姪の旅立ち、叔父の開店3
旅立つ椛音たちを見送った俺は貸してもらっている王宮の部屋に戻り、荷物の整理をしてから部屋の掃除をはじめた。
あとから侍女が清掃してくれることはわかっていたのだが、自分の手である程度綺麗にしたかったのだ。
世話になった礼……というにはささやかだが。
立つ鳥跡を濁さず、なんて言葉もある。侍女もある程度片づいた部屋を掃除する方が、楽で嬉しいのではないだろうか。
とはいえ、広い部屋だから少しばかり疲れるな。うう、腰も痛い。
絨毯をブラシで掃除し終えた俺は、立ち上がってうんと伸びをする。
その時──。
「ショウ殿。ご自分で掃除をされているのですか?」
扉からぴょこんと顔を出したパルメダさんが、不思議そうな顔をしつつ声をかけてきた。
「ええ。ちょっとくらい綺麗にしてから、城を出たいと思ったもので」
「ふむ、そうなのですね。では私も手伝いましょう」
「いえ! それは悪いですよ! ……あれ、執事服?」
こちらにやって来たパルメダさんは、騎士服ではなく執事服を身に着けている。
すごく似合っているが……なぜ執事服なんだ?
俺の言葉と視線を受けて、パルメダさんは「ふふん」と得意げな顔になった。
「いかにも騎士という格好をしていると目立ちますからね。これからはできるだけ目立たない服装で過ごそうかと考え、こうなりました」
パルメダさんはそう言うと、胸を張る。
なるほど、これからは執事に変装して過ごすつもりなのか。
しかし……パルメダさんみたいな美形はどんな格好をしていても、目立つと思うんだけどな。
その上、俺は執事がいる身分には絶対に見えない冴えない男だし。妙なアンバランスさが出てしまわないだろうか。
そうは思うがどや顔の彼にはなにも言えず、俺は「なるほど」と言いながら愛想笑いを浮かべることしかできなかった。
「さ! 片づけてしまいましょうか」
パルメダさんは腕まくりのような仕草をしてから、窓ガラスに手のひらを差し出す。
そして──。
「──浄化」
と、小さくつぶやいた。すると窓ガラスは、一瞬でピカピカになる。
おお、すごい。アリリオ殿下が以前皿に使ってくれたのと、一緒の魔法なのかな。魔法は本当に便利だなぁ。
テーブルを濡れ布巾で拭きつつ、俺は感心する。……このテーブルもパルメダさんに任せた方がよかったのかな。いやいや、こういうのは気持ちが大事だ! 気持ちが!
パルメダさんがやって来てからは、ずいぶんと楽になった掃除を進めていると──。
「あれ? お二人ともなにをしてるんですか?」
俺を迎えに来たらしいルティーナさんが、そんなふうに声を掛けつつ部屋に入ってくる。
……彼女はなぜか、メイド服を身に着けていた。
「えっと、その服は……」
「いかにも神官戦士という格好をしていると目立つので、これからはできるだけ目立たない服装をと思いまして。メイド姿なんてどうかなと」
ルティーナさんはそう言うと、どや顔をする。
……俺の護衛をしてくれる二人は、どうやら似た者同士らしい。




