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ホラー小説集

冬の夜に燃え上がるアパートの幻影

作者: 大浜 英彰

挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。

 すっかり夜の帳が下りた住宅地を、私こと樮川(ほくそがわ)イナミは足早に進んでいたの。

「ああ、本当に寒いなぁ!まるで体温を奪われるみたい…コートでも着れば良かった。」

 昼間の温かさに油断して防寒着なしで予備校へ行ったのを後悔しながら、只管に家路を急ぐ。

 一刻も早く、こたつで暖を取りながら夜食の鍋焼きうどんを啜りたかったよ。

「そうだ!あまり褒められた真似じゃないけど…」

 だから帰り道を短縮するべく、月極駐車場を突っ切るルートを選んだんだよね。


 ところが…

「えっ、アパートが建ってる!?朝に見た時は駐車場だったのに!?」

 それが突貫工事で建てたのではない事は、壁面や屋根瓦の傷み具合からも一目瞭然だった。

「仕方ないな、それなら正規のルートを辿って…」

 気を取り直して回れ右をしようとした、その時だった。

挿絵(By みてみん)

「えっ!?」

 突如として紅蓮の炎が燃え上がり、アパートを舐め尽くしたのは。

 今にして思えば、不思議な点は幾らでもあった。

 火の勢いの割には近隣の家に延焼する気配がないし、アパートを飲み込んだ炎は全く私の頬を照らさなかった。

 だけど当時の私には、それどころではなかったの。

「うわあっ!火事だ、火事だ、火事だあ〜!」

 無様に何度も躓きながら、その場を離れて大声を上げるのが関の山だったよ。


 運良く見つけたパトロール中の警官の腕を連れて元の場所に戻った私は、更なる衝撃に打ちのめされたんだ。

「あの…火災現場は何処ですか?」

「えっ!?」

 怪訝そうな警官に促されて視線を向けた先には、月極駐車場があるばかりだった。

「貴女の仰る通り、ここでアパートが全焼する火事があったんですよ。電気こたつの布団が燃え上がってね。しかしそれは5年も前の話で、それ以来あの土地は月極駐車場として使われているんですよ。」

「ええ…」

 私達一家が中古住宅を買ってこの地に移り住んだのは、堺県立御子柴高校へ進学したのと時を同じくする今年の4月の事だった。

 私達が引っ越す前に、そんな事が起きていたなんて…

「そう言えば火事があったのは、ちょうど5年前の今日だったかな…」

 警官の何気ない一言に、私は冷水を浴びせられたのように身を震わせるのだった。

 もしやあれは、火事で丸焼けになったアパートの幽霊ではないだろうか…

「今日は電気こたつじゃなくてエアコンにしようかな。幾ら寒くても、火事になったら洒落にならないし…」

 冬の冷気とは異なる寒気に身を震わせながら、私は一目散に自宅へ逃げ帰ったんだ。

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― 新着の感想 ―
 なるほどこれは怖い。  なんだったかであるべきものないのがホラーで、ないはずのものがあるのは驚愕に過ぎないなんていっていましたが、やはりこれは普通に怖い。  よく考えてたら幽霊とかって過去の残滓なん…
樮川さんだけじゃなく何人も通報してそうですね。節目節目でアパートの幽霊が現れているような気がしました。 本当にありそうな怖いお話でした。
冬は火事に特に気を付けたい季節ですね。 幽霊になったアパートも、もしかすると「火の用心」を伝えたかったのかもしれませんね。
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