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釣りをする話

 水を飲み休憩していた馬にまたがり、釣りのポイントへと移動していた。

 ここより先に進んだところに、大きな泉がありそこは絶好の釣りポイントらしい。


 用意した焜炉をそのまま尻目に移動を開始する。


 隊長曰く素人でも釣れるから心配するなと渡された釣り竿を二本取り出す。

 昨晩に仕掛けも彼に教えてもらい釣りをする分に十分であるが、まさか食事のために釣る前提になると思わなかった。


「マックさんは、釣りの経験があるんですか」

「ないよ」


 私と一緒ですね。

 と微笑む彼女。


 そこは先に不安になるところだと思った。

 楽しそうな彼女を見ていると、まぁいっかとは思うけど。


 釣りのポイントにはすぐ着いた。

 一面に広がる水のたまり場。

 大きな泉が広がっていた。


「きれいですね」

「うん」


 透き通った水。その中を泳ぎまわる魚も見える。


「王都の近くにこんな場所があったなんて」

 

 貴族や王宮で見かけたどの絵よりもきれいだ。


「釣りをしよっか?」

「はい」


 馬からおりてさっそく釣りを開始した。






 仕掛けを用意して、水面に二人して糸を垂らす。

 風によってさらさらと揺れる木の葉の音を聞きながら自分の竿を意識する。


 ただただ時間が過ぎていく。


 すると自分の右肩に、温かい微かな重みを感じた。

 そこを見てみると。


「寝ちゃったのか」


 温かい天気と涼しい包むようなやさしい風に眠気をさそわれたのだろう。 

 すーすーと寝息を立ててもたれかかる彼女がいた。

 起こすべきかと悩み、伸ばした手が止まる。


「いい匂いがする」


 そのまま彼女の首元に顔を押し付けてしまいたくなる衝動を抑えながら視線を釣竿に戻す。


 触れる体温と耳元をくすぐる寝息。

 いつまでこのままでいれるのだろうか。

 俺と彼女は。


 本来ならこうして一緒にいることもありえない。

 触れることだって許されない相手だ。


 生きる場所が違う。


 自分が血に染まった動物なら、彼女は人の手によって育てられた花。

 本来なら出会うことさえなかったはずだ。


 もう一度だけ。

 そっと彼女を見た。


 よく寝ている。

 安心した表情で。


「それが、嬉しいと思ってはいけないんだろうな」


 眠る彼女にそばにあった外套をかけた。


「でも、これって釣れたら、おぉ」


 起こしてしまうだろうな。

 そう思った瞬間に竿から重みがかかり、ギュッと手に力を入れる。

 しかし、座ったままでは吊り上げることもかなわない。

 もったいないなぁと思う気持ちを抱えながら隣で眠るタリアに声をかけた。


「タリア、釣れたから起きて」

「……ん」


 眼をさすり身体から離れたのを確認すると立ち上がり竿を引き上げる。

 大人の腕くらいの大きさの魚が釣れた。


  宙に浮いた魚は、吊り上げられた勢いのまま寝ぼけている彼女の顔に直撃した。

  悲鳴が上がる。

 

 びちびちと地面をはねる魚と、もだえるタリア。


 釣れた喜びより、この場の混沌さに戸惑いが生まれる。

 笑えばいいのか、喜んでいいのか。


 あたった個所の顔を手で抑えながら、タリアが立ち上がった。


「なにがあったのですか」


 こちらに視線を向けながら、それから跳ねる魚を見る。


「釣れたんですね」


 嬉しそうに微笑んだ。

 が、すぐにしゅんと落ち込んだ表情を見せる。


「どうしたの?」

「寝てしまって、申し訳ないと」

「いいよ、別に」


 良い思いもできたし、おもしろいのも見れた。

 彼女が持っていた竿を取り彼女に渡し、魚から針を外した。

 大きいのとぬるぬるとしていて両手で持たないと持ち難い。


「大物だな」

「これって、ティチェですね」

「ティチェ?」

「はい、目出度い時によく料理で出てくるお魚ですよ」


 へーと、彼女の言葉に頷く。

 大きさだけでなく厚みをあって美味しいそうだ。


「おいしいの?」

「はい、なかなか取れないそうですから」

「よっしゃ」


 おもわず手を握りしめた。

 少なくとも肉なしの食事は免れたようだ。


 ぐーと彼女のお腹がなった。

 お互いの視線が合う。


「ご飯にしよっか?」

「……はい」


 彼女は、頬を赤らめて頷いた。

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