小隊の任務の話
「どういう事ですか」
「そのままの意味」
「会えるのですか?」
「今は無理だ」
数十秒ほどだっただろうか。
今度は彼女の方が折れた。
まだしゃべる事ができないと理解したのだろう。
「いずれ、会えるのですよね」
「必ず」
会わせる事は出来る。
だがそれが彼女に取っていいかはわからない。
話はそれで終了だった。
完全に眼をさました彼女に後は任せてこの場を退室する。
「やることが増えていくなぁ」
向かった先は隊長の一室だった。
「寝ているな」
ドアをあけて中に入れば暗かった。
彼に早い段階で耳に入れる必要があった。
王都に来てからずっと使用している隊長の執務室。
がらりとした何もない部屋。
目立つものと言えば、仮眠用のベットぐらい。
「ってぇ、うわぁ」
隊長が寝ているだろうベットにつくと、そこには二人の人影あった。
暗くて顔はよく見えないが、女は隊長の腕を枕にしてすやすやと眠っていた。
「あー」
ベットの傍には、脱ぎ捨てられた衣類がある。
お楽しみの終えた後なのがわかる。
ぽりぽりと頬をかいてから、起こさぬようにこの場を退出する。
「ベオ爺のとこにいこ」
この場で隊長を起こす、やぼな事はできなかった。
「で、ベオ爺は起きてるのか」
場所はうってかわって、将軍の執務室。
警護も厳重で、なんども足を止められた。
ただ顔見知りの人間が多いので、所用があるといっただけでここまでこれたのはありがたい。
本来なら、突き返されてもおかしくない時間帯だった。
「おぉ。マックか。入れ」
ドアの前に立てば、かすかに開いた隙間からベオ爺の声が流れてくる。
言われるままに扉をあけて入った。
「まだ、仕事ある?」
「もう上がるさ」
俺の問いかけにベオ爺は紙にサインを入れていた。
「珍しいな、お前がわざわざここに来るのは」
「少し、用事ができたらから」
「そうか」
机にあった複数枚にサインとはんこを押してからベオ爺は顔をあげた。
「で、なんのようだ」
「病室に行きたい」
「……理由は?」
「会いたいから」
俺の言葉に、爺は考えるようなそぶりを見せる。
「それは、お前がか」
言葉がつまった。
答えられなかった。
「違うな。誰だ?」
「言えない」
「あそこに、部外者は連れて行けないぞ」
爺の厳しい視線。
そんな事はわかっていた。
俺が黙っているとベオ爺はため息をはく。
「まぁ、お前が勝手にいくなら止めはしない。最近は警備が厳しいから、仮面はもってけ」
「助かります」
自己責任とはいえ一応の許可はもらえた。
ただし見つかれば命は危うい。
果たしてこれはリスクに見合うのだろうか。
だが、そんな事は考えれば行動は起こせない。
ベオ爺から渡された複数のお面を片手に部屋を退出する。
「ああ、待て。ひとつ、お前に頼みたい事がある」
呼び止められて振り返った。
「マックさん、こっちです!」
「了解」
ベオ爺に言われた事を考えていて、距離が少し多めに開いていたらしい。
アグリアに呼ばれ、先に足を止めた彼女達の方へと急ぎ足で歩いてく。
周囲は、密林視界が悪く足場も凸凹としていて木を抜いていると足を取られそうになる。
「随分と、アグリアはなれているんですね」
「えへへ、何度か外に出たの」
「そうなのですか? 魔物がよく出る山岳に」
「うん」
子供が褒められたように嬉しそうに語るアグリアに、クロレアは優しい笑みを浮かべながらすごいと彼女を褒める。
その様子に緊張していた他の面子も多少和らいだように微笑んだ。
「油断しないように」
「むぅ、マックさんが遅れていたのに」
友が出来たから年相応に幾分子供らしくなったアグリア。
悪い傾向だとは思わないが、ここは魔物が生息する山だった。
「エミュ、あそこでひとまず休憩しようか」
抗議の視線をあげる彼女は放っておいて、視界が良さそうな場所を見つけてそこをさした。
「はい、ミオンどう?」
「魔物は近くにはいないと思う」
「なら決まりね」
エアリスが大きく頷いた。
むぅとアグリアが頬を膨らませる。
クロレアがその膨らんだ頬を突いて、いきがプスゥと漏れた。
「まぁまぁ、お仕事中だから」
「わかってます。そんな事」
アグリアは、示した方向へずんずんと先に行ってしまう。
慌ててエアリスやクロレアが後を追った。
さらに遅れて、ミオンが追う。
「はぁ、困った」
「あはは」
後に残ったのは、エミュと俺も急いで追いかける。
「陣形の時から、どこかおかしい」
「それは」
なにか言おうとしたエミュは口を閉じた。
「身体能力が高い、クロレアやアグリアにエアリスが前衛。サポートが得意なエミュとミオンが後衛」
何も間違ってないと思うけど。
いくらか考え直しても、アグリアが不機嫌になる理由がわからない。
「理屈じゃない」
ミオンに追いつくと、彼女は俺の顔を見ていった。
なにを考えているかわからない無透明な表情。
そこから答えを得ているという確信を伝える視線。
彼女が理解している事に悔しさが微妙にあったが、陣形に不服があったとして変更は利かない。
「これが最善だ」
あの三人はいずれ指揮を執る人間だ。
前衛を経験させる事は必須であるし、逆に後衛の二人は先ず以て前に出るタイプではない。
「後で、話をする」
「わかった」
ミオンの言葉に頷いた。
彼女もそれで納得したのか、周囲に気を配り始める。
索敵が彼女の仕事だ。
彼女の事より、まずは任務であるゴブリンの群れを潰してからだった。




