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異世界に召喚されました~オートミールのオムライスを添えて~4

 ここは異世界というやつで、世界の滅亡を企む魔族の王……『魔王』と呼ばれる存在が不定期に出現するらしい。それに対抗するために、この国では魔王の出現を察知すると『勇者』が異世界より自動的に召喚されるシステムが構築されているのだそうだ。そして、今回は椛音が勇者に適合した。

 豪奢な応接間に通されたあとにそんな説明を受けて、俺は目を丸くし、椛音は眉間に深い皺を寄せる。


「カノン。君の返事がほしい」


 アリリオと名乗った王子様はそう言うと、青の瞳で椛音をじっと見つめる。

 椛音は『勇者』だと言われたことに関して、承諾や拒否のようなリアクションをしていない。そのことに殿下は、少しばかり焦っているようだった。


「元の世界には帰れるの?」

「……それは、難しいな。呼び立てておいて申し訳ないが、なんらかの事象で偶発的に帰る以外は帰還の手段はない」


 椛音の疑問に、アリリオ殿下は眉尻を下げながらそう答える。その声音には気遣いが感じられ、この王子は悪人ではないのかもしれない……なんて単純な俺は思ってしまった。


「そう。別に元の世界には……叔父さん以外の未練はないから、私はまぁいいんだけど」


 椛音はそう言いながら、ぎゅっと俺にしがみつく。

 いや、椛音。もっと別の未練も持ってくれ。

 俺たちは、祖母以外の親戚中から爪弾きにされていた。その空気を幼い頃から肌で感じていたせいか、椛音は俺べったりになってしまった。

 椛音には友達もそれなりにいたはずなんだが……。想像していたよりも姪に執着されていたことに、少しばかり驚いてしまう。


「元の世界に未練がないなら問題ないな! 一緒に世界を救おう!」


 そう言って勢いよく差し出された手を、椛音は強い力で払う。するとバチン!ととても痛そうな音が部屋に響いた。


「口説き下手か! 突然呼び出されて重労働しろって言われて、『はい!』ってすぐに言えるわけないでしょう! ブラック企業の経営者か、あんたは!」

「あ、あんた。ぶらっく……?」


 アリリオ殿下は痛そうな手を擦りながら、愕然とした表情で椛音を見つめる。王子殿下なのだから『あんた』などと呼ばれたことがなかったのだろう。周囲の侍従らしき者たちもオロオロしているが、『勇者様』になにかを言うことはできないようだ。


「……椛音が勇者なのはいいとして、俺の扱いはどうなるんだ?」


 手を軽く挙げつつアリリオ殿下に問いかけると、彼は嫌そうな顔をする。


「そうだな……。レイモンド、彼を鑑定してくれ」


 召喚の場にもいたローブ姿の老人──レイモンドというらしい──に、アリリオ殿下は声をかけた。


「はっ」


 それを受けたレイモンドは、俺に手のひらを向ける。すると、手のひらから淡い光が発せられた。椛音のことも、こうやって『鑑定』をしたのだろう。そして彼女が勇者だったので、『おまけ』の俺の方の鑑定はしなかったと。彼らの様子から、そんな推測をする。


「ふむ。お前の職業は料理人で、スキルは鑑定+と料理+か。鑑定は希少スキルだが……戦闘スキルはないようだし、旅には連れていけないな。しかし、この『+』とはなんだ?」


 レイモンドに耳打ちをされたアリリオ殿下は、そう言って眉間に深い皺を寄せる。俺のスキルには、『+』とやらがついているらしい。

 ……いや。そもそも、スキルってなんなんだ。ゲームやらはしないので、そういうファンタジーな用語に馴染みがないんだが。


「料理……」


 その時。椛音がぽつりと漏らした。そして、座っていた長椅子から勢いよく立ち上がる。


「そうだ。あんたの召喚のタイミングが悪かったせいで、叔父さんのオムライス食べ損ねたんだよ。その責任はどう取ってくれるわけ?」

「おむ、らいす?」


 椛音の言葉に、アリリオ殿下はぽかんとする。この反応は……この世界にはオムライスがないのかもしれないな。

 機嫌が異様に悪いな……とは思っていたが、そういえば昼飯を食べ損ねていたな。


「叔父さんのオムライスが食べられるまで、あんたの言うことは聞かない!」


 椛音がきっぱりとそんな宣言をすると、その場はしんと静まり返った。

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