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実は知られていた話

「二人とも大バカです」

「「ごめんなさい」」


 うがーと言った様子で、アグリアが睨んでくる。

 酒によって酔いが回り、興奮した様子で彼女はどんとコップを机においた。


「よりもよって、四公爵と喧嘩をするなんて。どうあっても馬鹿です」


「なぁ」

「なんですか?」

「酒癖が悪いな」


「聞いているんですか?」

「「はい」」


 もう既に酔っているはずなのに、アグリアはぐいっと酒をあおる。

 そろそろ止めたいが、口でとまるはずもない酔いかただ。


 身体を押さえつけるわけにいかないし。


「いいですか?公爵家は、王家の血もまざっているのですよぉ」

「へー」

「重役についてる方ともつながりが強いですし、ひっく。貴族のまとめ役もやってるです」

「アグリア、あのさ」

「なぁにですか」


 ぽやぽやとした返事をするアグリアに頭を抱えそうになる。

 少女といえ、もう女性としての身体へと育っている。


 酒でとろんとした表情は、艶がありいろいろと男には悪い。


「お酒は終了」

「あ、やっ」

「いやじゃない」


 コップを取り上げると、取り返そうと彼女は枝垂れかかってくる。

 ふにっと柔らかい感触がした。


「隊長、にやついてないで、助けろ」

「くく、がんばるんだな」


 くそ後で覚えていろ。


「あー、うー」


 体格差のために、手を伸ばして俺に密着してくる。

 よじ上らないと彼女は届かない。

 押し付けられた彼女の胸がつぶれる感触がある、

 ふにふにとした感触に、酒も相まって身体が熱い。


 すごい自己嫌悪にかられる。

 まるで自分が狙ってやってみたいだ。


「これで、最後」

「うん」


 その約束を取り付けてはやく彼女にコップを返す。

 彼女は大切にちびちびとなめるように酒を飲む。


 怒りも忘れたらしいので飲む勢いも雰囲気もおとなしい。


「たすかった」

「はは、かわいいじゃないか」

「隊長」

「悪い悪い。けどそのままの意味だ」


 この男は不動と言われる割に、女性に手を出すのは早い。

 もっとも戦場でいつ死ぬかわからない以上、だれも無理矢理でもない限り止める事はしなかったが。

 だがアグリアに手を出すというのなら。


 いや隊長が彼女に手を出すわけはないか。

 流石にそこらへんの分別はついている。


 アグリアが酔いと疲れで寝るまで、ひたすら酒を飲む音しかなかった。

 彼女が机の上で眠りに落ちたのを確認してから外衣をかけた。

 隊長は、俺に視線を向ける。


「なぁ?」

「なんですか」


 やっと落ち着いて酒が飲める。

 一口喉を潤してから隊長をみた。


「この娘はどうするんだ?」


 なにいってんだと隊長を睨めつける。

 どうしようもない。


 貴族であったとしても、もともと自分には遠い世界の住人だった。

 それが予想を超えてお姫様だっただけの話。


 これまで通り、自分の技を教えるだけ。


「はぁ」


 こいつ何もわかっちゃいねぇ。

 と隊長は飽きれたようなため息をはく。


「ちげぇだろ、その向けられた信頼について言ってんだ」


 応えられるのか?

 それとも裏切るのか?


「俺は」


 わかんない。

 その言葉が出なかった。


 出来る事なら助けてあげたい。

 そばにいてあげたい。


「でも、俺じゃだめだ」

「まぁ、な」


 俺の言葉に隊長は肯定する。

 でもなと隊長は首を横に振る。


「決してない訳じゃない」

「無理」

「じゃない、あるだろう。俺ら兵士も騎士へとなれる道が」


 それは知っている。

 戦場で勲功を立てて、ある大会で勝ち残れば騎士へとなる。


「一人の女のために、昔の自分を捨てる。何もわるいことじゃないだろう?」


 肯定も否定も出来なかった。


 けどそれが出来るのなら。

 とうの昔に兵士を辞めていた。


 俺がいま、兵士でいるのは昔を捨てきれないでいるから。

 それは、実力も戦歴もほとんどかわらない隊長だって一緒。


「隊長だって同じくせに」

「ああ、そうだ。だが、お前はいま変われる転機があるだろう?」


 これを逃したらずっと、このままだ。

 そういわれた気がした。


「うるさい、自分で決める」

「まぁ、後悔しないこったな」


 偉そうに。

 そう思いながらサラダをかじる。


「それよりも、どうやってアグリアを帰すの?」


 爆睡して寝ているお姫様を見た。

 まず起きないだろうし、起きたとしてもこの酔った状態で王宮にかえしていいものか。


「それは問題ないだろう。っときたか」


 隊長が酒場の扉の方をみると、侍従の格好をした女性が一人いた。


「おひさしぶりです。ジオさん」

「よー、タリア。いっちょまえに侍従やってるじゃねぇか」

「ふふふ、そちらの方は、初めまして。タリアと言います」


 俺は、親しげに話す隊長とタリアと呼ばれた女性。

 こっちがアグリアがいっていた侍従のタリアなのだろう。


「知り合い?」

「ああ、元、爺の部下だった。おばさんだ」

「ああ? ジオさん、私はまだ二十代ですよ」


 笑顔ながら、寒気がするほどの殺気を飛ばしてくる。

 あきらかにこっち側の人間。

 隊長が張り合うように、良い笑顔をつくった。


「年増」

「殺す」


 彼女は懐からナイフを取り出す。

 それよりも彼女のような存在がいた事が気になった。


 今日だけつけていたとは考えにくい。


「もしかして、今までの事は筒抜けだった」

「ああ、そうだ。ベオ爺も知ってるだろうし、王家の方も知ってるだろう」

「まぁ、すべてを報告している訳じゃないですが」


 俺の言葉に殺気を落とした二人はあっさりと問いに応える。

 俺は最近知ったがなと隊長が言っているが、そんな事はどうでもいい。


「もしかして、釣りに行った時のも」

「ええ、まさか。あんなに寄り添って」

「この出歯亀」

「私は、姫様の護衛なのでなんとでもいいなさい」


 俺の文句に、彼女は全く意に介さず素知らぬ顔のまま。

 腹正しさと羞恥心。


 後、口に出してないがあの泣いていた所も見られているのだろう。

 あれだけは、なんとしても他のだれかに話される訳にはいかない。


「ふふ、姫様に抱きしめられたのは黙っておきましたよ」

「ぐっ!」


 タリアが、顔を寄せてきて耳元でささやく。


「絶対に話すな」

「なんだ? 面白い事か?」

「隊長には関係ない!」


 すやすやと眠るアグリアが羨ましい。

 俺も彼女と同じように寝ていて、知らないままでいたかった。


「さぁて。会談は、また今度にしましょうか」

「そうしろ。後でいろいろ聞かせろよな」

「奢ってくれるのなら」

「俺が奢る、だから話すな」


 だからさっさとアグリアをつれて出て行けと睨みつける。

 タリアは、仕方ありませんねと言ってアグリアを抱えた。


「んっ」


 ぎゅっとアグリアがタリアの服をつかむ。


「マッ......さん」


 漏れた声。

 それに隊長はひゅーと口笛を吹く。


 タリアと隊長が俺を見る。


「さっさと行ってくれ」


 お願いだ。

 身体うずうずとしてむず痒い。

 俺がそういうと、タリアは何も言わずに背を向けた。


「それでは、また」

「おう、じゃぁな」


 一瞬にして二人の身体が消える。

 全くこちらに気づかせない気配の消し方も一流だが、彼女を抱えていての動き。

 あんな怪物に監視されていたと思うと、身震いがする。

 あれは自分より格上の存在だ。


「で、なにがあった?」

「話す訳ない」


 もういい。

 今日は本当にいろいろなことがありすぎた。

 何も考えずに寝たかった。

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