表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/21

第4話 朝食テーブルは修羅場だった

 朝の陽光が大きな窓から差し込み、ダイニングテーブルに柔らかな輝きを落とす。

 ガラスのコップがきらりと光り、トースト、ベーコン、ホットミルク――そして黄金に焼かれた卵が整然と並んでいた。


 ノックスは黒のルーズなTシャツ姿。

 袖を軽く折り、引き締まった腕が無造作に露わになっている。

 ナイフとフォークを動かしながら、淡々とスマホを見つめる姿は、どこまでも冷ややかで、近寄りがたい気配を放っていた。


 対面に座るアリアンは――とにかく、顔を上げられない。

 手にしたナイフとフォークが震え、皿の上でカチカチと音を立てる。


(どうしよう……! 初日からあんなこと……!

 しかも、しかも……)


 脳裏に蘇る、あの光景――

 蒸気に包まれた肌、くっきりした筋肉のライン、そして――。


(ああああ! ダメ、考えちゃダメ……息できない……!)


 ――その時だった。


「ねえ」


 空気を断ち切るような、ゆるやかな声。

 セレナがトーストをかじりながら、ちらりとアリアンへ視線を投げた。

 その紅い瞳に、悪戯の炎が宿る。


「アリアン、バスルーム……どうだった?」


「ぶっ――!?」

 アリアンは盛大にミルクを噴きそうになり、ゴホゴホと咳き込む。

「な、なにも……ただ、ひ、広かっただけ……!」


「ふぅん、“広かった”んだ?」


 セレナはわざと声を引き、ゆっくりとトーストを置く。

 細い指でカップをなぞりながら、にやりと笑った。


「どの部分が……“大きかった”のかしら?」


「なっ――!!? な、なに言ってるの!? バスルームよ! 他に何があるのよ!!」

 アリアンは真っ赤な顔で、ほぼ絶叫。


「へえ? ふふっ……」

 セレナの笑みがさらに深くなる。

「でも、その言葉――別の意味でも、ピッタリよね?」


「っっっ!!!」


 アリアンの羞恥ゲージが一気に振り切れた。

 耳まで真っ赤になり、息も絶え絶え。


 その時、低い声が――食卓を震わせる。

「……朝から騒ぎすぎ」


 ノックスがスマホをテーブルに置き、ようやく視線を上げる。

 翠緑の瞳が、冷たくふたりを射抜いた。


「朝飯で戦争すんな。それと――“大きかった”って、なんの話だ?」


「な、なにも!!!」

 アリアンはパニックで首をぶんぶん振る。


 セレナは肩を竦め、わざとらしいため息を吐いた。


「本人に聞けばいいじゃない」

 紅い瞳が、ゆっくりとノックスへ。


「ねえ、ノックス。あんた、自分のどこが一番“大きい”と思う?」


「――翼だ」

 ノックスは一拍も置かず、事実を淡々と告げる。

 翠緑の瞳が、朝の光にきらりと光る。

「母さんのより、ずっと大きい」


 セレナの目が一瞬見開かれ――そして、挑発的な笑みが浮かんだ。

「ふぅん……今の、自慢?」


「ただの事実だ」

 ノックスは最後の卵を切りながら、低く続ける。


「それに……」

 その視線が、意味深にセレナへ。

「――お前が、一番よく知ってるだろ? 全部、見てたんだから」


「……!」

 セレナの喉が小さく鳴る。


 だが次の瞬間、壊れたように笑い声を漏らし――

「……ホント、平然と言うのね」


 ノックスはそれ以上言葉を返さず、牛乳を一口。

 表情は淡々と、相手の殺気を軽く受け流す。


 セレナは紅い瞳を細め、アリアンへと視線を向けた。

 羞恥で今にも蒸発しそうな少女に、甘い毒をひと滴――。


「でも、アリアンも気になってるんじゃない? 昨夜、ずっと見てたし」


「み、見てない!! 全然見てないから!!!」

 アリアンは半泣きで叫び、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。


「もう無理! ごちそうさま!!」


 そのまま三階へ猛ダッシュ。

「バタン!」と扉が閉まり、家全体が小さく震える。


 ……静寂。


 セレナは牛乳をひと口、唇に笑み。

「――逃げ足、早いわね」


 ノックスは顔も上げず、淡々と吐いた。

「……お前、暇だろ」


「退屈かどうかなんて、関係ないわ」

 セレナは唇に笑みを残し、紅い瞳を細めた。

「だって――こんな面白い朝食、なかなかないもの」


 その言葉に、ノックスの手がピクリと動く。

 フォークが、きゅっと金属音を響かせて歪んだ。


「……黙れ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ