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新生の騎士団の話

あれから二日後、騎士団は始動した。

アグリアとタリアも騎士団のメンバーだった事に驚いたりしつつも訓練は始まっていた。


「おらおら、もっと走れ」


訓練の剣を地面に突き立てて、隊長が叫ぶ。

俺は最前列で後ろを見ながら先導する。

追いかけてくる女性の群れは、鬼気迫り、気合いが入り、負けるものかと闘志がある。

基礎訓練は全員で行っているため、300人がいる。


正直言うと、怖い。


いったいに何が彼女らをそこまで必死にさせているのかと思う。

もう既に、脱落者が出てもいい頃なのに。


平気な顔をしているのといえばタリアだけ。

まだ比較的余裕がありそうなのは、アグリアと団長と副団長と複数の隊長格。

熟練の兵士にとっては準備運動とはいえ、汗一つ掻いていないタリアは本当に人間か疑わしい。


「よーし、ひとまず休憩、全員身体をほぐしておけ!」


隊長の言葉に半数近くが倒れ込み、残り半数はすぐ足をとめた。


「おい、すぐ足を止めるな。歩いてならせ」


隊長が言葉をかけるが、座り込んだ者達は返事が出来る様子はない。

300人を一人一人観察する。


無理はしていないか。

限界がどれくらいか。


個々の差は絶対にあるし、得意不得意もある。

それを見極めてそれぞれの訓練内容を決めていかないといけない。


「あの、マックさん」

「なに?」

「いえ、次は何をするのでしょうか?」


アグリアは、日頃鍛えているためこの中では上位に入る。

息をかるく乱してはいるが、まだもう一回はやれそうだ。


「タリアと一緒に、柔軟でもしていて」

「わかりました」


少しだけ落ちこんだ様子のアグリアを不思議に思いつつも隊長の方へと歩く。


「意外と、やる気があるんだな」

「そうですね」


彼らは全然なってない。

けれど自分の限界を感じても食らいついてきている。

これは伸びしろがあるという事。


「なぜ、今までやっていなかったのかが不思議なくらいだ」

「与えられなかったからでしょう? 自主的に訓練する人間の方が稀だ」

「だろうな、お前もそっち側じゃなかったしな」


隊長の言葉に頷く。

俺も、誰かに誘われてからのびた人間だ。


「彼らにとって、ここが始まりなのかな」

「さぁ、俺らはこいつらを知らん」


女性でありながら騎士を目指し。

貴族でありながら、本気で強くなろうとしている。


彼らが望むなら平和な場所で静かにくらせるだろうに。


「よし、休憩終わり。次は」


隊長は俺を見た。

疲れがまだ抜けていない彼女らに、何をするのだろう?


「タリア、マック、打ち合え。他は見学だ」

「えっ?」


周囲から息が漏れると同時に、俺はタリアを見た。


「では、一手お借りします」


彼女が一礼して構える。

ため息を吐きながらすぐさま構えた。


隊長のように勝手にしかけてくる可能性低いが、少しの油断も出来ない相手。

正直なところ負ける可能性が高く、戦いたくないが命令である以上いやとも言えない。


「マック、殺す気でやれ。じゃないと、すぐに負けるぞ」

「了解」


隊長の言葉に周りがざわつく。


「じゃぁ、いくよ」


いつも以上に力をいれて地面を蹴って、タリアに近づく。

手抜きのない命を奪う一撃。

上段から剣を振り下ろした。


剛剣。


移動からの力をすべて集約させたのに、タリアは止まったまま迎撃するように剣を合わせる。


ぶつかった。


のに彼女は健在。


彼女の足下が陥没していることから、真っ向から受け止められたのだ。

化け物め。


「素晴らしい、一撃です」

「耐えていて、よく言う」


平気そうな顔をして、つばぜり合い。

力すら彼女には足りていないのか。

速さは間違いなくこっちが劣っている。


魔法は雲泥の差。

本当に勝てる要素が見当たらない。


左手を剣から離し、顔めがけて拳を打つ。

身をよじられて難なく躱されてる。


彼女はそのまま身体を回転させた。

腹を蹴られて飛ばされる。


痛みをこらえながら、視線から外れたタリアを捜す。


「どこに?」


地面に陰がみえた。

すぐさま上空へ剣を全力で叩き込む。


「良い反応です」

「うぐぅ」


下から迎え撃ったために、今度は真逆。

空中から勢いを利用したタリアの一撃にこらえるのが精一杯。


崩れる体勢を維持しながら、それでも攻勢に回る。


体内に流れる、魔を活性させて同期する。

痛みと全身がきしむ音がする。


「がぁああああ」


力任せにタリアを押し切る。

アグリアには絶対見せたくない戦い方だった。


貴族や王族がまず使わない、欠壊という技。

長時間使用すれば身体が名前の通りなる禁じ手。


もって数十分。


「シネ」


連撃。

速さを極限までに高め、一撃の重さも上昇しているのに。


それでもタリアは捌く。

かすかに見せた隙も彼女の周囲にある風が阻む。


刃となり壁となり。

手足のように風を使役する。


ここにきてまで。

また魔法に阻まれるのか。


嫉妬。


その力を俺はアグリアに教えてやれない。

その力があれば仲間が死ぬ事もなかったのじゃないか。

その力があって、なぜ俺がいた故郷は守れなかった。


すべて。


「あああああああぁあ」


もっと。

もっと力を。


身体が赤く染まる。


げんかいをこえないと。

かてない。


「マック止めろ! もういい!」

「マックさん!」


誰かの声が聞こえる。

でももうとまらない。


こわさないと。


じゃないと。

みんなのところにかえれないから。

みんないなくなってしまうから。

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