神官戦士のルティーナさんと対面しよう1~巣蜜のパンケーキを添えて~
フライパンをよく熱して油を引き、生地を流し込む。すると厨房には、小麦の焼ける香ばしい香りが広がった。
今、俺が作っているのはパンケーキである。
巣蜜を持参して俺の部屋にやって来たパルメダさんに、『巣蜜のパンケーキが食べたいです!』とねだられてしまったのだ。
……ここで、巣蜜というものの説明を少しさせてもらおう。
蜜蜂は花の蜜を巣に持ち帰り、巣にそれを貯蔵する。その蜜を貯蔵した部分をまるっといただいたのが、巣蜜である。貴重品であり、高級品だ。
一度食べたことがあるがしっとりと蜜が染み込んだ巣の部分がキャラメルのような質感になっていて、絶品なんだよなぁ。
「いい匂いがしますね、ショウ殿」
「そうですね、パルメダさん」
パンケーキを作る俺の背後では、わくわく顔のパルメダさんがリズミカルな足取りでうろうろしている。
……正直、めちゃくちゃ落ち着かない。
「ああ、このパンケーキにバターとねっとりと甘い巣蜜が載るのだと思うと……。胸がときめいてしまいます」
パルメダさんはうっとりと言いながら、赤く染まった頰を両手で覆う。
食べ物が絡まないと、本当にクールな人なんだけどなぁ……。
「巣蜜のパンケーキを、椛音にも食べさせていいですか?」
「ええ、もちろんです。もうすぐ午前の訓練が終わる時間ですし、ちょうどいいですね。ショウ殿が手間でなければ、殿下にも振る舞っていただけないでしょうか?」
「はい、パンケーキを焼くのは手間ではないので。パルメダさん、パンケーキは何段がいいですか?」
「三……いえ。四段。四段でお願いします」
……この食いしん坊さんめ。
しかし、四段のパンケーキか。絵本に出てくるような食べ物のようで、作るこっちもちょっとわくわくしてしまうな。
椛音のやつも四段にするか。椛音一人では厳しいかもしれないが、アリリオ殿下と二人ならちょうどいいだろう。
二人の二度目の半分こだな。店の件でいろいろ動いてくださったことへの、ささやかすぎる恩返しだ。
工事の終了まで、残り一週間。この厨房で料理をするのも、あとわずかか。そう思うと少しばかり寂しくなる。
「そういえば、いただいた巣蜜の出どころってどこなんでしょう? すごく大きくてびっくりしました」
パルメダさんが持ってきた巣蜜は、一辺が一メートルくらいというとんでもないサイズだった。
たぶん、ふつうの蜜蜂のものじゃないよな。
大きすぎて持ち運びづらいと言ったら、パルメダさんがその場でちょうどいいサイズにカッティングしてくれた。
……腰に佩いている、立派な剣で。
「先日、私が討伐したキラーミツバチの巣から拝借しました。天然ものですよ」
「……なるほど」
そのキラーミツバチとやらも、とんでもない魔物なんだろうなぁ。
この世界に一人だったら、俺はあっという間に死んでいたんじゃないだろうか。現代日本と違って危険が多すぎる。
パルメダさんや近々紹介をしてもらうルティーナさんの庇護下で行動できることは、僥倖なのだろうな。
「……キラーミツバチの巣蜜」
「またとんでもない高級食材だな」
「ご相伴に与れないかな」
「いいなぁ、食べたい」
周囲からそんな料理人たちの囁き声が聞こえる。俺たちの会話に、どうやら聞き耳を立てていたらしい。
……巣蜜の数は、彼らに分けても問題ない程度にあるな。
提供主であるパルメダさんの許可が貰えれば、皆に提供は可能だろう。




