ここから先には俺たちの守るべき家族達だ。最後まで気張れよ!」

「おおおおぉ」


門を閉ざして全員が城の防備へ回る。もうどこにも逃げ場はない。傷を負っていた、リーンの騎士団がいた。壁に腰をつけて座っていた。ミリアが声をかけようとして止まる。


「ねぇ、起きて」


反応がなかった。傷があって治療も受けずにここまできたのだろう。騎士装束は真っ赤に染まっていた。


「どうすれば、いいの」


ぐたりと倒れたその手を握りしめながら、泣きそうな表情でミリアがつぶやきこちらを見て来る。彼女の眼が死にかけていた。もう戦えそうにもなかった。


「ここにいて」

「あ」


腕が掴まれた。その手を外す。


「大丈夫、負けないから」







多くの市民が内城へと避難したいえ、残っているのは殆ど女子供がほとんどであり、彼女らと同じ階層にミリアを避難させた。下の階層で負傷した兵とともに、傷だらけながらも魔物侵攻を食い止めているも、門が破られて内部への侵入を許していた。


「またきた」


そしてもう隣には誰もいない。あるのは魔物と人の死骸だけ。過去にこういう事があったような気がしたが、どうにも上手く思い出せない。


「痛い」


オーガの一撃を受けて、腕が軋んでいる。顔を蹴り飛ばして飛び乗って首を跳ねる。槍をつきたてられて、吐血する。痛い、苦しい。ああ、こんなんだった。ずっとずっと。忘れていた。


 血が足りない。オーガの血を啜った。もっともっと、力をヨコセ。


「あは」


 悪くない。身体が燃えるように熱くて、槍がさっさ個所の傷が塞がっていく気がした。殺せ。壊せ。身体から破壊しろとの衝動が走る。剣を握りしめて、怯える魔物達を切り掛かった。視界が霞んで、それでも魔物が数が減らない。時間の経過がわからなくない、次第に眠たくなってきた。魔物がまだいるのに。身体が倒れて動かなくなる。


 迫ってくる魔物に、もう終わりなんだと。ごめん。誰に向けての言葉なのかと思った。迫る刃を見る事しか出来なかった。

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