表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/45

暴走する力の話

「っち、あの馬鹿。全員とっと離れろ」


技に飲まれた自分の部下を見てジオは悪態を漏らす。

最近のマックの調子から、ジオが微かに不安に思っていた事がちょうど的中していた。


戦場帰りに見受けられる精神の摩耗からくる障害。


「今になってなんでだ。おもえも、そうなるのかよ」


三年の時間があっても癒えきらなかったのかと。

ジオは、苛立ちを抑えきれない表情で周囲を見回した。


騎士団員のほとんどは、その場で見ているだけで動けていない。


「駄目だ、飲まれてやがる」


故にジオは、狂乱状態になったマックに突進して後ろから蹴りつけた。

意識がタリアにいっていたために、あっさりと背を蹴られボールのようにマックは飛んでいく。

地面を何度も転がり止まる頃には、騎士団との距離を取る事には成功した。


「どう抑えます?」

「どうって」


タリアがジオに近寄る。

だらりとしながらも立ち上がるマックを見てジオは剣を抜く。


「気絶するまで、叩き潰すしかないだろう」

「あれをですか?」


二人は、眼が血走り狂っているような声をあげるマックを見た。


「......頼む。生き残りももうほとんどいないんだ」


せっかくあのとち狂った戦場から生還できたのだ。

もう少しで平穏な世界を手に入れる事が出来るのに。


悔しさでにじませた顔のジオに、タリアは頷いた。


「わかりました」


二人してマックにきりかかった。





十分は続いただろうか。

二人がかりでも決着はつかない。


「っち、これが本気の状態か!」

「決めきれませんね」


数的有利であるというのに倒せない。

背後とろうが、隙をつこうが、力と速さと耐久があがったマックには攻撃が通らない。


訓練用の武器というのもある。

殺せないという制約もある。


がそれ以上に速いのだ。


自身の防御を無視した攻撃をしてくるために、下手に技をしかければ殺される事になる。

時間が過ぎていけばマックの身体が、己の限界を超えた動きに壊れていく。


「だからとはいえ、焦って倒せるわけもないか」


ジオは目の前の狂戦士を睨みつける。

まかり間違っても負ける訳にはいかない。

そうなれば、マックどころかこの場にいる騎士達にすら被害が出る。

とはいえこのまま膠着状態ではとジオに焦りが生まれていた。


「くそっ」


狂乱状態になっても剣術を当然のように使い。

相手との間合いもはかり。


戦況を判断できる。

狂っていても思考は壊れていない。


「これで、技を使えるならよりやばくなるな」

「ええ、しかし早くしないと、間に合わなくなる」

「わかってるよ」


交互に切り替わるようにしてマックを止めるのが精一杯な状況。


「一度、仕切り直しだ」

「了解」


タリアは手から、ジオは剣から複数の風の刃を放つ。

マックは両手を交差してそれを受けた。


「ききませんか」

「身体が鋼か、あいつは」


多少の手加減をしたとはいえ、全て身体で受け止められるとは二人も思っていなかった。


「防ぐぞ」

「ええ、きますね」


マックから漏れるように出てくる真っ赤な魔力。

動きを止めて、力を貯めいたのだろう。

魔力が形をなし収束していく。


「赤狼だ。吠えるぞ」

「わかりました、風の盾」


ジオが言った通り、マックは吠えた。

声にならない咆哮が、方向性をもった衝撃となって二人の方へ襲いかかった。

二人の前でその衝撃が赤い狼へと幻視する。


「風車」


ジオが一歩前に出て風の渦巻きを放つ。

風が螺旋を描きながら進む。


赤い狼はその風を容易く食い破った。


タリアとジオは避ける訳にいかなかった。

後ろにはまだ騎士団達の気配もある。


「止まれぇええ!」


タリアが形成した風の壁によってやっと止まる。

ぶつかっても周囲にはじけることなく壁を破ってすぅと赤い狼は消えていった。


「まずいですね。これは」

「ああ、つうか。俺らがきつい」


止める事はできた二人だが、完璧にとはいえず衝撃を浴びた。

それだけ服の所々から血を流し、全身から痛みという警告音がなっていた。


特に、タリアより前に出ていたジオはひどかった。

片腕があさっての方向に向いている。


もう殺すしかない。

これ以上の傷を負えば二人掛かりでも殺せなくなる。


そう決めざるおえない状況になりつつある中、二人の後ろから声がかかった。


「私が、動きを止めます」


アグリアである。

タリアは何を言ったのかわからなかったのか呆然として、ジオは渋い顔をしながらも頷いた。


「......そうだな。お願いする」

「ジオさん! 姫様も無茶です」

「タリア、おそらく今一番、マックの動きを知っているのは彼女だ」


技の反動で、自分にもダメージがあったのか息を乱して地に手をつけているマックをジオは一瞥する。


「それに、あいつも戦闘をしてだいぶ動きが鈍くなってる。すぐに攻撃してこないのがその証拠だ」

「しかし」


それでも納得がいかないタリアに、アグリアは気合いが入った自信のある声で応えた。


「タリア、大丈夫だから」


ずっと剣を合わせてきたのは誰だ。

彼女に剣術を教導してきた誰か。


二人掛かりで倒しきれないのなら、三人でやればいい。

一人の技だけでは決め手にかけるなら、二人の技をぶつけてやればいい。


「止めます」


前を見据えた表情。

タリアは諦めた。


止めても無駄だろうと。


「おう、適当に割り込んでくれ」


少しだけ笑みを浮かべて、ジオはマックの方へかけていった。

剣を打ち合う音が響く。


残された二人の視線が重なる。


「タリア。頑張るから」

「駄目といっても、駄目なのでしょうね」


はぁーとタリアはため息をはいた。


「受ける事に意識してください。絶対に、よける事だけは駄目です」

「わかりました」


タリアの言葉に、アグリアは頷いた。

強化しているマックの攻撃を今のアグリアが確実に躱せる可能性はない。


受けるのなら一撃。

それを耐え、その一瞬をジオとタリアで決める。


「いきます」


アグリアは、打ち合うマックとジオの方へ駈けた。


「はぁあああ!」


近寄るアグリアへ、マックが迎え撃つ。

何度も訓練でやった光景。


それが。


違う。

すぐに消えてしまう火花のような牽制の攻撃ではない。

あらゆる物を溶かし尽くすような荒々しい炎。


「怯えるな、私」


アグリアは一歩さらに踏み出す。


マックの剣戟を眼にとらえて剣をぶつけた。


彼女が全力でやっても。

バランスと勢いが優勢でも。


アグリアの剣は簡単に弾き飛ばされた。


「あ」


マックが剣を振りあげる。

本当に時間稼ぎすらままならない。

死ぬ。


その瞬間をアグリア感じていた。


「させると思うか」


横からジオが剣戟を放つ。

剣から四つの風の刃が飛ぶ。


四肢を切り裂きマックは膝から崩れ落ちた。

マックの視線がジオへといく。


「止めです」


強大な風の固まり。

風のハンマーが頭上に落ちてきた。


マックは地面に打ち付けられる。

それを傍でアグリアは見つめていた。

手で支え地面をへこませてマックはまだ立ち上がろうとする。


「動かすと思いますが」


さらなるハンマーが追加で振り下ろされる。

風さえあれば何度も生成される無限の鉄槌。


それはマックの反応がなくなるまで続いた。


「あぁ」


アグリアの瞳に、涙が溜まる。

でも彼女は眼をそらす事はなかった。


数十回くらいだっただろうか。

地面にめり込み、完全に動きを止めたマックにジオは近づく。


ぴくりと指が動いた。


「まだだ!」


もがくマックにタリアが追撃をしようとして。


「がぁあああああああああ!」


耳を破壊するような音が三人を襲った。

脳がぐらり揺らされて崩れ落ちる。


マックは落ちた剣を支えにして立ち上がった。

まだ近くにいたアグリアへとアルスが剣を支えに近寄っていく。


「やめ、だめ」


タリアは、思うように動かない腕をその背に手を伸ばす。

自分の主人を守るために、風の魔力を集めるもすぐに散る。


「くそがぁ」


ジオも同じく。

地に伏せてその様子を見る事しか出来ない。


マックは、アグリアの前で剣を振り上げる。


間に合わない。

誰もがそう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ