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いろいろ気づいてなかった話

隊長と二人訓練場に行くと一人で剣をふるっているタリアがいた

日も落ち暗くなっている中、黙々と彼女は今日も剣を振るっていた。


「あの、そちらの方は?」


こちらに気づいたタリアが、俺の後ろにいる隊長を見た。


「隊長」

「ジオって」


タリアの顔を近くで見た隊長の口が止まる。

タリアは不思議そうな顔をしている。


「まさかとは、思うが姫様?」


びきっと今度はタリアの表情が固まる。

まるでベオ爺に睨まれた新兵のようだ。


「あはは、そんなわけありません」


彼女は騎士服の腰あたり触りながら視線をそらす。

動きがやたら忙しない。


「隊長、姫様ってタリアっていう名前じゃなかった気がする」

「そうです、名前が違います」

「確か、アグジスだっけ?」

「アグリアです。それは双子の兄の名前です!」


俺と隊長の視線が彼女に刺さる。

彼女も自分の失敗に気づいたのか顔を青くさせている。


「兄?」


タリアは、一度俯いてから観念したのか。

ぼそりっと言った。


「タリアは、私の侍従の名前です」

「似ているとかじゃなく、本当にお姫様なのか?」


もう観念したのか、隊長の質問に彼女は頷いた。


「アグリア」

「はい」


彼女の瞳がうつる。

もう一度彼女の名前を呼ぶ。


「アグリア」

「はい、あの何ですか?」


アグリアがこわごわと俺に問う。

名前を呼ぶときにあった、かすかな彼女の戸惑いがない。

悪くない。


「あー、それで、どうして騎士をしているか聞いて良いか?」


二人視線をあわせていると、隊長が彼女に質問を投げた。

俺もそれは聞きたい。


どうして姫様が騎士をしているのか。

なぜ従者もつけずに一人でいるのか。

聞きたい事はいっぱいある。


「だましていたのに、良いのですか」


話を聞いてくれるのですか。

そう聞こえた。


「別に騙されていないよ。気づかなかっただけ」

「ぷっ、確かにそうだな。普通気づけよ」


俺を隊長が笑う。

むかつくので、後で酒場のおじさんの娘を隊長が軟派していたって言っておこう。


もっとも自国の第一王女に気づかない俺の方が悪いけど。

彼女が、身分を偽るのは当たり前だし。


「実は、お兄様がこの国の王へなる事が決まって、私は他国へ嫁ぐ事の話になったのです」

「となると、フィアゼ殿下のほうだな」

「はい、ですかお兄様は私が嫁ぐ事を強く反対して、ひとまず騎士になる事を薦めたのです。私もフィアゼ兄様やアグジス兄様のように、騎士に憧れていましたから」


アグリアの話に、俺はへーと頷くしかない。


「騎士になることを、よく国王も許したな」

「お父様も、頑に騎士になる事は反対はしませんでした。現に、騎士から女王になったご先祖様もいますから」


前例がある。

だったら彼女が騎士をしているのも問題はない。

だけど一人で訓練場にいるのはどういうことなんだろう?


護衛は?


「実は、いないのです」

「はぁ?」

「え、ごめんさい」


あまりの事に隊長があぜんとした声をあげた。


「どうせなら、自分で護衛を見つけてこいって。お兄様達もお母様も言って」

「国王は?」

「お父様はものすごく反対しましたけど、騎士になるのなら真に信頼できる者は自分で見つけなさいって、お母様に言いくるめられてました」


母、強し。

というよりいいのか本当にそれで。


で見つかったかというと。


「あの、お願いして」

「駄目だ」


泣きそうになってアグリアが俺を見る。

隊長が否定して、首を横に振った。


「従来から、王族を守るのは騎士って決まっている」


アグリアが王族である以上、俺や隊長が兵士である以上は出来ない。


「そうですか」


明らかに落ち込んだアグリアにかけることば見つからない。


「所属している騎士の中にはいないのか」

「あの、それが」


彼女は言葉をつまらせる。

言いたくないのか言えないのか。


彼女は、悩んだ末に意を決した表情になった。


「私が、拒絶してしまったんです」

「拒絶?」

「はい、私が想像していたものと全然違った。まるで、おままごとしているみたいで」


女性騎士団。

たぶんそこのどこかに入れられた。


ここは想像した通りだった。

彼女が好きな時間に好きな訓練場で好き勝手やっている時点でわかる。

なにもない。

本当に名前だけが存在しているだけ。


「騎士学校は?」

「一年ほど。でも私が王族であったから、誰も声をかけてもらえなくて。話しかけてもうまくいかなくて」

「そりゃ、貴族なら身分はすぐわかる。それこそ、今の今まで気づかない、そこの馬鹿以外」

「隊長だって、味音痴」

「それは関係ないだろうが!」


くすっと俺と隊長を見てアグリアが笑う。


「この国は、王の力は大きいからな。それこそ、王の不評を買えば貴族だってあっさり首が飛ぶ」


だからアグリアとはなせる人間はいなかったのか。

隊長の言葉にアグリアは息を詰まらせた。


自分に、そんなつもりはない。

そうわかっていても、周囲にそういった重圧を与えたていたのか。


それに気づいたらしい。


「私は」

「おなかすいた」


アグリアが俺を見る。


「ごはん食べにいこう」


隊長の視線が向き、隊長も頷いた。


「だなぁ、先に飯だ、飯」

「何が食べたい?」

「え? え?」


俺と彼女の手をとった。

勝手に進む話に、アグリアは戸惑うばかり。


隊長が先に街の方へ歩いていく。


「いい店があるんだよ、そこだな」

「味音痴の隊長がいうから、まずかったらごめん。まぁ、安全面はすごくいいから」

「おい、さっきからなんだ? 喧嘩売ってんのか?」

「別に」


夜も深けてきたから、彼女が街へ繰り出しても目立たないだろうから問題はないだろう。


「あの、訓練は」

「いいよ、ご飯を食べよ」

「そうだな、まだまだ話足りないし」

「えっ」


隊長の言葉に、アグリアはまだ?っといった顔をする。

彼女からすると、もう十分話したつもりらしい。


あまいよ。

逃がしてあげない。

後で後悔するくらい、赤裸々に話してもらおう。


「あの、マックさん」

「なに?」

「すごく、悪い顔に」

「なに?」

「いいえ、何もありません」


偽名を語っていた事に対しての気持ちを利用して、ごめんと思いながら強引に彼女の手を引いた。

三人でそのまま店に向かって歩き始めた。

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