騎士団初実戦の話
「見つけた」
休憩をはさみさらに山の奥深くへ進むとミオンが静かに声を上げた。
「どの辺り?」
「ここから、山一つ越えたあたりのところ」
「じゃ、すぐ傍だ」
戦いが近い空気を感じたのか全員から緊張感が漂う。
固くなってしまうのは問題ではあった。
気の利いた言葉をかけるべきだった。
「エミュとエアリスってどっちが大きいの?」
「「ッツ」」
視線を胸に向けて、二人のふくらんだ部分を交互に見る。
鎧の下に隠れているがその大きさによって鎧の大きさも変わってくる。
スレンダーの女性は、壁のように膨らみのない鎧を着込むが大きい彼女らは別だった。
鎧ですら隠しきれないくらい、どうしても膨らみがわかってしまう。
これが格差というものか。
などと考えていると、二人の顔が真っ赤に染まり他の娘達から冷たい視線が送られる。
あれ?
なにか間違えたのだろうか?
あの頃からこういう時の話題といえば、下ねたが主流だったような気がするのに。
「マックさん?」
そこ冷えするアグリアの声。
「怒りますよ」
「はい、ごめんなさい」
もう怒っているじゃないかとは言えない。
すぐさま謝って視線をミオンが差し方へ向けた。
「戻ったら、覚悟しておいてください」
なにを?
と聞く勇気はなかった。
戦闘は、始まってみれば全員がそれとなく動く事が出来ていた。
視界にとらえたゴブリン達を強襲に成功し、慌てふためく間に殲滅に成功。
「あっけなかったね」
「うん」
エミュの言葉に、エアリスが神妙に頷いた。
全員がたった数週間の間に、変わっていっている事を自覚していた。
本当に隊長はうまい。
人を一流の戦士にさせるのが。
「まだ、本隊がいるはずだから」
「そうね、気をつけないと」
俺の言葉にクロレアが追随する。
ただ静かにアグリアがゴブリンの死体を見ていた。
「また、見つけた」
「近い?」
「こっちに来てる」
向こうも察してきているのだろう。
ゴブリンとはいえばかではない。
中には、人間が使うような魔法を使う危険なやつもいる。
「正面から30体。弓矢もいる」
「少し引いて迎撃しよう」
弓兵だけならばそれほど厄介ではないが、シャーマン等の魔法師がいれば脅威だ。
この場で戦う事を放棄して奴らを誘因するように下がる。
仲間の屍を見たあいつら怒りを増しておってくるだろう。
そこに罠を張り潰す。
意図も伝わっているのか、理由も聞く事なく全員が悠然と引いていく。
「ミオンは合図を。エアリス、クロレア以外は、遠距離の攻撃の準備」
「「「「了解」」」」
エミュが視界の悪い位置に落とし穴を作り、そこに落ちてきたのを串さすためのスパイクをしく。
アグリアとエアリスは木の上にのぼり視界を確保。
身軽になれるためかいくつかの鎧も外していた。
エアリスとクロレアが二人から援護を受けやすい位置で待つ。
「きました」
ぞろぞろと生えるように現れてくる緑の軍団。
棍棒で軽装が主体の雑兵だった。
「迎撃!」
また戦闘が始まった。
「はぁ!」
「やぁ!」
クロレア、エアリスがゴブリン達を切り裂く。
アグリア、ミオンが魔法を行使してゴブリン達を沈める。
此方の側面を討とうとして、他にも落とし穴に落ち串刺しとなった奴ら。
その討漏らしたのをミオンと俺で処理する。
周囲の状態に気が配れるほど余裕があった。
「弓を潰して!」
射かけられたのだろう。
気に背を預け射線から隠れるようにしてクロレアが叫んだ。
「了解」
アグリアとミオンがその先へ魔法を放ち轟音がなった。
その後にエアリスとクロレアが突っ込んでいく。
「おわりですか?」
「みたいだね」
隣に来ていたミオンが訪ねてきて、それに頷く。
周囲の気配もなかった。
「本隊の方に合流しよっか」
集まってきた全員の様子を見る。
かすり傷もない。
まだまだ戦えそうではあるが眼に見えない疲労もたまっていそうだった。
ここらが潮時かなと思った。
本隊隊長の隊と合流すると向こうも何度かの交戦をしたようだった。
とはいえないほど意気軒昂の状態だった。
陣も敷き結界も張ってありここにいる人間が安心しきった様子でもあった。
アグリア達と分かれてから陣の奥へと入ると、椅子に腰掛けて周囲の地図に眼を凝らす隊長がいた。
「そっちはどうだ?」
「負傷者はなし」
「こっちもだ。後は、山の洞窟のほうにいるみたいだな」
「数が少ないみたいだけど」
「退いた奴らの追撃だ。もうじき戻ってくるだろう」
となるとここに残っているのは、攻勢に向かない面子か。
よほど隊長は入念に、ゴブリンとやり合うみたいだった。
一気殲滅しない所を見るとなにかしらの懸念があるのだろう。
となるとどうするべきかと地図を見た。
潰したいがこの近場にある洞窟に逃げ込まれるとなればまた変わってくる。
「打ち切りかな」
「ああ、たまに中におっかない化け物いるからなぁ」
人里に降りてこないで、洞窟を根城にする化け物がいる。
竜ももちろんだが、魔物を食らう生物は総じて強い。
危険を冒してまで、ゴブリンを狩る必要はなかった。
脅威となる数は随分と減らしていて、成果は出ていた。
二人とも意見が一致して、王都へと退却しようと結論が出た時。
陣営に女騎士のだれかが駆け込んできた。
「大変です」
「ゴブリンを追撃した部隊と連絡がとれません」
まだ、終わりそうになかった。




