R.I.P.
祝祭の夢を見た、夜空を彩る七色の光が地上のビルやその他の建物やその隙間を行く我々ですら照らしていた、私はパレードの一員で近未来的な果実の形をしたサイケデリックなジャンクフードを頬張りながら群衆に愛想を振り撒いたりした、際限なき祝祭の渦中で胸は踊り、身体は熱気を帯びていた、誰もがこの祝祭の素晴らしさを賛辞していた、やがて一羽の名も知れぬ鳥が朝焼けを引き連れてビルの谷間を飛び去った、私はその一羽の鳥に気を取られた、その瞬間にこの夢は終わりを向かえたのだった。
色が孤独に惹かれたような白いだけの病室のベッドで私は目が覚めた、何をもってしてこの場所にいるのかを“なんとなく”実感するに多少の時間を有したが、意識の輪郭は明確な線を捉えた後に私を冷静にさせもした、私はベッドから起き上がり、窓の外を眺めた、部屋に私の視覚や興味を誘うものなど何一つとして存在しなかった、だから私は窓の外を眺めた、緑が瑞々しくも行き渡った木々の葉が強い日差しを受けて輝いている、その向こうは白いコンクリートの壁でおおわれているのが見えた、私は病院か施設のような場所に自分が隔離されている事実に確信を持った、すると部屋のドアが開き、その音に私は振り向いた、若い女の看護師が現れたのだ。
「あら、お目覚めになりましたか、けれどもまだ安静にしていて下さいね」
と若い女の看護師は言った、私は私の様子を見に来たこの看護師にいくつかの話を聞いた、私は所謂「キの病」らしい、職場で倒れ込み、この病院へと運ばれたのだという、郷の両親共々この事実を知っており、この病院に向かっているのだという。
「何の心配も無い、少し休めば良くなりますよ」
私はこのような台詞をこの看護師を始め、担当の医者、郷から来た両親、勤め先の人間らから聞いた、この台詞から一律誰もが私に親切に接しているように思えたが、以前の彼らが私にどのように接していたのかを思い出せぬままで、彼らの親切心を信用できないものがあった、柔らかくも明確な疑心暗鬼が私の胸を締め付けるのはそういった信用ならない親切心を持たされた時だった、それらは看護師からコップ一杯の水をもらうだけでも生じたものとなった。
この疑心暗鬼はやがて私の「キの病」の治療においては非常に厄介で重たい足枷となるだろう、そこで私は更に考えた、この疑心暗鬼を私の“知”とした時にそれに伴った行動をしなくては私の生涯はこの場所で伏したまま終えてしまうだろうと、延いては憎むべき疑心暗鬼の精神の中にこそ私をより強くする行動を示した答えがあるのだと考えた。
強い人間こそ寛容なのだ、私は寛容さを手にしなくてはならない、即ち強くならなくてはいけないのだ、しかし、今の私にとってその強さなるものがどれほど尊く手に入れ難いものなのか、だからこそ疑心暗鬼はうわばみのように私の胸を締め付け苦しめるのだ、このジレンマを破壊し突破することによってのみ私は強く寛容な人間となれるのだろう。
私は機会をうかがった、看護師からコップ一杯の水をもらうにしてもその鍛練と考えた、また、私は歩くことにもした、病院内をくまなく歩くことにした、何処かに、いや、何処にでも私を強く寛容な人間にするためのチャンスがある筈であると考えたのだ、しかし、悲しいことに私の身体は弱っていた、病院の広さに対して私の体力は実に脆弱なものだった。
「強くならなくては!寛容にならなくては!」
私が己の脆弱さに焦りを覚えれば覚えるほどに何かを見落として生きている感覚に苛まれてもしまう、ジレンマの渦ばかりが色濃くなっていくのを胸の奥で感じる、肉体と精神が脆弱であるが故に疑心暗鬼はどんどんと醜く膨れ上がり、もはや私自身がそのコントロールを不可能なものとしている、意識の集中力は下がり、目眩と吐き気が私を襲う、すでにその場に立っていることすらできなくなっている。
「私は、私は…強く、寛容に…」
苦悶の表情で吐く言葉に切なる願いを込める、それでも無惨に私は倒れ伏した、病院の廊下で私は意識を失った…
祝祭の夢を見た、夜空を彩る七色の光が地上のビルやその他の建物やその隙間を行く我々ですら照らしていた、私はパレードの一員で近未来的な果実の形をしたサイケデリックなジャンクフードを頬張りながら群衆に愛想を振り撒いたりした、際限なき祝祭の渦中で胸は踊り、身体は熱気を帯びていた、誰もがこの祝祭の素晴らしさを賛辞していた、やがて一羽の名も知れぬ鳥が朝焼けを引き連れてビルの谷間を飛び去った、私はその一羽の鳥に気を取られた、その瞬間にこの夢は終わりを向かえたのだった…




