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姪の旅立ち、叔父の開店1

 その日の王都は、歓喜の声に包まれていた。

 椛音が魔王討伐の旅に出る、その日になったのだ。

 討伐のメンバーは、椛音、アリリオ殿下、そして護衛の三人。この国最高の戦力を誇る者たちで、過大表現ではなくその力は一個旅団にも匹敵するらしい。

 ……その中核が姪っ子というのが、なんとも複雑な気持ちになるが。

 なぜこの五人しか連れて行かないのかというと、国防が疎かになり他国に攻め入られることを避けるためなのだそうだ。

 敵は魔王だけではないのだな、という世知辛さを俺は感じてしまう。

 たしかに、魔王は倒したけれど帰る国はなくなっていた……では困るもんな。

 アリリオ殿下には側室が産んだ異母弟がいて、彼に『なにか』があった時にはその異母弟が王位継承者となるそうだ。そんなことが起きないようにと、祈るしかないな。


 ……椛音たちはいつ旅を終えられるのかな。


 そんなことを、俺はぼんやりと考える。 

 アリリオ殿下たちの力をもってしても、魔王が出現した場所をピンポイントで特定することは困難らしい。

 魔王の出現と同時に魔族たちも発生し、魔王を含む強い魔族がいる場所には必ず『瘴気』が発生する。そのほかの魔族たちの発する瘴気が、魔王の居場所を隠す目くらましとして働くのだ。

 魔王という『当たり』を引くまで『瘴気』のもとへ向かい叩いていくのが、椛音たちの役目である。

 その旅は一年ほどで片がつくこともあれば、数年単位でかかることもあると聞いた。

 叔父としては、すぐに片がつくことを願うばかりだな。


「アリリオ。……必ず魔王を倒すんだぞ」


 この国に来て俺は二度ほどしかお目にかかったことがない国王陛下が、アリリオ殿下の肩に手を置きながら鼓舞する言葉をかける。国王陛下は四十代くらいに見える美中年で、その顔立ちはアリリオ殿下によく似ている。殿下も歳を重ねたら、こんなふうになるんだろうなぁ。


「はい、父上。必ず」


 アリリオ殿下は微笑みながら、こくりと頷く。おお、なんだか凛々しい表情だ。さすが王子様という風格だな。

 国王陛下の隣には豊満な体つきをした金髪碧眼の美女が佇んでいる。彼女がこの国の王妃陛下だ。

 王妃陛下は瞳を潤ませると、感情に突き動かされるままという様子でアリリオ殿下を抱きしめた。


「は、母上!」


 アリリオ殿下は突然の母の抱擁に戸惑い、顔を真っ赤にする。

 思春期の少年が、公衆の面前で母親に抱きしめられるのは少しばかり恥ずかしいよな……。


「可愛いアリリオ! 無事に……無事に帰って来るのですよ!」

「は、母上! 必ず無事に帰りますから!」

「本当に?」

「本当です。それに……報告を入れに時々転移で戻りますし、王宮にいる時と顔を合わせる回数はそんなに変わりませんよ」

「本当かしら?」

「本当です!」


 ぐすぐすと鼻を鳴らす王妃陛下に、アリリオ殿下は力強く言う。

 そして母の頬を濡らす涙を、少し苦笑しながら指先で優しく拭った。

 椛音はそんなアリリオ殿下を横目に見ながら、口元を緩ませている。

 ……遠くなってしまった母の記憶を、思い出しているのかもしれないな。

 ふと椛音の視線が動き、ばちりと目が合う。すると椛音はにやりと笑った。


「叔父さんも、アリリオママみたいにぎゅーっとしてくれていいんだよ?」

「しないよ」

「えー」

「しません」

「なんで! ぎゅっとしてよ!」


 ……もう高校生なんだから、人前で甘やかしを要求しないでほしい。

 不満そうな椛音の頭をわしゃわしゃと少し乱暴に撫でると、ぷくんと頬を膨らませる。


「ハグ! 叔父さん! ハグ!」


 椛音は大きな声で言いながら両手を大きく広げた。

 仕方がないので軽くハグをしてから離れると、椛音はご満悦な顔になっている。

 本当に、困った姪だ。

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― 新着の感想 ―
本当に、困った姪だ。 とか言いつつもこの叔父さんは満更でもないのだろうなと読んでいてほっこり。
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