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受験生、かなりキツいです…(´;Д;`)
迂闊に動いたら迷ってしまう王宮を、明音、スティーヴ、ケローネ長官ヴィヴィアン、そしてマーガレットが滑るように歩く
「忙わしくて申し訳ありませんわ、アカネ様」
「かまいません。妃殿下に遭遇しないほうがいいのでしょう?」
明音の問に頷くことで返したヴィヴィアンは、背筋をピンと伸ばしたまま、素早い足裁きで、ゆったりと溜め息をつく
「もっと手早く済ませる手筈でしたのに…情けないことですわ」
ギクリとマーガレットの動きが鈍くなる
「それは、何とも、申し訳なく思っております…」
「……」
「……」
「あら、わたくしは誰のことだとは申しておりませんわよ?」
「……は、はは…」
「……」
前を歩くヴィヴィアンの恐ろしいこと恐ろしいこと
明音とスティーヴはマーガレットの背中に無言のエールを送る
口は挟まない
否、挟めない
チラリと目配せし、無言でせかせか歩いていく
「王妃殿下におかれては、明日中に退去していただく予定ですわ」
ヴィヴィアンの瞳はやる気でメラメラと燃えている
逞しい
先ほどの大の男たちと比べると、なんと逞しいことか
大変頼みになるだろう
「ガ、ガンバッテクダサイネ」
「アカネ様、棒読みになってますよ」
こっそりとスティーヴが注意してくるが、明音は正直これが限界だった
そんな会話をした翌日
王宮のある一角で修羅場が発生していた
「ふざけないで!わたくしは夫の退位も異界人の即位も認めませんわ!」
「貴女様がお認めにならなくとも結構ですわ。これは神が決定なされたこと。一人の人間の発言で変わるものではありませんわ」
「わたくしは、その神に選ばれた陛下の妻よ!貴女たちみたいな一介の役人とは違うのよ!いいからさっさと荷物を宮殿に戻させなさい!」
「うわぁ…あれって…」
「ええ。王妃殿下です」
明音は、スティーヴとリベルムと、引き継ぎのために執務室へ向かっている途中にそれに遭遇してしまったのだ
影からコソコソと修羅場を見守る
ヴィヴィアン頑張れ
昨日の彼女の気合いの入れ様を知る明音とスティーヴは、思わず拳を小さく握る
二人の、王妃と対峙するヴィヴィアンを見つめる瞳は熱い
一方リベルムは、
「あの貪欲傲慢女。まだあんなことを。引っ込んでおけば……」
と二人にも聞こえない程度の音量で、盛大な悪態をついていた
その表情は冷えきっていて、何時もの甘いマスクはどこかに吹き飛んでしまっている
しかし、明音もスティーヴも気づかない
なんせ、
「流石は、王室女中。このような事態でも、動じることなく荷物を運び出してますね」
スティーヴの心の底から感心した声に、明音も大きく頷く
「うん。なんか、逆に変な感じするけど…」
「基本的に王室女中が優先するのは現王、その次に、今の時期であるならば、次王、その次にケローネ長官、そして五卿、または他の八省長官が続きます。王妃の優先度はその次ですね」
「…意外に低いのですね」
「タダ飯食ってるだけの存在ですからね」
「またそのようなことを…」
リベルムと王妃が不仲であることは周知の事実であるため、一応形だけスティーヴも咎める
勿論、リベルムが聞き入れるとは思っていない
何も知らない明音は、やはり不敬罪に当たるのかと首をかしげる
実際は、王以外に不敬罪は発動しないため、問題ないのだ
スティーヴは、年上は敬うという風習的に諌めたのを明音は知らない
「さあ、姫君。時間の無駄になってしまいます。向こうから執務室の方へ」
「?リベルムさんは?」
「少々野暮用が。直ぐに追い付きます故」
そうですか、と軽く頷き、歩き出した明音の後ろに続きかけたスティーヴは、振り返る
「あまり大事になさらぬよう」
まだ、何か言い足りなそうな、けれども堪えて足早に去る
スティーヴの姿が完全に見えなくなったあと、リベルムは柔和な表情を引っ込める
「気を付けますよ、できるだけ」
冷笑を浮かべ、足を踏み出した