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久々で申し訳ありません
只今迷走中です
長い長い廊下を、明音はべネットとリベルム―明音を会議室まで運んだ青年と共に歩いていた
リベルムと明音は互いに意志疎通ができないため、べネットを通して会話をする
べネット曰く、年の近いリベルムが明音のお世話係に任命されたらしかった
『あ、えと、わざわざすみません』
ペコリと頭を下げた明音に、リベルムは、それはもう、全世界の女の子を虜にするのではないかと思わせる程の笑みを浮かべ、
「いいえ、お気になさらないで下さい、姫君。麗しい姫君のお世話をさせていただくのは、名誉なことですから」
とのたまった
一語一句違わず訳したべネットは、余りの衝撃で固まった明音に、不憫なものを見る眼差しを向ける
『ドンマイです』
『そう思うならもうちょっと意訳してください』
泣きそうだった
そんな明音も身を固くしながら、一先ずの自室だと言われたきらびやかな場所で、茶を啜る
それなりに広く、隣はリベルムだと教えられ、この青年がそれなりの地位の者だと察した、まだはっきりと言われたわけではないが
お世話係に任命されてしまったリベルムと、唯一日本語を話せるべネットは、明音にアイオーン王国について教えるために居ると言う
べネットは、初めにご加護について話した
『ご加護というものは、私たちの神々が、ある特定の人物に与えるスキルです。ああ、これは依怙贔屓ではありませんよ。そのスキルが必要な者だと判断された場合のみです』
『例えば?』
『殆どの王はスキルが与えられました。特に異世界王は、言葉が通じませんからね。言葉と文学の神リッテラエリングアが私たちの言葉が使えるようにしてくれます。他には、罪人のスキルを全て奪うスキルが与えられます。これは、裁判長にも与えられます。大昔、勇者と呼ばれた者がご加護を与えられたという逸話がありますね』
確かに、特定の立場にある者に必要不可欠なスキルが渡されているようで、明音は少し感心した
『罪人からスキルを奪うというのは?』
『アイオーン王国では、ある一定の罪にはスキル奪略の刑に処されます。刑を執行後の10年間はスキルを習得できません』
どのくらい大変なのかは分からなかったが、何となく、それが大変なことであるのは理解する
「スキル奪略の刑は国王にも適応されます。気をつけて下さいね」
悪意があるのかないのか分かりかねる笑顔でさらりと告げられる
『…』
べネットに通訳をしてもらった明音は、思わず苦汁を飲んだ顔をする
リベルムはクスリと笑うと、身を乗り出して明音の耳元に顔を近づける
「―――」
勿論、べネットを介さずに言われた言葉は明音に理解できない
『?』
困惑顔の明音を見ながら、べネットとリベルムはいつも通りに茶を啜る
『ね、ねえ、べネットさん。リベルムさんは今なんて…』
べネットに振り向き、口を開いた途端、
《其方、我らが探す者なり》
その声が聞こえると同時に、ぶわりと、体の中から何かしらのエネルギーが放出された感覚を覚える
『えっ…!?』
《妾は言葉と文学の神リッテラエリングア。其方はアカネ・ヒラサカで間違いないな?》
厳かに問いかけるのは、低めの女性の声
耳からではなく、脳裏に直接響いている
『明音様?』
「どうかなさいましたか、姫君」
『…』
やけに冷静なべネットとリベルムの問いにも、呆然とし、返すことができない
《ねえ、何かしらの反応を返してよ。ねえ》
先程の尊厳そうな雰囲気とは売って変わって、拗ねたような子供のような態度をとる
『(…えと、神様なのよね)』
《そうよ》
自己確認に応答があり、軽く驚く
《もう、折角良い感じの雰囲気で加護を与えようと思ったのにぃ…どうして異世界人は皆驚くのよ》
『(そりゃそうでしょ。こんな体験したことないわ)』
《まあ、驚いて叫ぶのはまだ良いわ。中にはね、気絶したのもいるんだから。因みに日本人よ》
『(や、別に日本人皆が小心者って訳じゃないから)』
《知ってますぅー》
ぷんぷんと自ら怒ってますアピールをした言葉と文学の神リッテラエリングアは、咳払いをすると、
《まあ、それはいい。さっさの妾の問いに答えよ。其方はアカネ・ヒラサカで間違いないな》
『(うん、私は平坂明音で間違いないけど)』
《郷に入っては郷に従え!》
『えっ!?(ご、ごめん。えと、アカネ・ヒラサカ、です)』
《うむ。妾が其方に与えし加護とは、ヴァレウスランケージ。つまり、其方の聞く、話す、読む、書く言葉は、全て其方の思う通りに》
『(はあ...どうも)』
それから、ピタリと声が聞こえなくなる
「あ、あれ…?」
困惑顔で耳元に手をやる明音に、べネットとリベルムは話が終わったのだと判断する
「お話は終わりになられましたか、姫君」
「え、あ、はい…!あっ、そっか」
リベルムにアイオーン語で話しかけられ、反射的に返事をした明音は、違和感を覚え、けれどすぐにリッテラエリングアの言葉を思い出す
「これが加護?」
「ええ。けれど異世界王は誰しも、神のお声を聞かれなさるとかなり驚かれますが、アカネ様はそうでもなかったようですな」
母国語で話すため、本来の話し方に戻ったべネットを見て、目を瞬かせ、首をかしげる
「そう?それなりに驚いたつもりでしたけど」
そう言った明音に、リベルムは笑みを向ける
一見、無害そうに見えるその笑みを見た瞬間、背筋を何かが通り抜ける
べネットには向けられない、明音にだけ向けられるこの笑み
不信に思われない程度に視線を反らす
今更ながら厄介なことになったと、心の中で呟いた