姪の旅立ち、叔父の開店4
「そういう服も、似合いますね」
「本当ですか!? 私、これを着てお店に立ちますね!」
褒め言葉を口にすると、ルティーナさんは嬉しそうに言いつつその場でくるりと回る。
するとシックなデザインの黒のメイド服のスカートが、ふわりと可憐に膨らんだ。
ルティーナさんの清楚な雰囲気には、メイド服が本当に似合うなぁ。
……しかし、身分の高いお嬢さんにメイド服が似合うと言うのは失礼だったかな。
そんなことをふと思ったが、ルティーナさんも楽しそうだしまぁいいか。
「こんなに可愛らしいメイドさんが店にいたら、ルティーナさん目当てのお客が増えそうですね」
美少女顔のパルメダさんと、絶世の美女のルティーナさん。
二人が執事とメイド姿でいる接客をしてくれる時点で、我が店の勝利は決まったようなものではないか。
そんなことを考えながら、俺は悦に浸ってしまう。
「ショウ殿、その」
「へ?」
「……可愛らしいなんて言われると、照れてしまいますので」
ルティーナさんは白い頬を赤くしながら、俺から視線を逸らす。
し、しまった。若い子にセクハラじみたことを言ってしまった……!
「あ……! あっ! 申し訳ないです! セクハラっぽいことを言ってしまって!」
「せくはら?」
「いや、その。おじさんに『可愛らしい』なんて言われても、気分がいいものではないでしょう。本当に申し訳ありません」
「いえいえ、とても嬉しいです! こちらこそ、変な反応をしてしまい気を遣わせてしまって……!」
互いにぺこぺこと頭を下げながら、しばしの間謝り合いになる。
さんざん謝罪をした俺たちは、ようやく頭を上げて顔を見合わせ苦笑いをした。
ルティーナさんはこほんと小さく咳をしてから、口を開く。
「あの、ショウ殿さえよければ……」
「はい、なんでしょう」
「可愛いと思った時は、口にしていただいて大丈夫ですので!」
ぎゅっと拳を握りつつ言われて、俺は目を丸くする。
……なるほど。失言をした俺に、気を遣ってくれているのだろう。
ルティーナさん、いい人だなぁ。
「では、できる限り言うようにしますね」
「はい、ぜひそうしてください!」
ルティーナさんはそう言うと、嬉しそうに笑った。
「お二人とも。掃除はまだ終っていませんよ」
パルメダさんに声をかけられ、俺はハッとする。
そしてルティーナさんも参戦し、掃除は再開されたのだった。
部屋の清掃を追えた俺たちは、顔見知りの皆に挨拶に回った。
皆は執事姿のパルメダさんとメイド姿のルティーナさんを目にして、皆が目を丸くするのが少しばかり面白かった。
……うん、びっくりしますよね。
「お店、絶対に食事に行きますね! ツァネル姉さんも連れていきます!」
「ええ、俺たちも行きます!」
「俺も! 美味いもの食べに行きます!」
「俺も行きます!」
厨房に立ち寄るとリズベスさんたち料理人の皆さんが別れを惜しみつつ、来店予告をしてくれる。いや、来店予告がメインだな。別れはほとんど惜しまれていない気が。まぁ、王都からすぐに行ける店だしな。
それに……。それだけ俺の料理を気に入ってくれたのだと思うと、少しばかり胸がじんとしてしまう。
「開店前日にささやかなレセプションパーティーをしようと思っているので、まずはそちらにご招待させてください」
「わわ、ご招待お待ちしてます!」
リズベスさんはそう言うと、ぱっと表情を明るくする。
周囲の男どもはふにゃりと顔をだらしなく緩ませたが、不穏な気配を察知し皆が一斉に表情を引き締めた。
ツァネルさんが厨房に入ってきたのだ。
ツァネルさんは背筋を伸ばした姿勢で、カツカツと靴音を鳴らしながらこちらにやって来る。
……俺、リズベスさんに必要以上にべたべたしてないよな!?




