日常の終わり
まだまだ暑い日照りが続く,8月の下旬。蝉時雨はまだまだ鳴り止まず、網を持って駆けずり回っている小学生も時々見かける。
蝉時雨に負けないほどの目覚まし時計の音で目が覚めた俺はカーテンを開ける。するとまだ朝早いというのに一気に光が差し込んでくる。一瞬の内に目に入った光は、目の中を走り回り、目が眩んだ。
朝の光でそこそこ目が覚めたもののまだまだ眠く、眠気眼のまま階段を下りて、リビングに入った。
部屋に入っても、朝早いというのに全員もう学校や仕事に行ってしまったようで誰もいなかった。
テーブルの上に用意された朝ごはんを食べ、かばんの中に勉強道具、弁当を詰め込み靴を履き玄関のドアを開けた。
俺は赤城正輝。私立傘ヶ原高校2年生だ。部活にも入らず授業が終わると、速攻家に帰って風呂入って寝る。毎日それの繰り返しだった。なんのとりえも無く、たまに友達に誘われ、ご飯食べたり、ゲーセン行ったりするだけだった。勉強も出来ずとも出来るともいえないものでスポーツも中学校のころ入っていた卓球だけで高校に入るとやめてしまった。
まだまだ時間に余裕はあるものの自転車にまたがり、家を出た。家の前の急な坂を下りた先にあるカーブミラーで時計の針を見ながらあいつを待っていた。だがいつまでたっても来ないあいつを呼びに行こうとしたとき、のんきにあいつが坂から降りてきた。
「おぉーいおっはよ~」
こいつが俺の友達である新堀和樹小学校のころからずっと一緒でいつも一緒に遊んでいた。
小学校のときは先生によく褒められていたものの、中学校に入ってからは、あいつも部活や勉強でストレスがたまっていたのか、先生によく叱られて、髪の毛も染めるなどしていたが高校に入ると、俺と同じ部活にも入らずにいつも俺の家で勉強ばっかりだった。それからもいろいろあったもののお互い共によき理解者となっていた。
「おいおせぇよ。もうちょっと早くしろよ。」
「しゃーねーじゃん。まぁこっちはこっちで忙し~んだよ。」
そして時計を見て、
「やばっ遅刻する。早く行くぞ。」
「はいよ。」
そうして俺たちは全速力で自転車をこいで学校に向かった。
しかし結局遅刻してしまった。こっそり教室に向かう途中、結局担任の先生、に見つかった。
「こらっお前らまた遅刻か~」
「はい」
力なく答えたがやはり職員室に呼ばれ、説教された。この先生は俺らの担任の佐久間晴久、通称ハルさん。普段は優しいんだが、遅刻には滅法厳しく遅刻したものには、反省文5枚が待っている。数年前に奥さんに逃げられたらしく、男手ひとつで娘一人を育てているらしい。
「せんせぇ~そんな怖いから奥さんに逃げられるんすよ。」
「ばかやろっお前には関係ねぇだろ~が!」
結局その和樹の言葉で放課後居残り、反省文7枚になってしまった。
「おまえなぁふざけんなよ!お前のせいで俺まで反省文7枚の地獄じゃねぇか!」
俺が怒ってもあいつはまるで答える様子も無く、
「まぁまぁ旅は道連れ世は情けっていうじゃん」
「お前とは、道連れにだけはなりたくねーよ!」
そういってへらへら笑うだけだった。そうして教室に向かうまで和樹とのくだらない討論をしているといつの間にか教室の前に来ていた毎回遅刻したときの会話はこいつとの討論ばかりだが忘れたころには何事も無かったかのように話しかけてくるのがこいつの長所でもあり短所だった。
そうして教室に入ると毎度のことクラスメート中から笑いが起こった。どうやら理科の時間だったらしく先生に怒られながらも席に着いた。すると後ろから入家奈々が話しかけてきた。
「ねぇねぇどうだった?また反省文5枚かな?クスクス」
「おれのせいじゃねぇよ!」
そういうと隣の田中正美も話しかけていた。
「やっぱり大変だね。和樹君みたいな友達を持つと。」
「何かいいましたか?」
和樹が妙に優しく、話しかけてきたため正美も黙ってしまった。
2人とも和樹と同じ小学生からの同級生でよく一緒に遊んでいた思い出がある。奈々の方はロングヘアーの黒髪で勉強も出来、運動も出来て見栄えもよくまさに才色兼備といったところだろう。正美のほうは奈々とは見栄え以外すべて正反対だった。勉強できない、運動できないとなにも出来なかったが、その分皆からも好かれていて男子、女子からも好感度は高かった。
すると、
「ねぇねぇ君たち。今日暇かい?帰りにどっか寄らない?」
そう聞いてきたのは中学生からの親友である難波光彦だった。こいつは勉強はできるが運動はあまり出来るとはいえず、女子からの悪口も多々あったが、俺たちにはよく何かおごってくれたり、おもしろい話をしてくれていわば影のムードメーカーだった。
「わりぃな。今日居残りあるから無理だ。」
「そうか・・・ならいいんだ。また今度な」
そう言って難波は授業に戻った。そうして4人でしゃべっていると理科の先生が近づいてきて、
「こらっそこの5人私語は慎め。」
、と怒られた。怒った先生はもう50後半のおじさん先生。箕壁庄司だった。たえず学校のどこかから箕壁の声が聞こえてくることで、ある意味学校の名物でもあったため生徒からは逆に好かれていた。箕壁自身もそのことには気づいているらしく、このごろあえて怒っていると言う噂も先生たちの中の噂にあるらしい。
そうして和樹と正美以外の3人はその時間は真剣に授業を受け、授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
放課後にある地獄の事を考え、頭を痛めていると、
「よぉ正輝何してんだ?」
「おいおい何かあったのか?」
「ああそっとしといてくれよ。」
「おいおい何だよ冷てぇな?何かあったのか?」
この二人は高校に入ってから知り合った、松山譲二と園田真一だ。二人ともどうやら小学生からずっと一緒らしく、いつも2人一緒にいる。それで放課後の地獄について説明すると、2人は俺の肩に手を置いて、一言だけ言ってどこかへ行ってしまった。それからは何事も無く過ぎそしてとうとう地獄の放課後がやってきた。
「いいな。書けたら職員室に持ってくるんだぞ!」
そう言ってハルさんは職員室に戻っていった。
「おいどうする?7枚何かどうやって書くんだよ?」
「簡単だよ。正輝頼む。先書いて写させてくれ。頼む。」
またあいつはめんどくさがりな性格が出た。
「はぁまたかしゃーねーな。ホントにこれで最後だからな。」
「ヤッホウサンキュー正輝先生~」
「調子に乗るなよ!ほんとにこれが最後だからな!」
「はいはいわかってますよ~」
そういってポケットから携帯を取り出して、ゲームを始めた。「はぁ~。」大きくため息をついて俺は反省文作成を急いだ。
数十分後、苦労の末、やっと2人分の反省文が出来た。「おいっバカ出来たぞ!早く起きろ。」俺が苦労して書いたというのに、あいつはのんきに寝ていた。そうしてあいつは眠気眼で、
「ああ出来たか~~早く帰ろ~ぜ。」
そういって2人ともハルさんにOKをもらい、速攻自転車置き場に行き、学校を出た。
「あ~あ疲れた。」
「お前何もしてねぇだろ。」
走りながらあいつの頭に拳骨を入れた。
「痛って~おいおい殴ること無いだろ!」
「うるさい。次遅刻しそうになったら絶対置いていくからな!」
「いやいや。そういって待っててくれるのが正輝先生だからね~」
痛いところを突かれて、しばらく無言の時間が続いていると、
「なぁお前知ってる?あの不思議な死に方するやつ。」
「あああれか。てか死んでるって言ってねぇし。倒れてるって言っただけじゃん。」
「まぁな・・・」
「?」
そうしていつの間にか家に着いていた
「じゃーな。次は待たなぇーからな」
「はいはいバイバイ。」
「ああバイバイ」
そうして自転車を置き、家に入った。
「ああお帰りなさい。正輝早く帰りなさいってお母さんいったわよねぇ。」
やたら優しそうに言うのが、不気味さを増していく。
「はいはいごめんなさい、ごめんなさい。」
そういうと、お母さんの拳骨が食らった。
「まったく・・」
そう言って母は台所に戻っていった。
俺の母である赤城香織。36歳。年に寄らず見た目も若々しくて近所でも評判になっていた。親父は幼いころ、仕事に行ったきり帰ってこなかった。それこそそのときは母さんも悲しんでいたが、ほんの数日で立ち直り今があるらしい。やっぱり親の血筋だなぁと思いながらリビングに入り、
「あれ伸宏は?」
「サッカー部の強化合宿で3日間家を空けるらしいわよ」
「姉ちゃんは?」
「ゼミの用事で遅くなるって。」
「そうか・・・」
そして俺の姉、赤城亜佐美俺とは裏腹に勉強もできてスポーツもできスタイル抜群のこれまた奈々と同じ才色兼備といったところだろう。今では近所の有名大学に通い、中学校の教師を目指していた。俺も何度あんな先生がいたら・・・と願っただろう。まぁ多少性格に問題ありだが・・・。そしたら母さんが、
「ごはん出来たわよ~。」
と呼んだ。今日の夕食は、カレーライスだった。昔ならそれこそ大喜びだったがいまではちょっとうれしく思うだけで、たいして喜ばなかった。
「ねぇこの頃学校どう?」
母さんが話しかけてきて、
「ああ別に普通だよ。楽しいよ。」
「そうならいいんだけどね・・」
「何?何かあるの?」
「いや。なんでもないの。」
そう言って黙々とカレーライスを食べていた。数分後夕食が終わり、ごちそうさまを言うと俺は足早に2階に上がった。 自分の部屋の明かりを点けると、真っ暗だった自分の部屋が光に包まれた。はぁあと大きくため息を尽き、ベットに寝転がった。
「はぁ何か面白いことないかな~」
ベットの上で独り言のようにつぶやいた。確かに俺にはこれといった特徴はなく、趣味もなかった。
変わったことといえば、この頃奈々のことが好きになったことぐらいだった。急にすきなった理由はわからないが、いずれ告白することも考えていた。
すると、枕元にある携帯が耳元で鳴り響いた。開いてみるとメールボックスに一件のメールが来ていた。送信者は奈々だった。どんな内容か考えてメールを開いてみると、
「明日の日曜日空いている?」
と言うメールだった。俺は半分ガッツポーズで急いで、
「空いてる。空いてる。喜んで」
と打って送信しようとしたとき、またメールが届いた。そうしてその届いたメールを開いたとき、急に画面が真っ暗になり、真ん中に赤い文字で一言
「あ・な・た・は・あ・す・を・う・し・な・い・ま・し・た・」
と書いてあった。その瞬間、目の前が真っ暗になった。
「なっなん、なん、だ。」
バタッと床に倒れた。一方画面の向こうでは、闇の中である人物が笑っていた・・・。