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私の叔父さん1

 ──叔父さんは優しい。ちょっと心配になるくらいに優しい。

 異世界に来てしまったのは完全に私の巻き添えなのに、それを一言だって責めたりしない。

 召喚したアリリオに怒ったりもしないし、食いしん坊のパルメダさんがしつこく料理をねだっても笑って許す。

 そんなだから……夢を諦めて私を育てたりしてしまうのだ。

 私の存在が叔父さんのいろいろな可能性を私が台無しにしたんじゃないかと悩む時もあるけれど、こんなことを私が考えていると知ったらきっと叔父さんは怒る。叔父さんは私のことを、勘違いではなく大事にしてくれているから。

 

「叔父さん。ちょっといい?」


 おじさんが滞在している、王宮の一室。その扉を軽くノックしながら声をかける。

 すると中から「おう」と了承の声が返ってきた。

 ──勇者になってから、私はすごい力持ちになった。

 力加減を間違わないように気をつけながら、ドアノブを回す。ドアノブをもいでしまったりしたら大変だもんね。

 扉を開けて中を覗き込むと、叔父さんは長椅子にごろりと寝転んでいた。

 最近はお店を開店する準備で忙しいから、疲れてるんだろうなぁ。


「えいっ」


 一声発してから、叔父さんの上に私は飛び乗る。すると「おうっ!?」というオットセイみたいな驚き声が上がった。

 ふふ、ちょっと面白い。


「椛音、いきなりなにを……!」

「ごろごろしてる叔父さんが悪い」


 ぎゅうと抱きつけば、叔父さんが頭をぽんぽんと優しく撫でてくれる。

 ……叔父さんのこの優しい手が、私は大好きだ。


「叔父さんダメだよ。人を出迎える時にはちゃんと起きてないと」

「いいだろ、別に。相手は椛音なんだし」

「アリリオが一緒だったらどうするの。王子様相手にごろごろしてるとこを見せたら不敬だよ」


 とはいえ、アリリオは叔父さんがごろごろしてても怒らないだろうけど。

 王子様だけどアリリオは案外気が良い、いい子なのだ。


「……まぁ、それはそうか。というか椛音、もう十六なんだから抱きついてきたりはやめなさい」

「ええええ、やだ。まだまだ甘えたい年頃だもん」


 私の家族は叔父さんしかいない。だから、彼にべったりになりすぎてしまっている自覚はある。

 世の中には『ファザコン』なんて人種もいるのだし、『叔父コン』がいても別にいいじゃない。

 ……もうちょっとだけ、いいことにしてほしい。

 大人になったら、ちゃんと離れなくちゃとは思ってるから。


「私が甘えないようになったら、叔父さんだって寂しいでしょ?」

「寂しくないぞ」

「本当に?」


 きっぱり言われると、少しだけ不安になる。

 じっと見つめながら問えば、叔父さんは観念したようにふうと小さく息を吐いた。


「…………ちょっとだけ、寂しい」


 そして、素直な気持ちを吐露する。


「でしょ?」


 それを聞いて、私はにんまりとしてしまった。


「……けど」

「けど?」

「姪の成長は嬉しいものだからな。寂しいけど、嬉しいとも思うだろうな」

「叔父さん……」


 ちょっとじんとしてしまった。

 だけど、成長が嬉しいなんてそんなこと言われたら……。

 これからちょっとだけ、甘えにくくなっちゃうなぁ。


「叔父さんって本当に、優しいよねぇ。こんなに優しいのに、どうしてモテないんだろ」

「いやいや、モテないってなんでわかるんだよ。椛音が見てないところでモテてるかもしれないだろ。というか彼女くらいいたし」


 うんまぁ、それは知ってる。そしてその彼女さんに『姪の世話ばかりして、私のことは大事じゃないの?』って振られちゃったことも。

 それを知って申し訳なさでわんわん泣いたら、『お前は悪くない』ってきっぱり言ってくれたっけ。


「ま、そのうち叔父さんのよさを理解できる女性が現れるか」

「椛音? モテないは否定してくれないのか?」


 叔父さんのそんな声が聞こえたけれど、聞こえないフリをする。

 すると叔父さんは少し不満げな顔をした。

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