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騎士団と内紛の話

「こうなると、酒が欲しいなぁ」


腰を下ろして二人並んで月を見る。

身内の人間であれば、なんらおかしくない行為。


だが出会って間もないそれも片方が剣を突き立てた間柄。

こうして並んで月見をしているのが、不思議な関係だった。


そのふわふわと曖昧な感覚に、ファリナは居心地のよさを感じていた、


「そっか」

「ん?」


「うんん、今ならお酒も好きになれそう」

「ははは、なら機会があれば飲もう」


男が気軽に誘ってくる。

ファリナ、ええと頷いた。


今なら彼女は嫌った酒をそれも深夜に飲める気がする。


「傷は本当にいいの?」

「いたた、実は死にそうだ」

「嘘!?」

「嘘」


血相を変えて問うファリナに男は笑う。

すぐさま彼女の拳が振り上げられて、彼女はため息を吐いた。


「ひひ、冷静になったか」

「ええ、おかげさまで。ところで聞かないの?」

「んぁ、もういい」

「そう」


男からの興味が失われたようで、彼女の胸に小さな痛みが走る。


「今は、それよりもこの月だ」


男は、嬉しそうにまだその景色に眼をやっている。

ファリナは、男の視線を奪うその月に多少の嫉妬の思いを持ちながらじっと男と同じく見つめる。


確かに奇麗な満月だ。


だが、彼女にとってそれはそれだけのも。

男のように熱中してみつめつづけるものではない。


どうしてと疑問に思うが聞けない。


「貴方は何をしているの?」

「暗殺」

「えっ?」


それよりも男の詳細が知りたくたずねた。

ただ、返ってきたその返答に言葉を失う。


「本当。まぁそれだけじゃないな、情報収集もまぁ少し」

「将軍所属っていうのも」

「それは本当」


男は幾分か、感情を潜ませてまだ月を見て言う。

嘘じゃないか。

とファリナは思いながら半信半疑ながら頷いた。


「信じるんだ」


ファリナの心をついた言葉に彼女は息が詰まる。


ファリナが冗談と思えば、冗談でしょと両断する。

彼女はそれくらい割り切った性格でもあるし、マックとジオとの会談の時でも内の表情を隠せない事でよくわかる。


貴族としては致命的な弱点であり欠点でもあった。


「おまえ、かわいいな」

「っつ」


ファリナを見ながら言われた男の言葉に、彼女は返答を返せない。

平静を取り戻して何か言おうとした時には、また男は月を見ていた。


それにファリナは、はーと息を吐いた。

惑わされている。

それも彼はファリナを気にしていない事から、意図せず素でやっているのだろう。


ファリナにとって相当相性が悪い。

必要以上に意識している事を、彼女は自覚していた。


「それで結局話も聞かなくて、どうして私の所に来たの?」

「わからん」


男は、数秒程考えるそぶりを見せるがやーめたと言ってからファリナを見た。

いやに真剣なまなざしに、ファリナは胸の鼓動が少し早くなる。


「泣いている人間がきらいだったからだろうな」

「えっと」

「だけど、泣くなとも言える訳ないからな。でだ、だったらその原因の理由を聞いてそれをなんとかすればいい」


そこで男はふっと笑った。

優しい、子供を見つめるような暖かい瞳。

それに多少の反抗心がファリナから生まれたが、彼女はぐっと抑えた。


「だから、聞いたの?」

「ああ」


男の頷きに、ファリナは驚きと飽きれの混じった気持ちともう一つ形容しがたい感情が生まれた。


「どうして、暗殺や間諜の仕事を?」

「他の奴らじゃ、残った奴らじゃぁさ、出来っこないからな。やらせたら、すぐ壊れそうだし」


だから俺がやるんだとのんきな表情でガルベスは言った。


「このことあいつらには内緒な」

「ええ、わかった」


それから二人してただ月を見ていた。

太陽が昇り、月が見えなくなるまで。












日がのぼり新たな一日が始まる。

ガルベスという男にとって、朝は寝ていてもいい時間だった。


仕事も区切りがつき、直属の上司である将軍に報告した。

その時点でほとんど無休で働いて時間を取り戻すように休む予定でもあった。


だがいつものように時間、日が昇る時間まで起きていた。

昼夜逆転し夜の街を生きるようになったため明るい空というものは眼に慣れないなか自室で向けた足が止まる。


「名前くらい言っておくべきだったか」


夜をともにしたというのに、名前も教えずに別れていた。

こちらは向こうの名前を知っているだろうが、彼女がこちらを調べだす事は不可能だろう。


なにより、こちらの事情もなんとなくさっした向こうも踏み込んでくることはなかった。


「つっても、いまから会いにいくのもなぁ」


名前ぐらいでどうにかなることもない、そもそもガルベスという人間にとって価値のないもの。

これからその騎士団に多少関わる事になりそうではあるのに、呼称というものがないのも不便ではある。


「あー、あいつら二人を茶化すとそんな目的で訓練に参加するとか」


名前を教えるついでに、彼の戦友である訓練に割り込むのも、それは面白そうだとガルベスはにやにやと笑った。二人の特にジオの嫌そうな顔が簡単に想像できた。


「隊長、ここにいましたか」

「あ? なにかあったか?」


部屋に入ろうとしたところにメイドの姿をした人間に話し掛けられる。


「少し、お耳にいれたいことが」


すぐのその笑みはしまわれて、ガルベスはそのメイドに眼を向けた。


「で、なにがあった」


ベットだけがぽつんとある、ガルベスの部屋に入って部下が報告を始めた。


「ルーニェ伯爵が、口を割りました。どうやら、この件に西公爵家が関わっている模様です」

「っち、それは面倒だな」


部下の報告。

西公爵家とは、この国の貴族を四つに分けた勢力勢の一つ。


今回の件の騎士団長が東公爵家であり、姫様を使って内密にその護衛に当たったの北公爵家の人間。


「南はどうなっている」

「現状は、静観なさっているようですが」

「事が、動けば動く。あそこは歴史的にそういう家柄だ」


西家と東家の対立は今に始まった事じゃない。

中央は常にその争いに介入せざる得ない状況だ。


西は南。

東に北。


根深いが故にその争いも陰湿で表に出てないが、南での魔物との戦いが落ち着いてきた現状が一番危険だ。

南が、西に力を貸せば現状の勢力差はひっくり返る。


中央と東で抑えこめるかといえば怪しくなってくる。


「今はまだ、王家直属の四将軍の力があるからいいものの」

「王族派のベオルフ将軍が、退位されればどうなるかわかりませんよ」

「んなこと、わかってる」


中央としても早急、なにかしらの手を打とうとしているのだろう。

王族の権威がいかに強いといっても、


これが表沙汰になっていけばこの国が滅ぶので、どうにかして南の戦力を削る必要がある。


「南一派の貴族についている人間、それをひとまず潰す。またお仕事か」

「はい。リストは既に作ってあります。フェイクのために、幾人かの無関係の人間も巻き込むことにはなりますが」

「仕方ない、戦争になればもっと人間が死ぬぞ」


ガルベスは、そう言い切ってからメイドと部屋を出た。

手に入れたリストを見ながら、はぁとため息をはく。


そこにあった人名の名に。


「騎士団の関係者もあるのかよ」


苦虫をつぶした顔をガルベスは、舌打ちした。

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