姪の旅立ち、叔父の開店14
「お客様……?」
首を傾げていると、扉が開き数人の武装した人間たちがなだれ込んできた。
彼らは『騎士』の格好をしている時のパルメダさんのような洗練された装いではなく、泥があちこちにくっついた鎧などを身に着けている。はじめてこういう人種を目にした俺は、ついつい警戒心が露わな表情になってしまう。
「なぁ、ここって飯を食わせてくれる店か?」
短く刈り込んだ金髪のがっちりした体格の男性が、テーブルのおやつに視線をやりながら訊ねてくる。
彼の上半身を覆う鎧はとても重そうで、こんなものを身に着けてよく動けるなぁと内心感心してしまった。
「すごい、いい匂いがする~!」
続けて頭からぴょんと猫の耳、尾てい骨のあたりからは尻尾が生えたピンク色の髪の女性が、部屋に漂う匂いを嗅ぎつつ鼻をひくひくさせた。女性もたぶん戦うご職業なのかな。革の胸当てを身に着け、短剣をぐるりと腰に巻いている。
体に獣の特徴を残した獣人という人種がいるとは聞いていたが、実際に見るのははじめてだ。
「あの、申し訳ありません。ダンジョン攻略から戻ったばかりで私たち空腹で……。携行食もちょうど切らしていて」
最後に部屋に入ってきた大きな瞳の気弱そうな女性が、申し訳なさそうに俺たちに言った。
女性は肩までの茶色の髪をしており、神官姿の時のルティーナさんのような白い衣服を身に着けている。
ああ、なるほど。匂いにつられてやって来たのか。
そう思いながら、ひとまずガレットをテーブルに置く。彼らの視線はガレットを追うように動き、その飢えた様子からは相当な空腹が感じられた。
ふとルティーナさんが目配せをすると、パルメダさんがこくりと頷き立ち上がった。
「貴方たちはギルドに登録済みの冒険者ですか? 所属パーティー名と、ギルドの管理番号を教えなさい。『野良』の素性がしれないパーティーの場合は、即刻この場を立ち去るように」
パルメダさんはご飯を前にした際の蕩けた様子と結びつかない毅然とした態度で言いながら、彼らの方に歩を進める。
「は? あんた偉そうだな……って、パルメダ卿!?」
金髪の男性は一瞬気色ばんだが、パルメダさんの顔をまじまじと見たあとに驚愕という表情であんぐりと口を開けた。
「え。殿下直属の騎士の!? やだぁ! 噂どおりの美形!」
猫耳をぴこぴこと揺らしつつ、ピンク髪の女性が楽しそうに言う。
「よくよく見たら、ルティーナ様もいらっしゃるじゃないですか。わわわ、私みたいな下っ端神官がお目にかかることができるなんて……!」
茶色の髪の神官らしい女性は、パルメダさんの後ろに控えるルティーナさんを目にして慌てて跪いた。
……二人とも、有名人なんだなぁ。
アリリオ殿下の関係者なのだから、当然か。
「失礼いたしました。Bランクパーティー『紫紺の牙』です。俺はリーダーで重戦士のメイラと申します。二人は軽戦士のネンナと、神官のパルです。登録番号はこちらに」
金髪の男性──メイラさんはそう言うと、パルメダさんになにやらカードらしきものを差し出す。
「……偽装ではないですね。結構」
パルメダさんはカードを受け取るとしげしげと眺めてから、メイラさんに返却した。メイラさんは安堵したように、ほっと息を吐く。
「そちらのお方は……?」
立ち上がったパルさんが、おずおずと俺に訊ねてくる。この場で唯一『お方』だなんて存在ではない俺は、苦笑をしつつ口を開いた。
「えっと、店の主人のショウと申します。二人と違ってただの平凡な男です」
……勇者の叔父ではあるが、余計なことは言わない方がいいだろう。
「私とパルメダ卿は、縁あってこの店の従業員になったのですよ」
「このお二方が従業員!? まじ!?」
ルティーナさんの言葉を聞いて、ネンナさんが驚きの声を上げる。よくよく見れば尻尾がピンと立ち上がっていて、体のいろいろな箇所で感情表現をするんだなぁと感心してしまう。
「ええ、そうです。ちなみに、店はまだ開店日ではありません。本日引っ越してきたばかりなので。開店日以降にいらしてくださいませ」
ルティーナさんは微笑みながら言い、ぱくりとガレットを口にした。
「そ、そんなぁ」
メイラさんが大きな体を前のめりにして、がくりと肩を落とす。
ほかのメンバーもそれぞれ、悲嘆の声を上げた。
……こんな様子を見てしまうと、放っておけなくなるんだよなぁ。
「……簡単なものでよければ、作りましょうか。料理の単価はまだ決めていないので、お代はお気持ちでいただくことになりますが」
「いいのか!?」
「いいのぉ!?」
「よ、よろしいのですか!」
俺が声をかけると、彼らの表情がぱっと輝く。
お口に合うものを、作ることができればいいんだけどな……。




