神官戦士のルティーナさんと対面しよう5~巣蜜のパンケーキを添えて~
「ショウ、紹介しよう。君のもうひとりの護衛のルティーナだ」
アリリオ殿下がそう言いながら、ルティーナさんを視線で示す。
するとルティーナさんは、驚くくらいに綺麗な姿勢で足を踏み出した。
なんというか、雰囲気のある女性だ。歩く姿だけは映画のワンシーンのように見えて、こちらによい意味での緊張感を与えてくる。これが、背筋が自然に伸びるという感じなのかな。
俺がぺこりと会釈すると、ルティーナさんも軽く頭を下げた。綺麗な黒髪がさらりと頬を流れ、形のよい頭が上げられるのに少し遅れて彼女は髪を耳にかける。その色香漂う仕草を目にして、心臓がどきりと跳ねた。
「ショウ殿、はじめまして。ルティーナと申します。……ところで」
「……ところで?」
「とってもよい香りがしますね。ええ、本当にいい香り」
ルティーナさんはそう言うと、可憐な笑みをこちらに向ける。その微笑みは美しいのに猛獣のような迫力が感じられて、背筋がぞくりと震えた。
──対面早々、挨拶もそこそこにこれである。この人も、パルメダさんと同じく食いしん坊なんだろうな。
ちらりとパルメダさんを見れば、彼は俺の視線の意味がわからないようで不思議そうな顔で首を傾げた。
「ルティーナは空腹だと、とんでもなく凶暴になる。分けられるものがあるなら、分け与えた方がいいと思うぞ」
アリリオ殿下が、ぽつりとそんなことを言う。
「まぁ、アリリオ殿下。失礼ですね」
「僕は事実を述べている。先日の魔物狩りでは、空腹で苛立つ君が魔物の群れを殲滅したとの報告が──」
「……殿下」
ルティーナさんがにっこりと笑うと、アリリオ殿下はびくんと身を震わせる。ルティーナさんの怒りを恐れているのか、その顔はどんどん蒼白になっていく。
……暴れられるのは困るな、うん。
「ルティーナさんも食べますか? 巣蜜のパンケーキ」
「はい! ぜひ!」
そんなふうに声をかければ、ルティーナさんは待ってましたとばかりに元気のよい返事をする。
「ちなみにどれくらい食べられますか?」
「そうですね……。あればあるだけ嬉しいです!」
「……あればあるだけ」
枚数での指定ではなく『あればあるだけ』ときたか。いやいや、どれくらいあればいいんだよ!
「ショウ殿。ひとまず二十枚程度あれば、ルティーナ殿の小腹は満たせるかと」
困惑する俺の右耳に、ツァネルさんが囁く。
「いえ。彼女の小腹を満たすためには、三十枚は必要でしょう」
さらに左耳に、パルメダさんがそう言い添える。
──三十枚!? 嘘だろ、そんなに入るものなのか?
ツァネルさんとパルメダさんを交互に見れば、ふたりとも冗談を言っている様子ではなかった。
ルティーナさんは、あの細い体でそんなに大食いなのか!?
「ルティーナさんって美人だけど、クセ強だよねぇ」
椛音がそんなふうに言ってケタケタと笑う。
クセが強いのはお前もだぞ、椛音。




