閑話 休日の話2
装飾屋で二つの品を購入してその一つを彼女に身につけてもらってから今は花屋にいた。
季節の花が色とりどりと並び、安らかにさせる花の香りが店内にはあった。
店員の女性はにこにこと此方の様子をうかがう。
「なにいたしましょう」
「コサージュをください」
少しだけ上擦った声でアグリアが答える。
店員はそのアグリアを微笑ましいように見ながら奥へと案内する。
先ほどの店主ものんきに笑っている彼女も、まさか平民の花屋に平民の格好でしかも男を連れ来たのが自国の姫様とは思うまい。
「では、こちらへ」
案内されて別室へとつれられる。
作業台がありいくつかの花があった。
またいくつか誂えた花のコサージュがあった。
「さぁ、どれにいたしましょう」
その中の花から選べということだろうか。
十種類近くの花が並べられた。
アグリアがうーんと悩む。
「知らないお花ばかり」
「ええ、それではぜひ後で意味をお調べになってください」
楽しそうに笑う店員さん。
どうやらこの場にある花は、あまり知られているものではないらしい。
もっとも俺はメジャー花すら知っていないだろうけど。
何か知らの意味がある花を手に取ってみた。
匂いをかぎ、またその色や形を見る。
俺は本能で一つの花をさした。
「これがいい」
「アイリスですね。わかりました」
「えっ、これがアイリス」
アグリアが驚いた声をあげる。
「はい、この辺りではない品種のものです」
店員さんは、少しだけ誇らしげに言った。
アグリアも花を選び終えて、お互いに店の休憩室のようなところで花の蜜がはいった甘いお茶を飲みながら待つ。
アグリアがそわそわとしていて落ち着きがなかった。
とくに手が近寄ったと思ったら離れてたりしている。
「サルビアとアイリス。どういう意味なんだろう」
「ええっと、さぁ」
「調べてみよう」
「っそ。それよりも、お腹がすきました」
見るからに動揺しているアグリアだった。
これはどちらとも、意味を知ってそうだった。
「そうだね、どこで食べよう」
こういう時に、どこで食べればいいのだろうか。
買い物の本や男女のつきあい方と書いてあった本を参考にしてここまで来たが、食事所に関して言えば参考になるのは乗っていなかった。
つまりここから送受の花を終えてから自分で考えて動かないといけない。
「お待たせしました」
お互いに黙ってしまった。
その沈黙の空間を破るようにして、ちょうどいい頃に店員さんが花を奇麗にしたてたコサージュを盆にのせて持ってきた。
一つは一般的に女性が髪につける花飾りのもの。
もう一つは、男が襟につけるタイプものだ。
「付け方はわかりますか」
「はい」
俺は頷いて手に取った。
その辺りも本で下調べもしてあるし、これは何度か経験があった。
稀にある仲間の死体が残った時にする葬儀で使ったりもしたし、部隊を去ったある仲間の教授のおかげでもある。
隊長以上に女性関係が大変だった仲間がいた。
それこそどこでも女を口説き、かつ喜ばす言葉や行動を熟知してなおかつ顔がよかった男。
それだけに多くの女性と恋を育み、多くの女性を喜ばせ、そして泣かせたある意味最低かつ自由人な男だった。
女性関係が元で部隊を転々とした、唯一の男でもある。
生き残りの中で、王都に戻されたなかった奴でもある。
あいつもまたどこかで元気にやっているのは確実だろうが、彼に巻き込まれるのだけは勘弁願いたい。
「…...慣れているのですね」
「まぁ、いろいろあったから」
驚いてから微妙に不服そうなアグリアにその当時の頃を思い出す。
新米だったころそいつにつれられて街に繰り出し、そいつが裏家業の女性と一悶着して大変な眼にあった事。
暗い雰囲気のなかで悲しみの表情をしながら、仲間が土へと帰るのを見送った事。
思い出せば思い出すほど、碌でもない事に巻き込まれた気がする。
彼女の髪につけて自身の胸ポケットにつけた。
「あの」
赤らめた彼女に。
微笑んだ。
「ありがとう」
「えっ」
驚く彼女の顔にキスをした。
眼を見開き、思考が停止した彼女の顔が見える。
後ろで口元に手を当てて驚いている店員がいる。
この後彼女に怒られるだろう。
でも悪くなかった。
今が幸せな気分んならば、何も悪くなかった。
ただしこの後ご飯を食べるまで彼女の機嫌なかなかなおってくれなかったのは、少しもったいない事をしたなと思った。




