縁は切りましたので。
お世話になっている商工会ギルド経由で、来客があったから来てくれと伝えられ、行ってみたら何やら偉そうな実家の使いがいた。
「レジーナ。至急、戻ってこいとの領主様からの命令です。」
「は?」
いや、何で?
叔父(=クソ野郎1)と従姉妹(=キラキラ娘)、ドレイク(=元婚約者のクソ野郎2)は、結果的に直系の私を無事追い出してウハウハでしょうに。
使いのクソ野郎2ドレイク卿は、そんなの関係無いとばかりに続けてくる。
「エリック様とユリアーナ様が大変お困りになっているのです!従姉妹としてユリアーナ様を守る義務があります!戻って、無事に魔獣問題を解決したら、領主様もレジーナを再度、一族に加えてもよいと寛大にも仰っています!」
………削除されてるってことで合っているよね?
心配していないけど、改めて重要事項の確認をしよう。
「つまり私は『今は一族から抹消されている』状態?」
出てくる際に向こうが望んだからぶっ飛ばしたお陰で、スムーズに無関係になれてるはず。
『宣誓と誓約』もしたから、大丈夫なはず…
クソ野郎2が見下すように顔を歪める。
「ええ、当然です。闘技大会において、理不尽にもユリアーナ様に暴力を振るったのですからレジーナは一族の不名誉として抹消されている。それを寛大にも…(以下略)」
無事抹消されてる。
良かったです!
それにしても相変わらず、全員ネジが外れてるなぁ…闘技大会に自分から挑戦者として名乗り出てきたんだから、闘って当然でしょうに。頭が全く大丈夫ばない…
そもそもがおかしい。何で私が従姉妹を攻撃しちゃダメだった前提で話をしている?しかも決勝終わったあとに挑戦してきたのよ?どんだけシードされてるのよ。こっちは一回戦からゴツいのと当たり続けてたのに。文脈とか時系列とか文法とか…
ゔぁ〜…思い出しちゃったよぉ…
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『お従姉様には敵わないのは分かっているの!でも、領主の娘として挑戦する姿を見せないと!』
とやたらキラキラした眼からキラキラした涙を流しつつ、プルプル震えながら舞踏会にでも行くのか?くらいに宝石だらけでキラキラに着飾って、これまた繊細なキラキラ甲冑をまとって登場したユリアーナ。貴方、最初から戦う気なんか無いでしょ。
領主って自分の父親=私の叔父のこと?
領主は領主でも、私が成人するまでの暫定領主なんだけど。
呆れて一瞬言葉に詰まったら、
「レジーナ!卑怯だぞ!強いことをそこまで誇りたいのか!?か弱いユリアーナ様を傷つけてまで領主の座が欲しいのか!?理不尽な闘いを俺は許さないぞ!」
と、どこかで読んだ三文芝居のようなズレた科白で口角泡を飛ばしながら、キラキラ泣いているキラキラ娘を抱きしめながら非難してくる、クソ野郎2ドレイク。
貴方の婚約者は、私です。そして、おかしなタイミングで理不尽な挑戦をしてきているのは、貴方の抱きしめているキラキラ娘です。
決勝で私に負けたドレイク卿、どうやら打ち所も悪かったようです。もともと酷かった認識阻害か痴呆の症状が悪化した模様。元々のクソ野郎ぶりに磨きがかかっておられる。
おえ。
「可哀想なユリアーナ様!領主になり変わらんとする野蛮なレジーナの挑戦を受けようとされているなんて…」
「ありがとう、ドレイク様…怖いわ…貴方に容赦もしなかったレジーナと闘うなんて…」
「ユリアーナ様…♡」
「ドレイク様…♡」
抱き合う二人。
おえ。
気持ち悪いお二人は分かっていないんですが、私も欲しくて領主になりたいわけじゃないんですが?
前領主の母が亡くなって私が未成年だから、叔父が期間限定のトップになっただけで、本来の領主は私なんだけど。
もう脳内ツッコミが追いつかない。
ここでクソ野郎1(暫定領主叔父)が茶番を追加。
「それでは、公平を期すためにレジーナの両手を拘束する!ユリアーナには剣の使用を認める!」
面白いことになったと喜ぶ観客の皆様。
キラキラユリアーナ、人気あるからね。
娯楽が少ないにしても悪趣味な血族だ。
つまり、私がやられたら嬉しいやつばっかり。
ふ~ん。
そうなんだ~。
この領地に愛想が完全に尽きたよ。
義務だから必死で頑張ってたけれど…もういいか。
「お従姉様が、可哀想です!両手を縛るなんて…それでも私、きっと敵わないわ…」
言いながら口角が上がっているよ、ユリアーナ。
「私の婚約者なら、潔くユリアーナ様に合わせた対決を受け入れるんだ!領主を狙う卑劣なお前には、両足も鎖をかけてやりたいくらいなんだぞ!」
ユリアーナを抱きしめたままの、私の(元)婚約者。
卑劣の意味がわからないのね…形容する相手が違うよ、クソ野郎2。
おえ。
貴方の婚約者の座は、これから力付くで破談します。理不尽の天秤が狂ってるハラスメント野郎は、こっちから願い下げ。
ムリ!
拘束具が持って来られる。
「両手と利き足にも魔力封じの鎖をつけろ!」
いつの間にか全て鎖になっているし。叔父が魔法具の拘束具に私の真名を刻む。こういう時だけ素早い。真名が書かれると装着される仕様だから、これは私を殺す気だな。
闘う相手が全て歴戦の猛者だったから、大怪我して欲しいんだろうな、くらいは思ってたんだけど。
甘かった。
あんまり関係ないけど。
まあ、もういいや。
そんなに欲しいのなら。
父様、母様、先祖様。
ごめん。
私達の心はこの地と血にもうなくなったみたい。
だから、解放するよ?
私も全部から解放されるよ!
拘束具が両手と右足に繋がれ、そこから力が抜けていく。
完全に勝利を確信して恐ろしく口角を上げたユリアーナが長剣を私に突き立てようと向かってくる。
感覚の残った左足を強化。
持ち慣れない剣にやや体勢を崩したユリアーナの顎と横顔目掛けて左に体重移動する反動で右足をぶつける。
『『『ユリアーナ(様)!!!!!!!!!!』』』
おっし!
きれいに吹っ飛んだ!!
もう一度、左足で跳ねる。
クソ野郎2が振るった鞭を腕の拘束具で受けて絡ませ…そのままクソ野郎2に着地大成功!!
クソ野郎2、ナイスアシスト!!!
鞭の反動がいい仕事!!
よっしゃぁ!
地面にめり込んだクソ野郎2の頭からひしゃげて飛んだ兜をクソ野郎1に真心を込めて蹴り飛ばし、受け止め損ねた出腹にゴールさせる。
ぴょんぴょん近寄って、悶絶しているクソ野郎1の顎に拘束具の鎖部分を掛けてあげる。
あらステキな首飾り♡
「そんなに、領主になりたい?」
「ぐぐ…ぐぅうう…おま…ぐぇ…」
「?」
「お、おまえ…など!直系と言うだけの小娘のくせに!…ぐぇぇ…」
睨んでくる叔父。
うつ伏せの髭面の血走った上目遣い…怖くないなぁ。このまま、私が跳んだら…叔父様の首、どうなるかなぁ…ね?最悪、喉が潰れる程度はイケるけど、きっともっとすごくできるね♡
絵面が良くないから嫌だけど!
「おまえなど、今すぐ一族から抹消してやる!」
どうぞ、どうぞ。
「泣いてすがっても、遅いぞ!今すぐこの足を退けるなら、鞭打ちくらいで…ぅごぇぇ!」
自分が不利だってわからないヤツだらけだな。
ちょっとでも血がつながってるのが恥ずかしい。
本当に無理。
ほら、もう一人、残念なのが来たし。
「お父様を離して!このケダモノ!」
短刀持った待ち人が突っ込んできた。
あえて受けた右の肩甲骨下に激痛。
流れる私の血と沸き上がる観衆の「レジーナを殺せ」の歓声。
準備、オッケー。
丸い耳が跳ねる。
身体が大きく組み替えられ、拘束具が引きちぎられる。
闘技場の歓声が悲鳴に変わっていく。
高くなった視点にはユリアーナは見えないけど、背後で「まさか、そんな」と言っているのは聞こえたので身震いして振り落とした。逃げられないように踏みつけておく。ちょっとだけでいいけど、こいつの血も要るからね。あんまり動かないでね?私の重さでプチっといっちゃうから。
さて。
「この地の皆の総意を受け取った。」
お望み通りにしてあげようっと。
牝熊神の子孫からのこの地への最後の贈り物。
「Descendens deae ursae recusat.Artioregiina recusat.」
条件は、直系の神名を持つ者の血と敵意を持つ自分の血縁者の血と領民の『総意と見なされるもの』。
「Tutela huius terrae populi habitantisque recuso.」
牝熊神の直系に刻まれた神名による『宣誓と誓約』。
この地に私の血が受け継いだ力は干渉しない。故に、私は、ここの地と血から無関係になる。
ここにいる全員に連なる者も私に干渉させない。故に、皆は、私は自由になる。
天と地に雷光が走る。
宣誓と誓約は成立。
「前の領主の娘が熊に変わった?」
「まさか、牝熊神?」
「そんなはずは」
「雷鳴が止まない…牝熊神の加護が消えているのか?」
そんな囁きが雷鳴の中、闘技場に満ちていく。牝熊神の血の力で長らく張られていた守護結界も、雷鳴が轟くたびに消えていく。
もう遅いよ〜!知らないもんね〜!
私は自由です♡
しかし、闘技大会で8人抜きした後の獣人化はしんど過ぎる。誓約と宣誓で、神様バフも無くなったし。結界が無くなるたびに、身体に電流が走る。後どれくらい残ってるのかなぁ…早くここから退場しよう…後は好きにしてくれ!
と思っていたら、近衛隊に囲まれていた。
あらま。
クソ野郎2(ドレイク)が血だらけの顔と身体で捕らえろと喚いている。流石、傍系でも血族。丈夫だな。ユリアーナも叔父もだが。
さて、力技で突破するしかないかと覚悟をした時、太い丸太と巨石が投げ込まれ、私と近衛隊の間に隙間が広がる。
ありがたい!
力が抜けていく身体を叱咤し、白熊のまま私は闘技場から脱出した。
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…んだけどなあ?
何で、あそこの皆さんや特に従姉妹やら叔父を守りに戻らないといけないの?
「行かないよ?」
当然でしょうに。
何故そんなに意外そうな表情と反応?
「相変わらず聞き分けのない…流石、野蛮なレジーナだ!お前の意見は聞いていない!さあ…いだッッッ!…ッッッ!」
掴みかかろうとするも、私に触れられず、電流に弾かれるドレイククソ野郎2卿。
「『宣誓と誓約』したんだもの。私に貴方達は触れられない。あの地と血は私から切り離された。」
本当、碌でもない人達。
「望んだのは、貴方達。牝熊神が聞き届けてくれたんだから、自分達で何とかして?」
商工会ギルドの用心棒が扉を大きく開ける。
「それに、あそこから此処まで3月以上かかる。もう、無くなっているかもね。帰って報告する場所があるといいね!」
次々と叩き出されるクソ野郎2御一行様。
用心棒等達を見て、クソ野郎2が目を見開いた。
「お前たちは…!!!裏切り者めが!」
用心棒達の笑顔が厳つ眩しい。
「覚えておられるなら、大人しく報告に帰ったほうが怪我が減りますよ?…城門の外まで丁重に送りますよ?」
あの時、巨石やら丸太を投げ込んでくれたのは、私の対戦相手たちだった。彼らのお陰で必要以上の血を流さず、脱出できた。
「どうせ、もう戻れませんから。お嬢に付き合いますよ!」
そう言ってくれた数人と隣国に移住し、この街にたどり着いた。付いてきてくれた元対戦相手達は、冒険者やら用心棒やらになった。時々、手合わせしてもらう。
自分は、以前から憧れていた服飾工房で働いている。
獣化すると、着ていた服が合わないことも多い。ここは、それを解消す素材や作り方を目指している。工房長はハムスターの獣人だ。獣化すると服に埋もれる。私みたいな大型動物に変わるタイプは、服が裂ける。どっちも大問題なのよ!
「戻りました!」
この世界の彼方此方に残っている神の血も、徐々に減っていると聞く。
強い血はもう必要がなくなり、その地の力で何とかしていく時期が来ているのかもしれない。
知らんけど。
きっとそのほうがよいんだろうなと思いながら、工房長の部屋に向かう私だった。




