神官戦士のルティーナさんと対面しよう2~巣蜜のパンケーキを添えて~
パルメダさんに皆に巣蜜を振る舞う許可を取ってから、手の空いている料理人たちと手分けをしてパンケーキを焼く。
その中には、先日オボロアナグマを捌いてくれたリズベスさんの姿もあった。
「リズベスさん、お手伝いありがとうございます」
「いえいえ! ご相伴に与るのですし、当然ですよ」
せっせとパンケーキを焼くリズベスさんに声をかければ、向日葵が咲くような笑顔を向けられそう返された。
ふにゃりと緩みそうになる表情を、俺は慌てて引き締める。
明るく可憐なリズベスさんは、この職場のアイドルだ。未婚の料理人たちによるリズベスさん争奪戦が、日々繰り広げられている。ただし……本人はそれを知らない。
なんというか、彼女は天然なのだ。男たちが背後で火花を散らしていても料理に夢中でどこ吹く風である。その上……。
リズベスさんには王宮騎士団に所属する姉がいる。その姉がかなりの過保護で、『自分に勝てないような男にリズベスはやらん』と豪語しているのだ。料理人が騎士に勝つことは、当然だけど難しいだろうな……。男女差よりも持つスキルの特性で強さが決まるこの世界だからなおさらだ。
俺も先日顔を合わせたけれど、姉上はリズベスさんとは似ずの生真面目そうな女性だった。最初は俺も警戒されていたが、リズベスさんに気がないことをさりげなくアピールしていたらその警戒が緩んだ……ような気がする。緩んでいたらいいなぁ。なにかの拍子に無礼討ちなんてことになったらとても困る。
「リズベス、いるか?」
噂をすればなんとやら。厨房の入口から、リズベスさんの姉──ツァネルさんが顔を出す。
肩までの長さの金髪、リズベスさんとお揃いの色の茶色の目、高い背丈。毎日鍛錬を欠かさないのだろうしっかりとした体つき。顔立ちは整っているのだが、厳しい表情と三白眼のせいで『綺麗』や『可愛い』よりも『厳格』という印象の方が先立ってしまう。歳の頃は二十代の半ばというところに見える。
「ツァネル姉さん!」
ツァネルさんの顔を目にして、リズベスさんはぱっと表情を輝かせる。
同時に、厨房の料理人たちにはある種の緊張感が走った。
「……ショウ殿」
ツァネルさんはリズベスさんと並んでパンケーキを焼く俺を目にして、眉を顰める。
俺は薄ら笑いを浮かべながら、「こんにちは、ツァネルさん」と挨拶をした。
ツァネルさんの視線が動き、俺の背後のパルメダさんを捉えると瞠られる。
「──パルメダ卿。いらっしゃることに気づかず、失礼いたしました」
彼女は早足にパルメダさんのもとへ行くと、胸に手を当てながら直角の礼をした。
リズベスさんとツァネルさんは男爵家の出で、騎士団での階級も貴族としての爵位もパルメダさんの方が高い。
パルメダさんは深々と頭を下げるツァネルさんを見て苦笑しながら、「今からおやつの時間だというのに、堅苦しいことは勘弁してください」とつぶやいた。
「……おやつ、でございますか」
ツァネルさんの目が、パンケーキが積み上げられている皿に向けられる。
その喉がこくりと小さく鳴ったことを、俺は見逃さなかった。




