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姪の旅立ち、叔父の開店10

「着いた着いた。あいてて……」


 座席から立ち上がりつつ、俺は腰を押さえて呻き声を上げた。

 馬車の揺れは相変わらず容赦がなくて、腰や尻がじんじんと痛む。

 パルメダさんもルティーナさんも平気そうな顔をしているのに、情けないことこの上ないな。

 ピートも心配そうに『ピーッ! ピー!』と愛らしく鳴きながら、俺の周囲をぐるぐると飛んでいる。

 そんなピートに指を差し出すと、ぺろぺろと小さな舌で指を舐められた。

 本当に可愛いなぁ。ついつい、へらりと頬が緩んでしまう。


「大丈夫ですか、ショウ殿。回復魔法をかけましょうか?」


 腰を何度も擦っていると、ルティーナさんが心配そうに声をかけてくれた。


「ルティーナさん、そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ。この年齢になると腰が痛いのなんてしょっちゅうですし」


 悲しいけれどこれは加齢が原因だ。そんなものにいちいち回復魔法を使ってもらうなんて、申し訳なさすぎる。


「ショウ殿。そんなことを言わずに、かけてもらったらどうですか? これから開店の準備で体を酷使するでしょうし」

「う……」

「準備の最中にさらに腰を痛める可能性だってありますよね。万全で挑むべきですよ、ええ」

「た、たしかに」


 パルメダさんに立て続けに言われて、俺は納得する。

 これから荷を上げたり下ろしたりで、体を使うもんな。しかし……。


「腰を痛めたままだと、料理をするのにも影響が出そうですしね」


 パルメダさんの次のひと言で、その納得は霧散してしまった。


「……パルメダさん。そっちが本音ですよね?」

「はて、なんのことでしょう」


 ジト目になりつつ訊ねてみたが、とぼけた顔でさらりと流される。


「パルメダさんって、結構いい性格してますよね」

「それは褒め言葉として受け取っておきましょう」


 パルメダさんは自身の唇に人差し指を添え、にっこりと笑った。

 ……パルメダさんはいい性格で、少々図々しいらしい。

 まぁ、悪い人じゃないんだけどな。


「ショウ殿。治癒魔法を使ってもいいですか?」


 ルティーナさんがこちらにやって来て、そんなふうに問いかけてくる。


「では、よろしくお願いします」


 俺はそう言ってから、ぺこりと頭を下げた。すると、ルティーナさんは安堵したように息を吐く。


「では……」


 ルティーナさんは俺の腰に手を翳し、小さくなにかをつぶやきはじめた。

 これが……魔法の詠唱というやつなんだろうな。

 美しい人の唇から歌うような調子で言語が零れる様子は、なんだか神秘的だ。

 そんなことを考えている間にもルティーナさんの手のひらには光の粒子が集まり、腰のあたりがぽかぽかと温かくなっていく。そして……。


「痛みがなくなった……! だけじゃなくて、なんだか体も軽い気がします!」


 腰と尻から痛みが去っていき、俺は嬉しくなって感嘆の声を上げた。

 いやはや、魔法というものはすごいものだなぁ。


「ふふ、そう言っていただけると嬉しいです」


 ルティーナさんは微笑みながら言ってから、手のひらに宿っていた光をふっと消した。


「本来なら、教会にお布施をしないと神官に治癒魔法は使ってもらえないんですよ。旅の仲間などでしたら、別ですけどね」

「ええっ! お布施!?」


 パルメダさんにいたずらっぽく言われて、俺は驚きの声を上げてしまう。

 法要の際にお坊さんに御経を上げてもらうためにもお布施が必要だ。それと同じようなことなんだろうな。

 ルティーナさんと俺の関係は『護衛と護衛対象』で『旅の仲間』ではないし……。お布施、払った方がいいのかな。


「これからショウ殿には、料理という名のお布施を毎日していただく予定なので。金銭的なお布施はなくても問題ありません」


 悩む俺に、ルティーナさんは胸を張りつつそんなふうに告げる。

 ……そうか。これからはルティーナさんの食費がかかるんだよな。

 頑張って働かないとなぁ。

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