姪の旅立ち、叔父の開店20
ルティーナさんの食欲に内心冷や汗をかきつつ、俺もローストビーフを口にする。そして柔らかで旨みのある肉を噛み締め、舌の上で転がした。
……自画自賛になってしまうが、これは美味いな。
調理も上手くいったとは思うのだが、素材が本当に上質だ。魔物のポテンシャルは本当にすごいな。
パルメダさんとルティーナさんが定期的に『大暴れ牛』を狩ってくれるなら、店の定番メニューに加えるのもいいかもしれない。あとでふたりに相談してみよう。
「あの、おかわりがほしいんだが」
メイラさんに声をかけられ振り向けば、皿を手にした『紫紺の牙』の面々がずらりと立っていた。
パーティ一同でおかわりをするほど気に入ってもらえたのは嬉しいな。料理人冥利に尽きる。
「今、用意しますね」
おかわりの準備をすべく、俺は椅子から立ち上がる。
「あっ、私もおかわりがほしいです!」
「ショウ殿。私も……!」
するとパルメダさんが手を挙げ、ルティーナさんも続けて手を挙げた。
ふたりの皿に視線をやれば、すっかり空である。……本当に食べるのが早いな。
「はいはい、少々お待ちくださいね」
食べかけの自身のローストビーフサラダにちょっぴり後ろ髪を引かれつつ、俺はキッチンへと向かった。
*
ローストビーフサラダを平らげた『紫紺の牙』の面々は、想定していた以上の金額を置いて店を去って行った。
オープンのおおよその日取りを伝えると『必ずまた来る』と約束してくれたけれど、その言葉はたぶん社交辞令ではないだろう。彼らの満足げな表情が『また来たい』と雄弁に語っていたから。
「料理で喜んでもらえるのは、嬉しいな」
店の入口に立って遠ざかっていく『紫紺の牙』の面々の背中を見送りつつぽつりと漏らす俺に、パルメダさんとルティーナさんが口を揃えて「いつでも喜びますよ!」と言う。ふたりはまるで気の合う姉弟のようで微笑ましい。
「……さてと。パルメダさん、いいですか?」
「はい、どうぞ。しっかり『鑑定』してくださいませ」
扉を閉めてパルメダさんに向き合いつつ声をかければ、彼は笑顔になり『任せてください』と言うように自身の胸を叩いた。
俺は腕輪を外し、パルメダさんに手を翳す。そして『鑑定』のスキルを発動した。
パルメダさんの情報が次々と目の前に表示されていく。
……個人情報だからなるべく見ないようにしながら、ステータスへと視線を移す。
パルメダさんのステータスには以前と同じく『+』の表示があるのだが……その横にはさらに『s』という文字が括弧で括って追加されていた。これはもしかしなくても、『small』の『s』かな。推測が正しいなら、腕輪は正しく機能しているようだ。
「腕輪の効果はちゃんと出ていそうです。ありがとうございます」
『鑑定』を止め、パルメダさんにお礼を言う。
「いえいえ、お役に立ててよかったで──」
「ちわーっす! ショウ殿はいらっしゃいますか? 殿下からのご依頼で注文を取りに来ましたー!」
パルメダさんの返しは、誰かの大きな声に遮られた。
──今日はどうやら、来客が多い日らしいな。




