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01-02 衛星軌道防衛戦 「神足艦隊 ムツキ級軽巡航艦ホウライ」

 五隻の隠密艦を片付けたフィギュアヘッド・フィルスはお立ち台(コントロールステージ)の上で周囲を見回した。

 中空には各種データを記載した表示窓(モニタウィンドウ)が投影されている。


「ステルス相手は数が把握しづらくて面倒だな……。どれくらいの敵が入り込んで来てるんだか」


 表示窓(モニタウィンドウ)に呼び出したレーダーマップ上で朧に輝く光点を睨み、フィルスは小さく毒づいた。

 生体コンピュータにすぎないフィルスだが、コマンダーと共に過ごした日々の経験は彼女に人間と遜色ない精神構造を与えている。


「できるだけたくさんスコアを伸ばしてコマンダーに褒めてもらおう、実績示せばキリツボにも文句言わせないし」


 フィルスはお立ち台(コントロールステージ)の上で大きく腕を一振りすると、乱戦の光が瞬く戦場へ艦首を向けた。

 戦場をサーチした表示窓(モニタウィンドウ)上で味方を示す光点がひとつ、踊るように動いている。

 宇宙の闇を切り裂く、紫の剣。

 フィルスの僚艦であるムツキ級軽巡航艦ホウライだ。

 六門の中口径レーザー砲に加え小型荷電粒子砲(パーティカルガン)一門を搭載したムツキ級は、並の軽巡航艦をはるかに上まわる火力を有したカテゴリだ。

 ホウライは持ち前の火力と軽巡ならではの快速を活かして、複数の敵艦をまとめて追い立てている。

 敵を一点に追い込もうとする猟犬のような動きにフィルスは眉を寄せると、通信用表示窓(モニタウィンドウ)を開いた。


「ホウライ、さっさと墜としちまいなよ! キリツボに点稼ぎさせてやる必要なんてないって!」


「えー、コマンダーの指示通りにやってるのにー」


 開いた通信用表示窓(モニタウィンドウ)の中に、艦と同じ紫色の長い髪を左右に結わえた細身の少女が映し出される。

 垂れ気味の大きな瞳はアメジスト。 桜色の頬が印象的な愛らしい顔に浮ぶ思春期真っ盛りといった小生意気な表情は、少女らしい未完成さを感じさせた。

 ただし、その胸だけはフィルスと比べても遜色ない程に大きい。

 頬をぷくーと膨らませて反論するホウライにフィルスは首を傾げた。


「コマンダーの指示? 何だよ、オレ、聞いてないぞ」


「フィルス姉、鉄砲玉みたいに飛んでったじゃない。人の話もろくに聞かないでさー」


 ホウライは大きな瞳を半目に細めると唇の端をあげ、幼さの残る顔つきに似合わぬ挑発的な笑みを浮かべた。


「コマンダーの指示もちゃんと聞けないなんて、フィギュアヘッドとしてどうなの? フィルス姉、不良品?」


「あぁ?」


 表示窓(モニタウィンドウ)の向うで挑発してくる妹分にフィルスは眉を跳ね上げた。


「別にフィルス姉が不良品でもどうでもいいけどー。 あたしはコマンダーの言う事ちゃーんと聞いてるんだからさ、邪魔しないでよね? あとでいっぱい褒めてもらうんだからぁ」


「おいクソガキ、荷電粒子砲(パーティカルガン)でフライにされてえのか、こら」


 フィルスは生意気な妹分の言動に青筋を浮かべながらも、艦尾に備えた三発のメインスラスターを吹かしてホウライの航跡を追った。


「なーに、今更お手伝いするの? 点稼ぎには遅いんじゃないかなあ」


「うるさい、黙ってろ」


 フィルスはホウライの航跡をカバーするように動き、隠密艦の群れにレーザーを射掛けて追い立てる。


 険悪な言葉を投げつけあいながらも、二隻のコンビネーションは巧みで息のあった物だった。

 二隻のフィギュアヘッド搭載艦に追われた隠密艦の群れは一塊の密集陣形を取らざるを得ない。


「二人ともご苦労。退避をせい」


 新たな表示窓(モニタウィンドウ)が展開し、長い黒髪を結い上げた小さな娘が尊大な口調で厳かに告げる。


「ちっ、あんたの為にやったんじゃないよ、キリツボ!」


 艦隊旗艦であるキリツボに対して、フィルスは腹立たしげに毒づいた。だが、同じ表示窓(モニタウィンドウ)から流れる男性の声に相好を崩す。


「フィルス、よくやった。 そこは危険だから、すぐに退避するんだ」


「コマンダー! はぁい!」


 柔らかなテノールに諭され、フィルスは上機嫌で艦体を翻した。


「単純にも程があるね、フィルス姉」


「単純結構、シンプルイズベストは兵器の完成形だぜ」


 機嫌を直したフィルスはホウライの毒舌を軽く流す。


「なによぅ、もう」


 からかい甲斐のない反応の姉貴分にホウライは唇を尖らせると、退避を行うべくスラスターを吹かした。

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