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異世界に召喚されました~オートミールのオムライスを添えて~5

 ──そんなわけで、厨房である。

 椛音が『叔父さんのオムライスが食べたい!』としか言わなくなってしまったので、アリリオ殿下御一同様に『おむらいすとやらを作ってくれ』と頼み込まれてしまったのだ。

 よくてヴィクトリア朝のキッチン。悪ければ江戸の台所……のような光景を想像しながら厨房へと向かったのだが。


「おお、ふつうのキッチンだ」


 現代日本のキッチン……とまではさすがにいかないが、現代のキッチンとヴィクトリア朝のキッチンの中間のような仕様の設備の数々を目にして俺はほっと胸を撫で下ろす。調理器具も日本のものと大差なく、これなら難なく使うことができそうだ。


「ふつうではない。これらは魔導技術の粋を集めて作った魔導具で──」

「ふむ。使い勝手は変わらなそうだな」


 どういう仕組みかはわからないが、コンロのつまみを捻るとぼっと火がつくし、蛇口にコックを捻れば水も出る。うん、本当にふつうのキッチンだな。


「聞け!」


 俺がキッチンのあちこちをいじっていると、苛立たしげにアリリオ殿下が叫ぶ。この方、案外短気である。


「殿下、すまない」

「……まぁ、いい」


 詫びを入れると、素直にそれを受け入れてくれる。この方は、短気だけれど素直なようだ。


「叔父殿。おむらいすとやらを作るのにはなにが必要なのだ?」


 アリリオ殿下には、勇者云々の話の際に俺と椛音の関係のことを伝えている。

 しかし『叔父殿』というのはなんというか……。


「叔父殿……ってなんか落ち着かないから、翔でいいよ」

「では、ショウと呼ぶ」


 殿下がこくりと頷くと、金髪がさらりと揺れた。染めたものだとぱさぱさとしているものだが、さすが天然物。滑らかで綺麗なものだなと妙なことで感心してしまう。


「それで、材料だが……。卵を六個。ベーコン、人参、玉ねぎ、ピーマン──」

「ピーマンはいらない」


 椛音が俺の脇の下から顔を出して、実に不満そうに言う。


「……椛音」

「いらないからね」

「じゃあ、あったら入れる。なければ入れない、でいいな?」

「……わかった」


 まだ不満そうにしながらも、椛音は俺の脇の下から出ていく。椛音は生のピーマンの青臭さが苦手らしい。だからいつも細かく刻んで、しっかりと火を通しているのだが……。それでもどうやらご不満らしい。


「ケチャップは、トマトがあれば手作りするか」


 バターライスでもいいのだが、椛音が所望するのはきっとケチャップライスだろう。多少面倒ではあるのだが、ケチャップは作れないものではない。


「ふむ。ある程度必要なものは揃う……と思う。食材庫を見て見繕ってもらっていいか?」


 アリリオ殿下が形のいい顎を指先で擦りながら言う。そして、俺たちを先導して歩き出した。

 俺と椛音は、それについていく。その間、椛音の腹は鳴りっぱなしで彼女の限界を感じさせた。

 ……椛音は腹が減った際に、異常に機嫌が悪くなる。食材庫にそのまま食べられるものがあれば、ひとまず口に突っ込んでおいた方がいいかもしれない。

 厨房の隣に食材庫はあり、入ると中はひんやりとしていた。アリリオ殿下いわく、魔法で冷やしているらしい。

 ライフラインが電気やガスではないもので賄われていることに、少しばかりワクワクしてしまう。本当に違う世界なんだなぁ。

 食材庫に入り、食材を確認する。すると苺らしき果物が目についたので、ひとまず……と数粒椛音に手渡した。すると椛音は嬉しそうにそれを頬張り、「おかわり」と言いながらこちらに手を差し出した。

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