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異世界に召喚されました~オートミールのオムライスを添えて~6

 玉ねぎと人参とトマト、そしてベーコンと卵は、食材庫にて無事に見つかった。

 ケチャップ作りに使うにんにくや、唐辛子……らしきものも見つかる。

 なぜ『らしき』と形容しているのかというと、知っているものと微妙に形が違ったからだ。にんにくは真っ赤な皮を纏っているし、唐辛子は知っているものより二回りほど大きい。


「……鑑定」


 念のためにと試しにつぶやいてみれば、目の前に文字が浮かぶ。おお、これがスキルを使うということか……!

 浮かんだ文字に、さっそく目を走らせる。そこには鑑定したいと思ったふたつの食材に関する情報が、ずらりと書かれていた。

 ふむ。ホムラニンニクにルークストウガラシ、か。用途はふだん使うものと変わらないようだな。ルークスというのは今いる国の名らしい。

 しかし……。ピーマンと肝心要である米がない。


「……ピーマンと、米がないな」

「ええ〜! ピーマンは別にいいんだけど、お米は大事でしょう。というか、お米がないとはじまらない!」


 ぽつりと零すと、椛音が悲痛な声を漏らす。


「米はほとんど流通していない貴重品だ。気軽に手に入るものではない」

「そんなぁ」


 アリリオ殿下の追撃に、椛音はがくりと肩を落とした。その悲壮感溢れる様子を見ていると、少しばかり心が痛む。


「このままじゃ……オムライスが食べられないじゃない! 私、絶対に勇者になんてなんない!」

「ショウ! なんとかならんのか! このままでは勇者が旅に出ないではないか!」


 椛音が癇癪を起こし、アリリオ殿下が救いを求めるようにこちらを見つめてくる。


「ええ……。そんなことを言われてもな」


 俺は苦笑しながら、小さく頭をかいた。

 この世界の命運は、俺のオムライス製作にかかっているようだ。そんな重圧をかけられても、非常に困るんだけどなぁ。

 米の代わりになるものがないかと、懸命に食材庫を漁る。すると……。

 穀物らしいものが詰まった袋を見つけた。口を開けて中を覗き見ると、日本でもお馴染みになりつつある食材が入っている。これなら、使えそうだ。


「椛音。これなんかどうだ?」

「叔父さん。なに、それ?」

「オートミールだ」


 そう、俺が見つけたのはオートミールだった。

 えん麦という麦の一種を脱穀し、食べやすいよう加工したものだ。低糖質、低カロリー、高栄養価のこの穀物は、低糖質食を好む層に愛食されている。


「……オートミール」


 椛音は不満そうな顔をする。オートミールは嫌いではなかったはずだが、米を食べたい時には少し物足りないもんな。

 だけど今は、これしかないのだ。オートミールで我慢をしてもらうか、作らないかの二択である。


「ワガママを言うなら、もう作りません」

「ううう……。オートミールでいいです」


 つんとしながら言ってみせると、椛音は渋々という様子だが納得してくれたようだった。


「えん麦は不味かろう」


 アリリオ殿下は、オートミールを見つめながら微妙な顔をしている。彼はオートミールがお好みではないらしい。


「まぁまぁ。調理方法によっては、結構美味しく食べられるんですよ」


 殿下に言い聞かせるように言ってから、皆で手分けをして材料を厨房へと運ぶ。


「さて……」


 まずはケチャップ作りからだな。まずは、湯剥きしたトマトをみじん切りにする。

 ふと隣を見ると、暇そうにしている椛音と目が合う。ちょっと、手伝いでも頼むか。


「椛音。オートミールを砕いてもらっていいか?」

「はーい」

「あまり細かくしすぎないようにな」

「はぁい」


 すり鉢とすりこぎ棒を渡すと、椛音は素直にそれを受け取りオートミールをもりもりと砕きはじめる。その表情は、なんだかとても楽しそうだ。


「さて……」


 細かくみじんにしたトマトを鍋に入れて火にかけ、別の鍋で唐辛子と下ろしたにんにくと玉ねぎを煮る。

 ミキサーがあればぜんぶ混ぜたあとに煮詰めてもいいのだが、ないものはないので丁寧に作ろう。


「いい香りだな……」


 アリリオ殿下が、トマトを煮詰めている鍋に吸い寄せられるように近づく。そんな彼に、俺はへらを渡した。


「殿下。鍋をかき混ぜていただけますか? トマトが焦げないように気をつけて、潰しながらでお願いします」

「ショウ。……僕は王族なのだが」

「まぁまぁ」


 へらを押しつければ、腑に落ちないという顔をしつつも殿下は鍋をかき混ぜてくれる。

 うん。初対面の印象は微妙だったが、やっぱりいい子なんだろうな。

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