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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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"美學"

掲載日:2026/08/04

画架の前の椅子に掛けて『#00FFFF(フォーフ)』と名を呼ぶと、書生の少年は教えた通りの這いつくばった姿勢で現れる

言いつけの通り、身には革の首輪以外は何も纏って居ない


工房は屋敷の北に位置する部屋で、昼でも微かに薄暗い程だが、窓の外の草原(くさはら)は煌々と部屋に陽射しを跳ね返して居る


時折、雲が流れて陽が部屋に満ちると、画家の工房に良くある、こびり付いた絵具(えのぐ)の汚れが、床に壁に所狭しと視える

「この汚れの程度くらいに」


「僕の実力も、重なって居れば良いが」

静かに、そう思った



フォーフの手首に、軽く振りかぶった留置針(点滴針)を一突きに突き刺す

管の先に在るパレットに、名の通りの空色が満たされていった


僕は其れを、窓から視える空と視比べる



「苦痛に欠けた色だな」


刺した針を

マドラーで珈琲でも混ぜる様に、くるくる捻じる


躰温の湿り気を孕んだ清浄な液躰が、震えながら溢れ(いで)

香りが甘かった



「少し良くなってきた」

思いながら、フォーフの首輪から伸びた紐を引く


引き摺られた書生の頬を平手で数回叩くと、部屋に乾いた音が響いた

フォーフがうつ伏せに崩折れ、はあはあと息を吐く

背中に新しく針を刺すと、先刻よりは視れたよう味わいの空色が溢れた



「───#FF00FF(フェゼフ)は居る?」


呼び掛けると、廊下から恐慌のような足音が近付いて来る


掃除の手を休めて此処まで参じたのかも知れない

呼吸を乱した、使用人姿の少年が現れた


僕が無言で視詰めると

意図を汲んだのか、彼は慌て過ぎて泣きそうになりながら衣服を捨て、平伏(ひれふ)した



フェゼフの顎を爪先で押して、立ち上がらせる


椅子から立ち上がり

画架からナイフを取った


油絵用のナイフとは別に用意した、よく磨かれた刃の分厚いものだ

握ると、冷たさと重さが指と手のひらに伝わる

フェゼフの胸に刃先を当てると、彼は涙を溜めた瞳で「おやめ下さい」と訴えた


ナイフを強く押し当てながら、躰の曲線をなぞる様に滑らせる

絵具(えのぐ)として最適化されて居る少年の躰は、視る間に艶かしいマゼンタに染まっていった


直ぐに#00FFFF(フォーフ)の躰にもナイフを刻む、彼もしくしくと泣きながら、美しい薄青色を、自らの意思とは無関係に止め処なく垂れ流し始めた


カーテンを閉める

少年達の啜り泣きがより鮮明に聴こえる様になった気がして、僕は軽く口の端を上げた



「交われ」



二人の書生に、他の意図と誤解しようが無い程の簡潔な命令を下す


彼らは泣く事を止めると

恐る恐る互いに歩み寄り、震えながら両手の指を絡め始めた



僕は椅子に掛けると、脚を組んで彼らを観察した

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