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カストレの街防衛戦

「訓練を開始する」


 と隊長の声が訓練場に響く。タリアが傷つき、多少の再編を取り返すかのような苛烈な時間が過ぎていく。

 髪も服も肌も汚れても堂々と構えに入る騎士達。

 五人ずつにわかれた組み手。無手で致命的なダメージが受けにくく、簡単に回復も可能。


 倒れては起き。

 傷ついては癒され。


 連携を鍛えるために集団を行う。

 当たりどころが悪くなれば、体力が尽きれば医務室へ直行もあった。

 それが三日間続いていた。


「また騎士団の任地がはいった」

「はい。どこでやるのですか?」


 隊長の言葉にマックは、騎士達の動きを見ながら聞き返す。

 まだ全快とはいえないタリアだが、騎士団と存続するために実績を積んでおく必要があった。


 全快の討伐が不完全であったのもあり、早いうちに次の任地に飛ばされる事はなんとなく理解はしていたし、実力をつけるにせよ実戦の数はこなさないわけにはいかないのだが、どうにも嫌な予感が拭えない。


「シューメール山道に大型の魔物が入ったとの報告があった。あそこには今手透きの部隊はいない」

「時間を稼ぐのですか」

「いや、騎士団には街の護衛をやってもらう。討伐は現地の人間やらせればいい」


 隊長の言葉にマックは眉をひそます。彼女らが後詰めであることは何も異論はなかった。

 けれど、それだけで倒せるのならば騎士団そのものを呼ぶ必要がないのだ。


「大型の魔物相手に現地だけの部隊で戦う?」

「ああ、あのなんだったか、ちっこいのがいた騎士団もついてくるぞ」

「ちっこいとはなんだ!」


 当人がその場にいるのにと、後ろからの抗議の声があがる。

 どうどうと彼女を抑えていや抱えられている。


「それで、見学に来ていたのか」

「ああ、私たちの足を引っ張られたら大変だからな」


 ふんと、小柄な少女は鼻を高くあげて鳴らした。

 隊長はその様子にちらりと見てから、両手を合わせて間接を鳴らす。


「魔力だけはあるからな」

「ふん、お前らなんか、せいぜい盾くらいしかなんないじゃないか」

「ああ。そうだ。幼女」


 彼女の言葉に、隊長は当然と頷いて眼を細める。


「うぅ。こわい」


「幼女には、隊長の顔は恐いのかな」


 彼女は抱えられてる方へと顔を伏せて、また隊長が此方視線を向けてくる。


「ようじょじゃないもん」

「だれが、怖い顔だ。ああ?」


 蛇とカエルのように睨んでくる二人をおいて、その後ろにいたルゥに顔を向ける。


「だから先遣隊として顔合わせ?」

「となりますね。よろしくお願いします」


 差し出された手を握り、こちらこそといって頭を下げる。


「ううぅ、るぅ」


 涙名なりながらの幼女を彼は抱えた。彼に甘えるように抱きつく姿、まんま年少者にしか見えない。

 少し疑問に思った事があり、渋い表情の隊長のほうに向く。


「先遣隊となると、選抜するのですか?」

「いいや。こっちからお前だけだ。相手が、どんなもんか知ってからだな」

「了解。いつ出発で」


 顔合わせとなれば、今の時間を考慮すれば早く明日くらいか。


「今日だ」

「隊長って、馬鹿でしょ」


 と思っていたら隊長のあんまりな答えに思った事が口に出た。


「今、もうすぐ夕方になる」


 空を見上げれば、赤く日が沈み始めている。

 夜目が聞いて、魔力が活性化する月夜は人よりも奴らの方が有利だ。

 人間では、夜間で彼ら程連携がうまくいかない。


「いや、俺、私たちはその限りじゃない」

「ふふん、お前、私たちがただの騎士団と思うなわない事だな」


「まぁ、そういう事だ。あとはお前がついていけるかどうかだが。その点は心配してない」


 二人の言葉聞いて、隊長の言葉に頷く。


「アグリアの小隊は、どうなりますか?」

「代わりにタリアがつくことになってる。本来ならタリアがお前の役割を担うはずだったがな」

「了解。傷がありますし仕方ないです。じゃぁ準備してきます」


 三人から離れて訓練場を後にする。

 横を顔に傷を負った見知った顔の男が通り過ぎる。


「死ぬなよ」

「そっちこそ、しっかりやってくださいよ」

「誰にものいっている」


 小さな声でやりとり。

 二人の口元に笑みがこぼれていた。















 準備をして王都を出発した、総勢150の騎士団が夜間を走り抜ける。

 本来のなら通常のルートから外れた道亡き道。森や山の中を、山猿のよう駆け抜ける。

 それはあの子供のような団長も同じ。騎士というには、あまりにも身軽で俊敏だった。


「着いて来れるんですね」

「まぁ、一応。こういう経験はないわけじゃない」

「ふーん。まぁ。さすが、あの爺の所といったところか」

「リーン、そう尖らない。だから、ベオルフ将軍に子供扱いされるんです」

「ルゥ、だって見るたびに私に飴玉を渡そうとするし」

「なんだかんだ貰っているでしょ」


 視界に広がる木々を避けながら会話を行う。

 二人は相当手慣れているのか、木々あってもほとんど並んだ状態で速度を落とさない。

 それを意外そうな眼で、マックは見つめた。


 ルゥと呼ばれた男はともかく、リーンは見るからに体術の能力がなさそうな雰囲気と体格だった。

 ほとんどルゥにしがみついている姿しか見た事がなかったのも大きな一因だった。


「それより、どういう種の魔物かな」

「リーン、確か。巨人だと聞いたけど」

「オーガ?」

「どうでだろう、その辺りは行ってみないとわからないよ」


 二人の会話に耳を澄ませながら先行する。正直に言えば、マックもルゥと同意見だった。

 オーガだけならば騎士団が呼ばれる可能性も低い。筋肉馬鹿相手ならば、こうして魔を得意とした騎士団は選ばれる必要もなく、その上に騎士団では過剰戦力だ。


 こういう場合搦め手も使ってくる魔物であり、一筋縄ではいかない事しかない。


「どう思います?」

「同意見」


 ルゥに尋ねられたマックはただ頷いた。

 それからそこ冷えするような声音が続く。


「向こうで生きている人間がいればいいけど」

「全滅していると思うのですか?」

「可能性がないわけじゃない。街ひとつ滅ぶ事はほとんどないけど」


 リーンという少女に睨まれながら、マックは最悪の事態を静かに述べる。今回派遣される街は、随分と大きい。それだけに、戦力が整っていて近隣に騎士団が控えていない。


 それが災いしてこうしてわざわざ王都から部隊を派遣しなければいけない。そういう力を持った都市に戦力となる騎士団等、そうそういないのだ。つまり、相手は未知数であり対処がとれていない。既に戦力が削られている可能性が高く、また守りに入っているしかない状況が予想される。


「ふん。だから私たちが行く。向こうも無事だし、負ける事なんかあり得ない」


強気で答えるリーンに、マックはへーと頷いた。周囲にいる人間も、傍にいるルゥもその言葉を当然として受け止めている。そこには、信頼と自負と自身があった。


「まぁ、現地についたら指示をくれ」

「ああ、散々な思いがするくらいこき使ってやるからな」


リーンには意地悪な笑みを浮かべた。そこには、マックは誰かしらの影響を受けたのがわかった。

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