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Brain Install

無言でジョンの後ろを歩き、街並みが見慣れない物になってきた頃、昼間に訪れた廃ビルに似ていなくもない白い建物にたどり着いた。

ジョンはポケットから白いカードを取り出し、ドアの横に添えられた赤い箱の溝に差しこんだ。ガチャリ、鍵が開く音がこもって響いた。

無言でジョンがドアを開ける。その中は薄暗く、地下への階段につながっていた。

こっちだよ、と私を連れていく。走って降りたら転げ落ちそうなくらい急な階段を、私たちは降りて行った。その階段の先に、黒く塗られたドアがあった。ジョンはコンコン、と小さくノックをしてから、ドアノブを回す。

「入って」

「え?」

私は思わず変な声を出してしまった。一瞬、ジョンの声と同時にドアが歪んだように見えたのだ。だが良く見ると、ドアには何の変化もなかった。ドアは開いていないし、鍵が開く音もしていない。自分で開けろ、ということなのか。ドアノブに手を伸ばす。と、そのドアが目の前から消えた。慌てて手を引っ込める。

その奥は真っ暗で、怪談をしているわけでもないのに背筋に寒気を感じた。

「何これ……」

「心配しなくていい。ドアはただの幻影だから。そのまま入って」

この世に幻影など存在するものか。蜃気楼か? いや、こんな場所に存在するはずがない。恐る恐るドアのあった場所に手を伸ばす。すると、手がその中に入って行った。ごくり、と息を飲み、足を上げて前に踏み出す。


真っ白な光が、一気に私を照らした。

広く、白い部屋が目の前に広がる。その中心に透明のガラスのテーブル。

その周りに女性2人と、食べかけのリンゴを皿に乗せて眺めている男の子が一人座っている。

「あ、やっと来た」

男の子が顔を上げて私を見た。寝不足なのか、疲れた顔をしている。

やはり疲れきった声で、

「イマジン、解いていい?」

と言った。男の子の向かい側に座った、Tシャツにジーンズというラフな格好をした女の人がうなずいた。

イマジン……、さっきのドアのことか?

後ろを振り返ると、予想通りドアはない。白い壁の一部となって平然と立っていた。

もう一度男の子の方を振り返って見ると、すでに机に伏して寝ていた。

メイドの恰好をした女性が、お疲れ様、と男の子の髪をなでている。まるで子犬をあやしているようだった。

「座りなよ」

ジョンが部屋の奥から椅子を取り出し、こっち、と目で言う。

言われるがままに座ると、ガラスのテーブルの表面に光っている地図が見えた。

「なにこれ、地図?」

「そうだよ。この街の地図。その真ん中の赤い光が今いる場所だよ」

地図の右下に、小さい赤い光が見えた。非常用ランプみたいに不気味な色をしていた。

「さて、何を話そうか……まずは紹介から、かな」

ジョンはテーブルの中心を指で叩いた。地図が消え、写真付きの証明書に似た図が現れる。写真には、男の子が映っていた。

「この子はタツ。12歳だよ。君と同じ捨て子だ」

苦笑いしながら、ジョンは指でもう一度テーブルに触れた。今度は、メイドの人だ。

「リーナ・シアン。元家政婦です、よろしく」

にっこりとほほ笑んだ。大人にも関わらずそのゆるいウェーブのかかった髪と柔らかそうな顔には可愛らしさがあり、ほっとするような雰囲気を持ち合わせている。

ジョンと同じブルーの瞳。だがリーナの方がよほど安心させてくれる瞳だった。

続いて、ジーンズの女の人。長い黒髪を後ろで一つに結わえている。

しかめっ面が若干怖い。

「ヴァリス・ミラーだ。よろしく、アルセア」

声は低く太い声だったが、思ったより怖くはなかった。むしろ、かっこ良いという表現の方が似合っていた。恰好も、肘をつく仕草も女戦士のようにみえた。


3人の紹介が終わると、リーナがオレンジジュースをグラスに注いでくれた。どうも、と私は会釈をする。

「アルセアの事はジョンから聞いているわ」

そう言ってリーナはジュースの横に白いカードを置く。

「これでいつでもここに来れるから。あと、ベッドもいくつか空いてるから住んでも構わないわよ」

住んでも構わない、ということはすでにこの4人は一緒に住んでいるのか。

2世帯以上の同居をも嫌う人が増えたこの時代、同居なんてのは珍しい。学校の修学旅行でさえ一人部屋が大半なのだ。私の周りにいる学生は皆、一人残らず寮に住んでいる。

「BISTの事ならジョンか私に聞いてね。何でも答えるから」

「ビスト?」

「B、I、S、T。そう書いてBIST。ブレインインストールの略称だ。BISTの能力を使える人間は、BISTER。そう呼ばれている」

どこから持ってきたのか、ジョンはメモ帳に大きくBISTと書いた。

「ブレインインストール? 聞いたことない」

「そりゃ当り前だ。麻薬なんかよりもずっと極秘にされてるからね」

麻薬よりも、だなんてかなり怪しいことなのだろうか。例えば軍隊のテロ情報とか……。そんなことはない、きっと安全だ。私は自分にそう言い聞かせた。

「始めに僕たち"LE"の話をしなきゃいけないね」

ジョンは口の端を上げて、ニヤリと笑う。昨日と同じ、不気味な笑いだ。メモ帳の新しいページを開く。そこには、何度も書き直されたらしい図がページの中心にあった。

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