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失敗の話

隊長と騎士達と合流して、外で待っているアグリア達の陣営に無事集合する事が出来た。

幸いな事に中に突入して部隊は全員生存していて、団長と副団長がうなだれていた。


「で、なにか言いたい事はあるか?」


隊長の怒気が混じった声にびくりと二人は肩を震わす。


「まぁまぁ、皆生きていたし」


リーンと言ったちびっ子が隊長をなだめるように二人をかばうように間に入った。

彼の保護者であろうルゥは手を額にあてて、バカと小さく漏らした。


「助けてもらったところ悪いがおたくらは?」


息を吐いてから、隊長はリーンを見た。

気圧されるように彼女は後ずさる。


眼は涙で滲んでおり、今にも泣きそうである。

一体に、隊長はどんな表情をしているのだろうか。


後ろ姿なので想像しか出来ないが、さぞ怖い表情を作っているのだろう。


「それは、私が説明してもいいか」

「ルゥ」

「いいから、下がってろ」

「わかった」


選手交替と彼が前に出る。

隊長の表情は変わらないが、内心ほっとしているのがわかった。


子供のような容姿の人間を集団の前で泣かせる趣味はないだろう。


「私たちは、宮廷魔導士団。今回は変異した魔物が来ているという話を聞き内密に調査しに来ていました」

「俺たちは、そんな話を聞いていない。正式なものであれば、近くに展開する部隊として情報が入るはずだが?」

「なにかの手違いでは?」


その言葉に隊長は鼻をならしてあきれるような馬鹿にするなという所作をとった。


「ありえんな。小隊ならまだしも百人もの部隊の情報伝達は手違いではすまされるわけがない」


隊長の言葉に、ルゥは黙った。


「けど、隊長。あそこには確かに、変異した魔物がいたのは間違いないよ」


とはいえ敵である可能性が減り、身内を助けてもらった礼がある。

それを隊長もわかっているのだろう。


そうだなといってから、小さくなり俯く、団長と副団長を見た。

もはや、威厳は公爵家という貴族として威厳はほとんどない。


叱られるのを前にした怯える少女でしかなかった。


「内の騎士団を助けてくれた事には、礼をいう。ただこれはうちの問題だ」

「ええ、それはこちらが失礼しました」


彼らの存在を問いただす事を止めた隊長は、二人に釘を刺すようなに言う。

ルゥの返答に、リーンはなにか言いたそうな顔をする。

彼が小声で止めとけと言った。

彼女は静かに俯いた


「リーン様。いいのです、今回のことは、私が悪いのですから」

「だけど」


団長の苦しい表情にいたたまれない顔をリーンが向ける。

どうやら知り合いらしく、そのため彼女の身分も確かなものわかる。


俺が二人に視線を向けていると、さっと彼女が男の後ろに隠れた。

ルゥが苦笑いを浮かべていた。


すまん。

と口パクで彼は誤った。


「何故、洞窟へと深追いしたのか。その理由は聞いている。だが、部隊を危険にさらしていい理由にはならない」


問題ないと返してから、隊長が話を戻し始めたのでそちらの方に視線を向けた。


「はい」


沈痛な面持ちで団長は頷き隊長はこっちを見た。


「だから、マック」

「えっ、はい」


当然話しをふられて慌てて返事をする。


「当分の間は、お前が指揮をとれ」

「え?」

「団長、副団長の権限はとりあげる。力をつけてもこいつらは子供だった」


厳しい一言が隊長の口から漏れた。

何人かが、あまりの言葉に睨みつけるものの隊長に見つめ返されてすぐさま俯いた。


いつもなら、必ず言い返すだろう副団長は震えるように俯いたままだ。


「期限は?」

「無期限だ。最悪、騎士団の解散を将軍に上申するつもりだ」

「本気ですか?」

「ああ」


これは、本気の眼だ。

そして幸先が悪い事になった。











撤退を開始する前に、アグリアのいる小隊を呼び出した。


「という事があった」

「あの、それは。本当に?」


小隊を代表して、アグリアが問いかけてくる。

頷くとだいなりしょうなり怒りの表情を全員から見れた。


「もっとも解散になる事はないと思うけど」


しかし今回の失敗は痛い。

抑えにつけていたタリアの上申を無視して洞窟に入り。

また部隊をかばうために彼女が、異常種の魔物と交戦。


タリアが騎士達をかばう形で重傷を負って、本当に運良くこの場にいた魔導士団に助けられた。

しかも、洞窟の瘴気にあてられて騎士達が幻惑にかかり、魔導士団に剣を向けるという失態までやっている。


話を聞く限りダメダメだった。

たとえそれが洞窟にゴブリンの襲撃を受けた行商達を助けるためであっても。


なにより洞窟に逃げ込んだ彼らは、見つかる事もなくおそらく騎士団が助けにいく前からとうに死んでいただろうから。


一度ため息を吐いてから、この場にいる面子を見る。


「取り合えず団長と副団長の指揮の権限がなくなったから、彼女らに従った部隊長も降格になったから」


この言葉に全員がびくりと肩を震わせた。

緊張した空気が全員から感じられる。


仲間の降格。

これは兵士や騎士であっても変わらないらしい。


ひどく悲しい彼らの表情を見ればわかる。


「除隊ですか?」


クロレアの問いに首を横に振った。

途端にほっと全員が安堵のため息をする。


「また全員横一線で訓練をやり直す」

「団長と副団長は?」

「現状、指揮権がなくなっただけ。そこは変わらない」


部隊のトップはそう簡単に変えられない。

何より今回は、ある意味国に取って数少ない女騎士の部隊だ。


代わりがそう簡単に見つかるわけもなく、いたとしてもその部隊の要の人間だ。

引き抜ける訳がない。


それ以上に。

責められるべきは、あの二人だけではない。

初勝利によっていた騎士団全員に言える事だったと思う。


あまりにもあっけなくゴブリン達を蹴散らしてしまった。

おそらく彼女達以外の人間が指揮をとっていたとしても同じ事が起こっていたと思う。


よくも悪くも使命感と正義感が強すぎる。

まぁ救われた人間がいないわけではない。


依頼してきた者達は少なくとも。


その思いは無下にするべきではない。

此方側で生きるのなら。


「認識の甘さが、命を奪う」


その言葉はいつかの自分に帰ってくる。


「取り返しがつくことならまだいい」


これもそう。


「駄目だ。そうおもった時では遅いんだ」


ああ。

本当に。


黙って聞いてくれた彼女らに指示を出さないといけない。


「退却の指揮は、アグリア。補佐にクロレアがやって」

「はい」

「了解です」


アグリアから多少の不安が感じ取れる。

今から部隊の全員の命を預かるのだ。

その重さは今回の騒動で理解しているのだろう。


だからこそ俺が指揮を執るよりは意味もある。


「残りは中隊長。他から部隊長を選出しておいて」


頷いて全員が出て行ったのを確認してから椅子腰掛けた。


「問題は、タリアの事をどうやってアグリアに伝えることか」


未だ意識が戻らない。

その事を知ったアグリアの表情が悲しみに染まるのを簡単に想像できてしまった。

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