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手を伸ばせなかった話

とはいえまだ酒場からあがるにはいつもより早い。

酒を飲むのを止めてぐたりと机に倒れ込みながら、未だにおいしそうに酒を飲む隊長を見る。


「で、タリアさん? あの人は?」

「俺の後輩だ。おまえが入る前に辞めたがな」

「珍しい」

「まぁな、若くして兵士をやめるとすれば、死んだときか戦えなくなったときぐらいだからな」


もっともあいつの場合は違う。

そう続ける隊長の表情は暗い。


「けどまぁ、人形みたいな奴が人間になって。よかったよ」

「人形?」


あれほど感情豊かに怒りと殺気を向けていたのに?


「ああ、あいつは12歳から従軍しているからな。まさに戦うために生まれてきたような奴だったよ」


その言葉に俺は愕然とする。


「12歳? 本当に?」

「ああ、あれこそ本当の天才だった。だからこそ、ベオ爺は戦場を遠ざけた。戦う事が可能であっても、精神が壊れてしまうから」


兵士になった経緯とかも知りたいが、隊長の表情を見る限り聞くべきではないのだろう。


「戦場から離れて勘が鈍ったとはいえ、お前が全く監視に気づかなかったくらいだしな」


それは自分の未熟さと考えるべきか、相手が凄腕と思うべきか。

ただ言える事は今までずっと監視されているのに気配を感じなかったこと。

それが非常に恐ろしい。


「まぁ、戦場でも敵に気づかれないくらいだったからな。......魔物が目の前にいても素通りするくらいの技術だ」


魔物は人間よりも感覚が優れているのにその魔物が目の前で見逃す?


「信じられない」


そんな光景は一度も見た事がない。

弱かろうが、魔物の感覚が馬鹿には出来ない。


「あいつは、戦技と魔法を完璧こなせる。だからできるわけだが」

「ベオ爺並み?」

「ああ、いやそれ以上かも知れない」


身体能力や体力が衰えたとはいえ、ベオ爺も両方こなせている。

爺以上だとするなら。


衰えた今のベオ爺すら勝てる可能性が低いのに。

身が震えた。


魔法は隙が多い。

しかし熟達した人間が使えば、近寄る事すら不可能な最強の矛となる。


戦技は、己の身を守る事に適している。

身体を強化して、生命力を底上げする。いわば盾。


普通片方だけでも極めるのに才と莫大な時間がいる。

それを12歳という年齢で使いこなせる人間。


「どこかの英雄の血でもひいているのか」

「ああ、そう考えてもいい。むしろ、そう考えたい」


魔法は、特に普通の血筋ならありえない。


「なんで今、侍従なんてやってるですか?」

「知るか、爺に聞けよ」


隊長の言葉に、聞ける訳ないだろといいたい。

もし答えがかえってきたとしても碌な事になりそうにないし。


「今の隊長なら勝てる?」

「昔のあいつなら、ぎり勝てるか勝てないか。もっとも昔すら全力で戦っている所を見た事ないけどな」

「じゃ、出来て時間稼ぎか」

「だろうな。複数かかりで、よくて相打ちぐらいか」


その人間が彼女のそばにいる。


なんだ俺はいらないじゃないか。

彼女が、アグリアに指導を行えば俺は必要ない。


どことなく安心したような、落ち着いたような感じがした。

なのに胸にぽっかりと開いたような穴がある。


たぶんそこから何もかもが流れ出て行ったのか。

自分の居場所が一つなくなったような気がした。


「おい、マック」

「なんですか?」

「今、あきらめたろ」


だからなんだよ。

あんたになんの関係がある?


「誰かが死んだとき、いつもお前はそういう顔をする」

「だから、なに?」

「終わった事、そう思っていれば楽になるよな」

「それ以外に、どうしろっていうんだよ!」


吠えた。

押さえきれなかった。


仲間が死んだのだってどうしようもない事だった。

俺だって助けたかった。

守りたかった。


「で、彼女がおまえをいつ不要と見なした?」

「だったら、彼女がいつ俺を必要と欲し」


違う。

彼女はもう既に求めてくれた。

それを拒絶したのは。

いや手のばされたのに俺は、その手をつかまなかった。


後悔が胸をえぐる。

助けてという誰かの悲鳴。


よみがえる。

ひとりぼっちにさせてしまった。

大切な。


「いたい」

「おい、大丈夫か......お......い」


隊長の声が遠く聞こえる。

視界もぶれて、すべての色が混ざりぼやける。


ああ。

落ちている。


目の前が真っ暗になっていった

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