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神官戦士のルティーナさんと対面しよう4~巣蜜のパンケーキを添えて~

 パンケーキは人数分……より少し多いくらい焼き上がり、皿に積み上げられたそれらはなかなか壮観である。

 厨房には甘い匂いが充満しており、食欲を激しく刺激した。

 どうやら開き直ったらしいツァネルさんは、パルメダさんからもらった巣蜜をちまちま食べながら「これは……天上の味」などとつぶやきうっとりとした表情になっている。いつもは厳しく引き締めている表情を緩ませるツァネルさんはふつうの『女の子』に見えて、少しばかり微笑ましい気持ちになった。

 そんな時。厨房へ近づいてくる複数の足音が耳に届いた。


「叔父さん! パンケーキがあるって聞いたんだけど!」


 そして、椛音が厨房に飛び込んでくる。

 パルメダさんが、椛音たちを呼びに行ってくれたのだ。

 椛音に続いてアリリオ殿下も厨房へ入ってきて、さらにその後ろからはパルメダさんと──俺の知らない人物が続いた。


(うわ、美人だ)


 その人を目にして、俺は目を瞠った。

 腰までの長い黒髪、深い色の赤の瞳。驚くくらいに長いまつ毛。人形みたいに整った、少しあどけない印象の顔立ち。華奢な体には真っ白なローブを纏っており、ローブには銀の糸で複雑な刺繍が刻まれている。年齢は二十代の半ばくらいだろうか。

 ──パルメダさんといい、アリリオ殿下といい、リズベスさんといい、この世界は美形だらけなのか?

 すべてが平均的だと自負している俺としては、微妙に肩身が狭い。アリリオ殿下が恋をするだけあって、椛音も『可愛い』という範疇に一応入るしな。……ちょっと緊張感がない、タヌキ顔ではあるけれど。


「神官戦士のルティーナ殿か。王宮に来るとは、めずらしいな」


 表情をもとの厳しいものに引き締めたツァネルさんがぽつりと漏らした言葉で、俺は女性の正体を知る。

 そうか、あの人が俺の護衛をしてくれるルティーナさんなのか。こんな綺麗な人に護衛をしてもらうなんて、なんだか不思議な感じだ。ん……? メイスによる打撃が得意だってアリリオ殿下が言ってなかったか? この人が、メイスで? 見るから華奢なこの腕で? 包丁すら重くて持つのがつらそうに見える腕なのに。

 ──異世界って、すごいな。元の世界の常識が一切通じない。

 そんなことを、俺は改めて思ってしまう。

 椛音たちが俺のところにやって来ると、ツァネルさんは跪いて臣下の礼を取る。それに釣られたように、料理人たちも次々に礼を取った。

 パルメダさんはマイペースに、ゆったりと臣下の礼を取る。そんな彼らにアリリオ殿下がさっと手を振った。


「楽にしてくれ」

「はっ!」


 ツァネルさんは美しい姿勢で立ち上がり、臣下の礼を解く。しかしながら、背筋がピンと伸びたその立ち姿は『楽』とはほど遠い。

 皆もおのおの礼を解き、料理人たちは作業に戻った。


「今日はツァネルもいるのだな」

「はっ! 妹の様子を見に来た次第です!」


 アリリオ殿下に声を掛けられ、ツァネルさんの背筋はさらにピンと伸びる。

 人間、こんなに姿勢がよくなるんだなぁ。そんなことに、俺は感心してしまう。


「楽にしてくれと言ったのだがな。ツァネルには難しいか」


 アリリオ殿下が苦笑し、ツァネルさんは戸惑い顔になる。

 ツァネルさんにとっては『ちゃんとすること』が『楽にすること』なのかもしれないな。

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