鼻ピアスを開けた友達のテンションが高い
鼻ピアスを開けた友達のテンションが高い。私の肩をバシバシ叩いてくる。「つまんねー。もっと面白い話しろし」とコーラを勢いよく飲んで、ほくそ笑んだ。
"みくは"が、鼻ピアスを開ける前は、私の肩をバシバシ叩くような真似はしなかった。たまに脇腹を小突いてくることはあるけど、ここまで痛くはなかった。
それに「つまんねー」なんて汚い言葉遣いもしなかった。「何それー」「アホすぎー」というように、愛情を感じる言葉を使った。
友達の一人が異常にテンションが高いと、もう一方は白ける。二人の温度が合っていないと、一緒にいる理由がなくなるように感じる。
鼻ピアスを開けたくらいで、何でそんなに愉快になれるんだろう。さっきから右手で金属部分を触って、これみよがしにアピールしてくる。
耳にピアスを開けている友達は何人かいる。だけど、鼻にピアスを開けているのは、みくはしかいなかった。
何か話題はないかと、考えを巡らせた。牛。何故か一瞬、牧場にいる牛のことが頭に浮かんだ。私は気づいているはずなのに、一生懸命知らないふりをした。
牛のことを考えては駄目だと思うほど、牛のことを考えてしまう自分がいた。そういえば、今日牛乳を飲んできたなぁと、牛のことが頭から離れない。
「鼻ピアス開けたけどさー、なんかあたしって、牛みたいだよね」
みくはが、ケラケラと笑った。やられた。
私が、頭で考えていたことを先に言語化された気がした。その瞬間、牛に対する執着が消えた。
「……そんなことないよ」
私は、みくはをフォローした。明るい性格になりたい。思ったことをバンバン口にして、大口を開けて笑っていられる、そんな人になりたかった。
そういえば、耳たぶを挟んで使うイヤリングというものがある。これは、耳に穴を開ける必要がない。
鼻ピアスのイヤリングバージョンはないのだろうか。もしも、そういうものが、この世にあったら、私も好きなときに鼻ピアスをつけることができる。私の中に革命が起きた瞬間だった。
でも、きっとそんな便利アイテムがあっても、この先私は鼻ピアスをつけることがないだろう。みくはに気づかれないように大きく息を吸う。
「ねぇ、みくは」
「なに?」
「鼻ピアス似合ってるね」
「えっ……」
真正面から褒めたら、みくはは急におとなしくなった。
そうだ。私は私の正義で、鼻ピアスをつけた、みくはと戦えば良い。無理してまで明るくなる必要はない。
私の視線は、みくはの鼻ピアスに向かう。それに気づいた彼女は、鼻をかくふりをして、右手で鼻ピアスをそっと隠した。私は一人、口元を緩ませた。