表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/45

ちょっと無理な話

それから一週間の月日が経った。

傷も復帰して、訓練に参加する日々。


アグリアも騎士団になじみ、楽しそうに会話をしている。


「寂しいのか?」

「違います」


茶化すように隊長が俺の肩を叩き隣に座った。


「お前は、なじめていないからな」

「怯えられてますからね」


初日の印象が最悪だった。

指導のために声をかけても見るからに怯えられるのは正直にへこむ。


「まぁ、力がついていけば馴染むだろう」

「それならいいけど」


印象というものは簡単に拭える物ではない。

戦場であったり日常であったりと。


そういったものは、曖昧であっても覚えている物である。


「力はどうだ? 変化はあるか?」

「ほとんど、問題はないです」


石の力を失っても、実力の程は変わっていなかった。

むしろ重荷がとれた感覚で、技自体は冴えているといっていい。


「あの、ちょっといいですか?」

「ん?」


声がかけられた方へ、振り返ると一人の女騎士がいた。

淡い栗色の髪に、やんちゃな猫を思わせるような雰囲気を持った容姿。


にしては幾分おとなしく感じる。


「その、あの」

「落ち着いたらどうだ」

「ひっ」


隊長の言葉に、びくんと彼女は肩が震えた。

隊長が、困ったように肩をすくめる。


明らかに植え付けられた上下関係。

俺がいない間にこの二人の間になにがあったのだろうか。


そんな事を考えていると周囲から視線が集まっていた。

今いる場所は女性騎士団がいつも使用している食堂だ。


男の兵士二人で一人の女騎士を脅しているみたいだ。


「で、用件は?」


その雰囲気から逃げたいがために、多少早口になった。


「私に、剣術を教えてください!」


その中で彼女は、大きな声で頭を下げた。

より視線の色がつよくなった事にため息をはいた。





「あの、どうですか?」

「えっと、基本は出来ているよ」


心配そうに彼女は、俺に問いかけてくるし俺の返答に安堵する。

型を見せてもらったが、この国の騎士が重点としたものは完全に出来てあるし完成度も高い。


昼食後の訓練時で見たが、筋も悪くなかった。


「だけど、それじゃ隊長には届かない」

「うう、そうですか」

「ところで、どうして隊長に勝ちたいの?」


訪ねると彼女は、言いたくないのかうーとうなってしまう。

最近の騎士は、子供がただを捏ねるように唸るのが主流なのだろうか。


むしろ自身が年をとったせいか、反応がいちいち幼く見えてしまうのか。


まぁ、そんなことはどうでもいいが理由は知っておきたい。

後々のいい訳のためにも。


「実は」

「うん」

「こう、むかつくからです」


ぼそりと彼女は言う。


「こんな事もできないのか。そんな視線がいやで」

「見返してやろうと思った?」

「はい」


ああ、隊長がよくやる手法だ。

相手の反骨精神を利用して、闘争心を掻き立てる。


ただ俺も彼女ばかりを見るのも。

物陰にはちらちらとこちらを伺うアグリアがいる。


「隊長に頼むのは」

「いやです」


彼女はきっぱりと言った。

隊長も容赦なくぼこぼこにするだろうから、間違ってはいないだろう。


それにこの娘もプライドが高そうだろうから折れてしまう可能性もあるか。

今の所、周囲から怯えられて教導という教導が出来ていないのでここから印象を変えていく機会でもある。


彼女の面倒くらいは見るべきか。


「わかった」

「毎日鍛えてくれるのですか!?」


嬉しそうに彼女は、俺の手をとった。

毎日はちょっと。

これに時折時間があればと言えそうにない。


仕方なしに、彼女と反対側にいるアグリアへ手招きをする。

ついでに視線でこの娘を頼むと伝える。

伝わったのかすこしむすっとした表情でこっちに歩いてきた。


「姫様?!」


何事かと振り返った彼女が、驚きの声をあげる。

アグリアの表情は笑顔になっていた。


「それで、今から用事があるから。この娘の訓練を頼みたいんだ」

「わかりました。エアリス。ちょうどよかったわ。私も訓練相手を捜していたの」

「知り合い?」


俺が、アグリアに訪ねると彼女は首を縦に振った。


「ええ、友達です」


にっこりと彼女は微笑む。

嬉しさの他になにか含んだような笑顔だが、エアリスと呼ばれた少女のほうはただただかしこまっている。


これで訓練になるかは不安ではあるが、この場は預けとこう。


「じゃ、俺は今から用事があるから」

「はい、頑張ってください」


アグリアが、手をふり隣にいるエアリスは助けを呼ぶような視線を向けてくる。

ごめん。

ちょっと無理。


だった。

だって、怖いもん。








二人から離れて、ついた場所。

騎士団を与えれてから与えられた一室。


そこから資料を取り出す。

勉強である。


「素養がある人材が多いなぁ」


さすが貴族といった所か。

平民がもたない特質の力をもった人間が多い。


ぺらぺらと紙をめくっていると。

目当ての人物の名前があった。


「エアリス、エーテフォルトね。えっと、バストは、って。おい!」

「なんですか?」


後ろからのぞきんでいた隊長がうるさい。


「なんだこれ、あの低身長でなんだこの大きさは!?」

「いいから、うるさいです」


あの服の下に、そんなものが隠れていたとは!?

と興奮したように隊長は叫ぶ。


いいから指定の席にもどれと視線で促しても全くの無視。


「隊長は、どうして彼女にあんなに突っかかれているのですか?」

「単純にしょぼいなぁって」

「ああ、期待しているのか」

「もったいないんだよ。せっかくの素養を使わないのはな」


彼女の詳細が書かれている所の一番右下。

雷に適した力があるのがわかる。


「使わないのですか?」

「……自身の素養に嫌悪感があるのか、まったく使うそぶりがない。なのに力を求めているっていうか、真面目にやっているから」

「理由は?」

「話す気がないだとさ」


おそらく隊長も威をきかせていただろうから、それを正面きって隊長に言えるならよほどの頑固だろう。


「もったいない」

「まぁ、その辺りは本人から聞くしかないな」

「そうでしょうね」

「だから、任せた?」

「は?」


隊長の言葉に、素で聞き返す。

隊長は、意外な顔をしていた。


「なにって、俺が面倒を見るのももう無理だろう? だったらお前がやるしかないだろう?」


無理って。

自業自得ではないのか。


俺が黙っていると、隊長は肩を二度ほど軽く叩いてから出て行った。


「はぁー、あの人何をするためにここにいたの?」


俺の問いを返してくれる人間はいなかった。

そして分かれた際のアグリアのあの顔を思い出す。


ちょっと無理。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ