進むべき道の話
「なんだが、大変な事になってきましたね」
隊長もタリアも病室から出て、その二人に一日休養を言い渡されてベットの上でぼんやりとする。
「アグリアは、訓練は?」
その自分と一緒にいる彼女。
日付も変わりもう朝だ。
このままここにいては朝ご飯を食べる時間がなくなる。
「もちろん、行きますよ。後少しだけこうしていたいのです」
ぎゅうとお腹あたりを顔を押し付ける。
少し冷えてきた季節とはいえ、密着すれば暑苦しい。
手で彼女の頬を挟み離させる。
「ふ、なにひゅるんですか」
頬をプレスされて、不満の表情を彼女は向けてくる。
このまま放っておいて、時間に遅れさせる訳にも行かない。
「もう時間」
「……わかりました。いってきます」
しぶしぶといった形で彼女は病室から出て行った。
「なんだかなぁ」
思いを言葉にしていくと関係がさらに変わっていた。
考えないといけない事も増えていった。
「俺も、かわらないとな」
机に置かれた魔石を見た。
うまくやれているかなぁと考えながら。
で、お昼頃。
「それで、今朝の訓練もですね」
「アグリア」
「?」
名前を呼ばれて彼女は首をかしげた。
「お昼休みに来るなともいわないけど、騎士の人たちと食べた方がいい」
「どうしてですか?」
「どうしてって」
駄目だ。
肝心な所を気づいちゃいなかった。
「ぼっちになるよ」
「うっ」
彼女は、苦しそうに呻いた。
図星らしい。
まだ友すら出来ていないのだろう。
まぁ友なら簡単にできるだろう。
その後押しとなる言葉をかける。
「いいから、団長や副団長のところに行く」
立ち上がり彼女の背中を押す。
彼女が、多少ふらつきながら立ち上がった俺の事を心配する表情をするがこっちは彼女が心配である。
「二人の所にいけば、話も進む」
「えっと、はい」
全く分かっていない様子だが、あの二人なら気兼ねなく話せるようになる。
というか、そういう風な人材を集めたはずだろうから。
だからこそだろう。
彼女が騎士団の中で確固たる仲間をつくり、王女としてではなく騎士として生きるのなら。
俺の所ばかりにいるのは、騎士団の仲を考えるうえで明らかによくない。
アグリアを外に出して、ベットで一息をつくと入れ替わるように隊長が入ってくる。
「よっ」
「どうも」
手にはいくつかの果物もあり、それが俺の方に投げられる。
「どうだ、明日には戻れそうか」
「もちろんです。あんな失敗をして休んでばかりじゃ、ベオ爺の面子が立たない」
石の影響もあったがしらないが、戦場では暴発することはなかった。
自分の不手際、管理不足、弱さ。
その全て重なり起こった事のように思える。
石に詰まった狂気が抜けたせいか、あの時の不安定さを客観的に判断できるのもあるが。
「随分と、昔の表情に戻ってきたな」
「そうですか?」
「ああ、全然違うさ」
ぺたぺたと顔を触った。
なにぶん鏡がないからよくわからなかった。
隊長は、そんな俺の様子を笑う。
なにがおかしいのか、そう問いかけようとしたらぐぅーと腹がなった。
仕方なしに、隊長に渡された果実を頬張る。
「で、姫様と結婚するのか?」
「ぶっ」
しゃりしゃりと齧っていた果物を吹き出す。
「なにを」
「騎士団の中でも、噂になってるぞ。姫様が兵士に惚れているって」
「嘘でしょ」
「嘘じゃない」
素で聞き返し、あっさりと否定される。
そんなあほな事が。
だってどう考えても身分の時点であり得ない話なのに。
「おまえな、ここ女騎士団だぞ」
「だから、なんなのです?」
「あれだ、そういう話を好むもんなんだよ」
疲れたように、隊長が言った。
自分もまるで経験した事があるかのような物言いである。
「で、肝心なところ、どうよ?」
「一応、可能なら」
おそらく無理だろうけど。
求める事はするつもり。
「少なくとも、彼女の友人として傍にいれればいいと言うくらいで」
あの笑顔は俺に取って、得難い物だったから。
彼女がかけてくれた言葉は、救いであったから。
「キスもしといてか?」
「…...なぜ、それを?」
俺が聞き返したら、隊長が大きな声で笑った。
「冗談だったけどな」
「はめましたね」
「お前が、勝手にしゃべっただけだ」
なまじ自分の気配がわからないタリアがいるだけに、知られてる感覚があるから仕方ない。
「まぁ、王家の継承をしないし、彼女は騎士をやるから芽はあるだろう」
「最低限、俺が騎士になれたらの話でしょうけど」
「まず、そこだな」
戦功に関して言えばベオ爺と戦場を駈けてきたからそれなりはあるつもりだ。
口添えにかんしていえば、ベオ爺も乗り気のようだからまぁ大丈夫とだろう。
ただ。
「彼女の傍に、いれたとしても」
それが彼女が幸せになるというわけじゃない。
「不安なのか?」
「当たり前」
周囲からの反感だった買う。
それが彼女を傷つけないか心配なのだ。
「でも、あきらめないんつもりもないだろう?」
不敵な笑みを隊長は浮かべる。
その言葉に、返答は要らなかった。




