はじまり
「ゆう、舞羅、おはよう!」
「おはよう」
「おはようございます、摩耶様」
毎朝の登校風景にございます。
のんびりとゆう様と門に続く坂道を歩いておりますと、摩耶様が走って追いつかれます。
「ゆう、ちょっと舞羅借りていい?」
「どうぞ。例の打ち合わせ?」
「そうそう。じゃ、舞羅行くよ!」
走って来られた勢いのままどちらかへ行きたいご様子です。
「ゆう様、失礼致します」
仕方ございませんので、ゆう様にご挨拶申し上げ、摩耶様について走ります。
「うん、舞羅頑張ってね!…行っちゃった。のんびり者のクセに足速いし、スポーツもできるんだよね…でもって、摩耶なんかと仲いいし。何年付き合っても掴めない性格してるわー…だから面白いんだけど」
ゆう様も摩耶様も、小学校からエスカレーター式のこちらの学校でご一緒させて頂いております。(摩耶様に至っては、幼稚園からの付き合いにございます!)
ゆう様を含め、数名のみが私の仕事を知っていらっしゃいます。
そもそも初めは、お二人を占ったのでございます。冗談半分で、時々タロットや、星占いをしていると申しましたら、占って欲しいと申されまして…
「お二方共小さい頃より知っておりますので、あまり意味がないのでは」
「未来!知りたいのはこれからでしょ。だから舞羅なら私達のパーソナルデータもよく知ってるし。」
「未来と申されましても…」
「恋愛運に金運、学業成就」
「それじゃお守りでしょ…」
「お二人は恋愛にご興味ございませんのでは…」
「ある!」
お二人同時に否定されてしまいました。
「学業に関しましては、テストの山掛けはお断りさせて頂きます」
「何でバレたの?」
お二人の仰いそうな事ですので…。
「付き合いが長いんだから当たり前でしょ」
「流石摩耶様です」
「勘のいい舞羅にしてみたら当たり前かぁ」
「それでは恋愛運と金運を占うと言う事でよろしいですか?」
「ウンウン良い良い」
「やった~」
「とりあえず授業がございますので、教室へ急ぎましょう」
そのまま授業を無視して占いを優先してしまいそうなご様子でしたので、釘を刺したつもりでございましたが、
「まあそう言わずに」
「授業じゃなくて、朝のHRくらいならいいでしょう?」
踵を返して教室へ向かおうと致しました私の両腕をしっかりお二人に掴まれて、ゆう様の所属されておりますバスケ部の部室に連れて行かれました。
「今日は遅刻になりますね…」
「さっきメールで朝練で体調崩して舞羅と摩耶に付き合ってもらって部室で休憩してるって言っといてってサツキに頼んだ」
ゆう様抜かりナシでございます…こういう時のゆう様の行動力は、摩耶様以上だと私は思っております。
「悪い結果でもお心をしっかり持って聞いて下さいませ」
「ウンウン」
わかって頂けたのでしょうか…
「ではまずはどちらから占いますか?」
お二人で顔を見合わせて、指差し確認をされるようにして
「私からお願い」
とゆう様が仰いました。
「では総体運を…」
生年月日、名前を参考に、タロットや星で占います。
「星の位置がとてもよろしいのですが、何かに迷われていらっしゃるご様子がタロットに出ております。迷いが晴れた時に全ての巡りが良くなられるでしょう」
「それってとりあえず喜んでいいの?」
「そうだと思います。迷いを取り除けばですが」
「どうすれば取り除けるの?」
「私には迷いが何かわかりませんので…」
これがただ占ってと仰られた時の問題にございます。
「迷いのお心当たりがゆう様にはっきりわかっていらっしゃって、私に話して頂ければ、お手伝いはできるかと思いますが…あくまでお手伝いです」
占いでは決して答えや解決方法は出ないのでございます。
「ゆう、この際相談しちゃえば?」
「わかった。その代わり、絶対に内緒だし、協力してよ」
「勿論にございます」
摩耶様が身を乗り出して、興奮されていらっしゃいます。
「私も約束する!」
ゆう様は、少し呼吸を整えられて、静かに話し始められました。
「あのね、バスケットなんだけど、引き抜きを打診されてるの」
「凄い!えっじゃぁ大学別の所行くの?」
私も余りの事の重大さに言葉になりません…
「ウン…転校になるかもしれない」
「転校って…すぐに…高校からって事?!」
「その学校のバスケ部にね、好きな人って言うか…彼が居て…」
「ちょーっと待った。そんな話初めて聞くんだけど」
私もです…いいのでしょうか…私などが占って。
「そりゃそうだよ。初めて話すもん」
「ゆう様、摩耶様、落ち着いて下さいませ…ゆう様、私も余りにお話が凄すぎてついて行けませんので、ちゃんと話して下さいませ」
「だって…昨日の日曜日の練習試合の時に、気になってた人に告白されたんだもん…」
「引き抜きを打診している学校の人だから迷いがある…?」
「彼は引き抜きは知らない…って言ってるし、知っててもこんなチャンス絶対無いから、OKしたんだけど」
「正直転校には抵抗を感じていらっしゃるのですね。しかも彼の気持ちにも疑いを感じてらっしゃる」
「そうなんだよね…彼と一緒の学校に魅力が無いって言ったら嘘になるし、バスケもね、環境は凄い整ってるの」
「転校しちゃうと寂しくなるね…ずっと一緒にいたのにさ」
「そうなの。私達ってココしか知らないじゃない、学校って」
「新しい環境に迷いを感じてらっしゃるのですね。わかりました。ただ、占いでは結論は出ません。お決めになるのはゆう様ご本人でございます。よろしいですね?」
私の占いでゆう様の迷いが少しでも晴れますように…
「先程も申しましたが、総体運は非常に良い位置に星がございます。ゆう様のご決定は間違いなく良い方向へと向かう事でしょう」
「ご決定って何?どっち?」
「摩耶様落ち着いて下さいませ…昨日の事を思い出して、タロットをシャッフルして頂けますか?」
両手をタロットの上に置き、深呼吸されてからシャッフルを始められました。
ちょっと照れられたような笑顔を浮かべてらっしゃいます。
「1日の全てをタロットに伝えて下さいませ…そして手を離して下さい」
手の離れたタロットに、私の手を置いて、思いを受け取ります。そして静かに纏めて並べます。
「私側から見たカードが正位置となります」
ゆっくり一枚ずつ捲ってゆきます。
「それで?結果は?」
「摩耶様…少し黙っていらして下さいませ」
「ゴメンゴメン。だって気になるじゃない」
「わかりましたから…」
改めてゆう様に向き直し、結果を伝えます。
「ではまず……迷いは彼の事が大きいのですね。ご安心下さい。恋愛運も勝利と出ております。ゆう様、掛けに出られる事をお勧め致します。思われてらっしゃる事を全て彼に仰って下さいませ。必ず彼の気持ちをロックできる筈です」
「キャーっ凄い!ゆう凄い!」
「声が大きいってば!まだ全部聞いてないし」
私が睨んでいるのに気づかれたようです。
「スイマセン…」
「わかった。参考にするって事ね」
摩耶様が少し反省されたようですので、ゆっくり続きをゆう様にお伝えします。
「ゆう様が本音を示されれば、彼も間違いなく本音を示されます。そして、本音を仰られるゆう様を彼は見直される事でしょう」
「本音で…」
「バスケットボールの事ですが…相談すべき者に相談せよ、と出ております。ご両親や先生にはご相談されましたか?」
「言うべきか悩んでたから」
「きっと一番良い答えが見つかると思いますよ。そして、ゆう様の導き出した答えこそが正解なのです」
少し沈黙されて、意を決したように私をまっすぐ見つめて答えられます。
「ありがとう。悩まないで相談する。占って貰って良かった」
「私如きの占いでございますが、お役に立てて光栄にございます」
すると突然摩耶様が大袈裟に拍手をされて、
「舞羅凄い!あなたは占い師になるべきだわ!」
と仰られて…今考えれば、この時既に計算されていたのでしょう。
「なんだか感動しちゃった。もっと色んな人救ってあげるべきよ」
逆に冷静にゆう様がおっしゃいます。
「まずはあんたが救って貰うんじゃなかったの?」
「あ、そっか。恋愛運恋愛運。視て視て!」
「時間がございませんので、簡単で宜しいですか?彼氏がいらっしゃるようでもございませんし」
「酷い…泣いてやる」
「ではお昼にじっくり」
さて、気づかれたかと思いますが…ゆう様はこの時にご自身で道をお選びになって、私達と共に高校生活を送っております。
話はまた戻りまして…
お昼休みまでは何かと摩耶様が占いについてあれこれ申されますので、兎に角長く感じました…ようやくと言った感じで休み時間が来ると、引きずられるように又部室へと連れて行かれました…他の教室でもよろしかったのでは、と申し上げたのですが、
「ここが雰囲気もあっていいの!」
だ、そうでございます。色々話したい事もございましたが、おそらくは占いを私がしない事には聞いては頂けないと思いましたので、諦めて机の前の椅子に座りました。
「では摩耶様。何を占いましょう?」
「もちろん恋愛だってばー!私どんな恋愛運?ね、ね?ねぇ?」
「ゆう様と違って摩耶様は彼氏もいらっしゃらないので占いなど……」
「だからでしょ!いつになったら私の彼氏は現れるのぉー!」
お荒れになられた摩耶様に両肩を掴まれて揺さぶられてしまいまして、慌てたゆう様が止めに入られ、ようやく摩耶様も落ち着かれました
「そんな事したら舞羅壊れちゃうでしょ!」
「……ごめん、舞羅」
数度深呼吸を致しまして、やっと私も落ち着きましたので、タロットカードをテーブルの上に準備致しました。
「では摩耶様。いつ頃良き方が現れるのか、といった占いでよろしいでしょうか?」
「うん、うん♪あと総合運ね」
「……承知致しました」
タロットを広げ、静かに混ぜてゆきます。
「では摩耶様、思いを込めてタロットをシャッフルしてくださいませ」
「OK」
少し緊張された面持ちで、じっとタロットに向かわれます
「ありがとうございます。そのまま私が引き継ぎます」
タロットを纏めて捲ってまいります
「私から見て正位置となります」
「うんうん、それでそれで?」
「今は時期では無いので、学業に専念せよ、と」
「ええぇー!」
掴みかからんばかりの摩耶様をゆう様が今度は先に押さえてくださいます。
「落ち着いてお聞きください。素晴らしい出会いが待っているので、気にせず過ごせと出ております」
「しばらく私には彼氏が出来ないのね」
「時期については星回りを今から見てみますので、少しお待ちくださいませ」
「わかった」
ホロスコープを確認してまいります
「三年……二年半後辺りから運気が上がってまいりますので、出会いはその頃だと思われます」
「ちょっと聞いていい?なんでそんなに歯切れ悪いの?」
さすが摩耶様にございます。私がどう申し上げようかと悩んでいるのを見抜いてしまいました。
「出会いはあるのですが……摩耶様はお気付きになられないと……」
「きづかない?」
いわゆる素っ頓狂な声が返ってまいりました…。
「そばにはずっといて下さる方のようですので、数年後に摩耶様がやっとお気付きになられるようです」
ここでゆう様が耐えられずに、
「摩耶らしすぎる〜!!」
と大笑いされました。私もゆう様に同意致します。
かなり険しい表情をされて、摩耶様が
「わかったわよ!どうせ私は鈍感です!でも、待っててくれるって事でしょ?なら、それでいいわよ。今は舞羅と占いやってるの楽しいし!」
とおっしゃってくださいました。
「あははは!強がりすぎるー!……けど、摩耶らしくて好きだわー!」
「ゆう、笑い飛ばしてくれてありがとう。うん、今楽しけりゃいいや」
「いえ、勉学に励まれてください。何故か勉学に力を入れた方が無難だと出ています。仕事…占いは程々にと」
「何で!?」
「そう言われましても……成績維持は内部進学でも必須ですので、でしょうか?もしかして成績下がられましたか?」
明らかに摩耶様が動揺されております。しばらくは勉強会も必要なようでございます。