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兵士と騎士がお出かけする話

彼女に抱きしめられて泣いて以来、鍛錬を終えてからよく一緒にいることになった。


「マックさんって日頃何をたべているのですか?」


夜遅くなり誰もいなくなった訓練場で、タリアが問いかけて来た。

暗くなった空に、星がちりばめられて綺麗だ。


「えーと。肉と魚と米とパンと、うーんと」

「それじゃ、わからないですよ」


彼女が俺の答えに苦笑いする。

飯はいつも隊長が勝手にたのむで、料理名は覚えていないのだ。

遅くなって食堂がしまったときは、野菜を生のままかじっていれば腹も溜まるし。


「じゃぁ、好きな食べ物はなにですか?」

「コガトリスの丸焼き」


困っていると、タリアが助け舟を出してくれた。

ジューシーに焼かれた、王都の特産の鳥の丸焼きを想像して今にもお腹がすいて来た。

ただ、あれは兵士が食べるには高価なのでなかなか手に着かないが。


「ああ、パーティーにいつも出るあれですね」

「いいなー」


彼女の言葉に、心の底から羨望の声が出る。


「あの、ごめんなさい」

「なんで謝るの?」


兵士とはいえ、一日食う分には困らない程の日当は出る。

戦場の時みたく、雑草と雨水で行き凌いだ日常に比べれば今は明らかに恵まれている。


「いえ、その」

「はっきり言う」

「はい、今度どこかでご飯を食べませんかと?」


なよなよとしていたタリアに語尾を若干強くして言うと彼女は、はっきりと答えた。

付き合いが長くなる連れて彼女の事を知って来たけど、他人に強く言われるとその通りになるのは心配ではある。


「ご飯?」

「はい、そのご飯です」


尻窄みに小さくなった声。


そういえばと、彼女とご飯食べてなかったっけ?

でも、どこで食うんだ?


街の食事所?

兵士の食堂?


どちらも却下だ。


逆に彼女が普段食べていそう所では、こっちが入れない。


「あの?」


黙っているとタリアが、申し訳なさそうな顔をしていた。


「じゃ、外で食べよう」

「はい?」

「うん、街の外」


食材さえあればなんとかなるだろう。







馬を借りて、王都を離れる。

日が昇る前から出たので丁度目的地に着く頃には朝方になっていた。

チュンチュンと鳥のさえずりを聞きながら山を登っていく。


ただの野生の動物に、反応するタリアがぴくぴくと肩が動く。

それを後ろから眺めるのは見ていておもしろい。


「魔物はいませんでしょうか?」

「この辺りは、隊長がよくいっているって聞いたから大丈夫だよ」


不安そうに後ろを向いて尋ねて来たタリアに、オッケーのサインを出す。

基本、ずぼらな隊長だけど噓は言わない。


だからこの辺りに人を脅かす魔物はいないはず。

保険をかけて商人からも最新の情報は買ったし、まず安全だと思う。


ほっとした顔をした彼女は前を向いた。

その後姿をみる。

馬に乗る姿は、普通に様になっている。


まさに貴族のお嬢様と言った感じだ。


いつもの気弱そうな感じとの落差があり違和感しか無かった。

林を抜けて泉もある開けた所に出て馬の足を止めた。


「ここらへんかな」

「はい」


二人して下馬すると、馬たちはぱかぱかと水をくれーとばかり走っていく。

水辺で水を飲んでいた小動物達は、そそくさと逃げ出していった。


それを名残惜しそうにタリアが見ていた。

そんなにお肉が食べたいのかな?

それともお腹がすいているのか?


早いけど背負っていたリュックを降ろして、急いで飯の準備をする。

気付いたタリアは手伝おうと駆けて来た。


「火の準備をお願い」

「はい」


彼女が詠唱すると掌から炎が出た。

相変わらず魔法というものは便利そうである。


平民には学ぶとこすらなかなか叶わない代物。

兵士の部隊ではそれだけに、なかなかお目に抱えれない。


じーと彼女の手を見る。


「あの」


問いかけられて気づく。

既に幾つかの小枝にばちばち火がともっていた。


「ん」


そこに集めた枯れ木を焼べる。

木が火に包まれる。


「つくろうか?」

「はい」


石で火を囲い、簡易のこんろを作った。

その上に鍋をのせる。


「これで、後は材料をいれていくだけだね」


鍋を作る。

野菜は持って来たから、だしを取る為の肉を調達するだけだ。

肉は新鮮なものほどよいし、ここならば調達も簡単だろう。


「にく」

「駄目ですから」


小動物をみると彼女は声を荒げて首を振った。


「駄目なの?」

「駄目では、ないですが」


木々からこちらをうかがうようにして、見ている子狐やうさぎ達。

彼女も同じくこっちを伺うように覗き込んでくる。


困ったな。

さすがに野菜だけでは味気ない。


「じゃ、釣りでもしよっか」

「はい!」


彼女は、嬉しそうに頷いた。


魚肉はいいんだ。

不思議だなと思った。

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