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カストレの街防衛戦1

無事、街ついて一息つく。団長であり今回の責任者である二人は、街の中央へと行った。


「で、ひまだなぁ」


城壁の上を静かに歩くが思ったより町中も外も静かで何も起こりそうな気配がない。


「詳しい話を聞かないとわからないか」


もっともその魔物が原因不明であるために、大した話はきけないだろう。


「面倒」


 ぽけーと、空を見上げた。こういった搦め手の魔物は正直に言うと苦手だ。自身が単純な性格というのもあり、わかりにくいのは苦手だった。


「あ、ここにいましたか」

「なに?」

「リーン様が、お呼びです。至急、中央庁へ」

「わかった」


騎士に礼を行ってから、彼女に案内されるようにしてその場を後にした。中央庁へ入ると、リーンとルゥを含めた5人の人間がいた。


「君が」

「そういうのはいいです」


仰々しく何か言おうとした、男の言葉を止める。


「そうか、まぁいい。私は、ルグ伯爵だ」

「で、用件は」


ルゥの方へ視線を向けると、彼は困ったように笑った。


「実は、敵の動きがないみたいでね。けど、山道を取り戻さないと鉱山が使えない」

「で」

「さっさと取り戻してもらいたいのだよ」


男以下数名が、同乗して頷く。


「君たちは騎士なのだろう?」


その問いに、応えようとするとリーンが正大なため息をついた。


「お言葉ですが、この件は私たちに一任されています。そちらの事情もあるかとおもいますが、指図されるいわれはありません」

「かといって君たちは、今日はなにも」

「しなかった、いえ、しませんでした。私たちは昨日来たばかりです。それも休みもなく強行して」


リーンの眼が強く光った。


「私は、この都市に援軍に来ましたが、部隊に無理も無茶もさせるつもりはありません」

「っく」

「ですから、少し黙っていてください」


リーンは男にそう言ってから、此方に顔を向けた。


「でだ、どうするのだ?」

「どうかと聞かれれば、静かすぎ。魔力も気配も何も感じさせない」

「ん、偵察は、明日の朝行うと思うが」

「あまり深く進むのは反対です、この都市の防衛部隊の一隊が潰されている」


消極的な意見に、男は何かしらの言いたげな顔をする。リーンがそれを一瞥して黙らせる。


「なら、三人の意見は一緒か」

「のようですね」


ルゥもリーンも頷く。


「先遣隊は明日の明朝出します。隊長はミリアに任せる。君には彼女の補佐をやってもらいたい」

「わかりました」

「準備はこちらでするから、明朝、北の門に集合」

「了解」


もう話はないとリーンは言い退室していいぞとの許可が降りてその場を後にした。









明朝。いつもよりも重厚な鎧を着込み北の門へと向かった。


「来ましたね」

「ミリア、だった?」


待っていたのは、随分と華奢な騎士の女だった。戦闘向けの能力ではないのだろうが、それでも力強さを感じさせるのは隊長クラスだからか。


「ええ、部隊の紹介をします」

「お願いするよ」


自身を含め十名近い人数が、彼女の後ろにいた。男女構成として半々といったところ。重装備より、軽装の割合の方が多い。


「と、言いたい所ですが、日が出ている時間も有限です。それに、連携にしても一朝一夕で出来るものでもありませんので」

「うん」

「貴方は、私について来てください」

「了解」

「メノン、貴方が、小隊を率いなさい」

「了解」


ミリアが全員を見渡した。


「では、山道の調査、もとい相手の出方を見ます。全員、無理をしないように」

「「「了解」」」


彼女への返事とともに門を潜り駈けていった。


ミリアの後を続いていたが動きがあまりにも彼女の動きが拙かった。そばに寄って声をかける。


「大丈夫?」

「ええ、少しめまいがします」

「今日は、取りやめる?」

「それは駄目ですね」


首を横に振ったミリアにけれど言いかけたが黙る。体調が不調であれ、常時索敵の魔法を展開している彼女が優秀な事はわかるけども、このままでは1日持たない事がわかるほど、彼女が調子がよくないのが見て取れた。


「見つけました」


山道に入って数十分も経っていないのに魔物が見つかった。他のもの達も、彼女の調子が良くないのがわかったのか、彼女の周囲を固めていた。


「どっち?」

「あちらですね数は、トロール二個小隊、シャーマンもいますね。ご丁寧に隠蔽魔法までかけるているようでなので、罠かもしれないですが」

「潰す?」

「もちろん」


ミリアが、早速もう一体のメノンに連絡を入れるように指示。また隊を速度を少し下げた。


「五分で接触します」

「了解」


ミリアに答え。自身の背中にある大剣を引き抜いた。


「接触します」

「おおおおぉ」


 視界にとらえたトロールを、木の上から強襲する。向こうは隠蔽で外の様子を遮断していたのか、こちらに気づいていなかった。頭上から剣を振り下ろしてまっぷたつにする。周囲を見回せば、他の魔物も打ち取られていた。


「もう終わり?」


 他の魔物もミリア達によって討たれていた。罠としてはあまりにもあっけなかった。まだ周囲をさぐっていあたミリアが、一息ついてから潰されたトロールを見てからため息を吐いた。


「ええ、貴方は相変わらず化け物ですね」

「これくらいは普通」

「普通じゃありませんよ。私達は、あっさりやられてしまいましたし」


ミリアの言葉に彼女と過去にあったか記憶を掘り起こす。けれど、頭から出てこなかった。


「洞窟ですよ。副団長と互角に戦える人間がいるなんて思いませんでした」

「ルゥの事?」

「ええ」

「彼、強かった」

「そりゃそうでしょうね」


飽きれた声を出して、ミリアはまた周囲を伺っていた。結局、何度かの交戦の後、何十という魔物を倒したが、元凶といえるような魔物が見つかる事はなかった。山道の安全を確保してから7日程が過ぎた。


「困ったな」

「ええ」


困った事に何事もおこらない。初日に倒した魔物との戦闘以外、なにもなかったのだ。これでは、魔物の戦力を削るための間引きも行っている事にもならないし、調査といっても変わった様子もない。そして、街からの連絡もなかった。それはこのまま調査を続けていろともとれるが、連絡の一つもこないとなれば先に進んで良いものかと不安にもなる。


「どうしますか?」

「んー。こっちから報告して連絡待ちかな」

「やはり、それしかないですか」


ひとまずこの一週間に得た情報をひとまとめにした報告書を伝令を送るようにミリアは指示を出す。早い事この問題の収拾を望まれているので、先に進みたいが戦力を考えれば今のここにいる面子では数が足りない。


「待つしかないよ」

「相手は、知性を持つオーガとトロールもいるようですしね」


立ち往生。おそらく敵がいるだろう、拠点の前での野営は正直にいえば精神的に疲れをともなう。偵察能力が高い面子がそろっているとはいえ、いつ囲まれても可笑しくない。隠蔽魔法がある限り、視界が悪い森では先行などは以ての外だった。


「まずい」


ミリアが眉をひそめた。少し体調を取り戻してきた顔に、苦悶の表情がうかぶ。


「と、いうと」

「敵が来ました」


その言葉にミリアや他の者達が反応する。


「がぁあああああ」


咆哮をあげて魔物達が此方に向かってきていた。オークとオーガ、更にトロール。巨体を揺らして木々を倒すような地響きが聞こえた。


「全隊、撤退を!」


ミリアは陣を組み直して、まだ見えない魔物の集団に魔法の罠を生成しながら駈ける。攻撃を仕掛けた来た以上、迎撃をする必要があるけれども密かに向こうがこちらの退路を断って囲む可能性もある。囲まれれば数が劣る此方が明らかに不利。


ミリア率いる偵察部隊は、緩やかに街へ帰還したはずだった。


だが、そこには魔物によって街が包囲されていた。


「うそ」


城を攻撃されていて、その魔物の一部がこちらに気がついたのか一団が向かってくる。街も迎撃を行っているがこちらへ部隊を出せるような状況ではなさそうだった。既に、部隊は孤立していた。


「悩むな、そのまま走り抜けろ!」


ミリアが足を止めかけた団員へ叱咤する。部隊は城壁を迂回するように城の反対側へと回る。


「ミリア隊長。地下通路使います。そこから城へ帰還しましょう」

「案内して」


伝令に出していた者が戻って来ていた。その提案にミリアは頷き、声を張り上げた。


「ここは私に任せて、先に行きなさい!」


地下通路に繋がる場所へと異動を開始するために追っ手を止める必要がある。ミリアが足を止めて、逃げる部隊から背を向けた。


「俺も残る」

「いいのですか?」


彼女の傍に経てば、こちらを伺うような彼女の視線があった。


「いつも、その役目を担って来た。今日も同じ」


ミリアの直属の部隊も残るのか迫る追っ手の道を塞ぐために横に並ぶ。全員で20程の人数があつまった。それでも、数十倍以上の魔物が、こちらに突進してくるのに全員の表情から感情が失せていく。死を覚悟した瞳だった。


「ここから先には進ませないわ」

「おおおおおおおぉ」


ミリアの声に全員が雄叫びを上げて剣を抜いた。迫る巨体の魔物達と砂煙をあげて衝突した。



 交戦を始めて、5時間もしないうちに生き残っているのはミリアだけとなっていた。相手の数が一向に減らないのに、こちらが一人一人足れればいずれそうなるのに仕方がないことではあった。彼女と背中合わせになり、魔物と睨み合う。魔物達に囲まれて逃げ場はなかった。


「ほんとに。厳しいな」

「余裕ですね」

「そう見える?」

「私には」


息絶え絶えに、肩で呼吸するミリア。彼女は限界が近そうだった。


「死にたくないわ」

「だったら、肩を貸して」

「いいよ、足手まといにはなりたくないもの」

「そう」


四方からオーガの突進。おそらく躱せないだろう、ミリアを抱えて宙へ飛んだ。


「きゃぁ」

「離れないで」


脇に抱えた彼女を背中にまわす。彼女の腕が首に回りからみつく。たが、空を飛べば周りにはなにもない。それじゃ、格好の的だった。即座に魔法や矢が飛んでくる。


「うぐぅ」


ミリアをかばいながら、痛みを感じながら、着地してオーガを蹴り付けて魔物の集団を突っ切る。額を切り裂かれたのか視界が赤に染まる。


「駄目」

「離すな絶対」


弱まった力に怒鳴ると彼女は再び抱きつく力が戻った。


「どうして」

「君の隊が、君をしなせないってさ」


戦いの中、部隊はミリアをかばうように戦っていた。ミリア自身は精一杯だったから気づいてなかったのかもしれない。残った彼らは、命をとして彼女を最後まで守ろうと戦っていた。


「そんなの」

「君が隊長だから」


兵士が守るものは、案外単純なものだ。特に、死が迫る撤退戦の殿でもう命がないのならそれこそまさにわかりやすい。


「それより、こっちが限界かも」


傷をおって血を流しすぎたのか、身体が鈍くなっていた。飛んでくる魔法から、背に負うミリアをかばう余裕もなくなって来た。


「私を置いて来なさい。貴方なら、一人でも」

「無理だよ」


殿の仲間を見捨てるわけなんてなかった。一人で戦えば脱出出来た?それは不可能だ。平原で囲まれてしまえば、どれだけ早かろうと強かろうと逃げる事は難しい。最初から、一人で逃げれば生きのこる事は可能だが、それはミリア達を見捨てる事にもなる。


「魔法、風の魔法うぅてる?」


吐血する。身体の血管がきれていた。身体に刺さった毒付きの鏃が内蔵からダメージがきていた。


「うてるけど、どうするの?」

「陸が駄目なら、空を飛ぶ」


トロールやオーガの攻撃を躱しながら移動するけれど、相手の数が多く抜けきれないのだ。今はまだ躱していれるが何れに捕まるのが眼に見えた。


「次、飛ぶからその時にお願い」

「わ、わかった」


彼女の返事を聞いて足を止める。少しでも、彼女が魔力を貯めれるようにしやすいために。もちろん、足を止めた此方に攻撃がこないわけはない。時間は数秒もなかった。


「飛ぶ。撃て」

「任せて」


トロールを踏みつけて、また空へ舞う。遠距離攻撃が可能になり矢や魔法に狙われる事になる。が、ミリアが放った魔法に寄って狙いがつけられない程空高く舞い上がった。雲にも届きそうな程の高度に眼をぱちくりと彼女はしていた。


「これって落ち」

「移動する。口閉じて」


上がっているうちに自身の眼前を魔力で爆発させた。その衝撃に流されるようにして宙を移動する。


「ひっ」


 彼女の悲鳴が聞こえた。空から地面へ落ちる感覚を味わいながら、再度爆発を起こして宙を移動する。空を飛んでいるとは言いがたい、ほぼ落下しながら進んでいく。


次第に迫る地上。今がどこかわからないけれど、下が地面である事は変わらない。また正面へ何度も爆発を起こす。浮力が生まれて少しずつ減速する。地表につく最後、地面に爆発を起こして二人は無事着地した。


「ばか、ですね。こんなの」


息も絶え絶えにミリアがつぶやいた。彼女も爆発の反動を受けてそれなりのダメージを受けていた。


「二回目だから、前により上手くやれたと思う」

「二回目?」

「楽しかった?」

「そんなわけないでしょう」


立ち上がる気力がないのか、二人して地面に寝そべったままだ。


「ここ、どこです?」

「わからない。城からそこまで離れてないと思うけど」


場所は平原だった。森でないのが幸いでもあるが、今の二人の状態を考えればどこであっても厳しいものがある。


「生きているのが不思議ですよ」


鉛のようなに重たい身体であろうながら、ミリアは立ち上がった。


「起きれます?」

「無理」


戦闘の傷、何度かの爆発に最後の地面の衝突を受けてか、身体の痛覚すら抜けていた。


「治療、魔法を使います」

「お願い」


彼女の手から暖かい魔力が流れ込む。傷は癒えていく感覚ととてつもない程の睡魔に襲われた。


「ん」

「寝てて良いですよ。私がやっておきます」


返事をする余裕もなく、ほとんど黒にそまった視界の中彼女のささやく声が聞こえた。

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