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探し人の話

久しぶりに誰かと同じテーブルで同じ食べ物を食うのはたのしかった。

もっとも、食べる事よりも彼女達の和に混ぜてもらった嬉しさの方が強い。


自分が話さないでいても、彼女達が楽しそうに話しているだけでよかった。

彼女達からいろいろと愚痴や思いも聞けた。

酒のおかげでもあって緊張感もぬけていた。


部隊の隊でもそういう立ち回りでもあったから、聞き手回るのはいやでもなかった。


「で、もう皆寝ちゃったと」


お酒に強くなく、かつ飲み慣れていないのだろう。

数時間もかからないうちに机にべたりと身体を預け、彼女達は寝息を立てている。


訓練の疲れもあるだろう。

寝顔も寝息も熟睡したものだ。


「よいっしょっと」


机の上で寝かしたままにさせるわけもなく、一人一人に床に布団を運ぶ。


「流石に、酔った状態で彼女達の個室に運ぶ訳にもいかない」


そんなことをすれば、いったいどんな噂が流れるものかわかったものじゃない。

全員を寝かしつけた所で、テーブルに並んだ皿を一カ所に集める。


「食堂でいいのかな?」


後片付けを開始した。


机を片付け、部屋の掃除も一通り終えた後。

とくにする事もなくなったので、椅子に腰掛けた。


気分は夜番だった。


彼女達が起きれば、そのまま自室に帰り。

朝になっても起きなかったら起こそう。


起こすという選択はなかった。

あれだけ幸せそうに寝ているのだ。


「小隊か、いいなぁほんとに」


幸せそうに川の字になって寝ている彼女達を見て、羨望の声が出た。

だけどまた、小隊を組みたいかといえばそうでもなかった。


今もまだ失う怖さの方が強いから。


彼女達の寝息が聞きながら、無為に時間が過ぎていく。

なにもする事もなくただ起きている。


普段ならありえない。

なにかしていないとすぐ不安になる人間だった。


暗い部屋で一人起きているのにそこ冷えるような寂しがない。

誰かがこうして近くにいる。

それだけこれほどまでも、和らぐものなのか。


両手で頭をささえ静かに眼を閉じた。

すぐにでも寝てしまいそうだった。


「あの」

「ん」


意識が落ちかけていた所に、後ろから声がかけられた。

淡い、ブラウンの髪が眼に入った。

エミュと呼ばれた少女がいた。


眠たそうに眼を摩っていた。

皆はまだぐっすりと寝ていた。


起きるにしては早かった。

どうしたの?

それを口にする前に、彼女の声によってふさがれた。


「アルガスを知っていますか?」

「アルガス?」

「はい」


彼女から問いかけられたのはおそらく人物。

知っているといえば、知っていた。


ただ、それが彼女が知っている当人とは限らない。

同名の人間なんていくらでもいた。


「どんなやつ?」

「私と同じ髪色で。たぶん、長剣を使っていたと思います。それに、口癖がめんどうだってよくいう人で」


貴方の部隊に派遣されたと聞いたのです。

その言葉から確信へと変わる。


「なにかあるの?」

「知っているのですか?」


お互いに質問し合う。

彼女は、こちらからなんとしても情報を出そうとしている。


どこからアルガスの情報を持ち出せたかのは知らない。

けど簡単に答える訳にはいかなかった。


「いきているのですか?」

「どっちだと思う?」


彼女はきつく睨めつけてくる。

おとなしそうな娘だと思ったが違ったらしい。


それほどまでに、アルガスと関係が深いのか。

あいつはこの娘になにをやったのやら。


「教えてください」

「何の用か言ってくれたら言う」


場合によっては何も言わない。

その事を彼女もわかっているのか。

視線が厳しくなるばかり。


「お金ですか?」

「いらない」

「なら、どうすれば教えてくれるのですか?」


彼女はすがるように言う。

声も大きくなっていき、他の人が起きるかもしれない。


なによりこれ以上はぐらかすのも無理なような気がする。

はぁ、と一度ため息をついてから観念したように言う。


「理由、それを教えてくれたら少しだけ教えられる」

「本当ですか?」

「うん」


彼女は、一度息を吸い込んでから静かに語り始めた。


「アルガスは、私の許嫁だったのです」


やっぱりかと思った。

平民から貴族になる事が可能である限り当然貴族から平民へと没落する事もある。


彼はその類だった。

身にまとう気質が、平民のそれではなかったから。


「彼の家。ノイマン家は、私の家と懇意にしている仲で、私は彼と幼い頃からずっと一緒に育ってきました」


彼女が語る顔、優しい表情。

思い出の仲のアルガスを思い出し、その過去に触れている。


それだけ彼女にとって大事なものかわかる。


「だから、知りたいのです。彼が今どうしているのか」


彼女の問い。


「アルガスは」


言わなければならない。


「もういない」


だってこれは事実でもあるから。


「うそですよね?」

「本当」


ああ、彼女の顔が悲しみに染まるのがわかる。

わなわなと口が震えていて、おそらく怒ってもいるのだろう。


いなくなってしまった人間に対してか。

それとも彼を守れなかった人間に対してか。

もしくは彼をその境遇に追いやってしまった人間に対してか。


「どうして」


絶望した声。

聞きたくなかった。


その表情ももう二度と見たくなかった。


だからこれから先言う事は、先延ばしかもしれない。

無為な希望を与えるだけもかもしれない。


それでも。


「アルガスは、まだ生きてる」

「えっ」


彼女の顔から、戸惑いが生まれる。

理解できてない顔だった。


「ただ、ずっと眠ったまま。あの戦場の後から、一度も意識を取り戻していないんだ」

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