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未来のことを考えよう~オボロアナグマの肉うどんを添えて~10

 アリリオ殿下に沸かしてもらった熱湯にうどんを投入し、茹で上がったのを確認してから麺を引き上げる。それを笊に移して、流水でがしがしと洗う。そんな俺の様子を周囲は興味津々に眺めており、少しばかり落ち着かない。パルメダさんに関しては、興味津々というよりも食欲みちみちという感じだな……。本当に申し訳ないのだが、貴方の分のうどんはないんです。麺はきっちり、分ける人数分でなくなってしまった。しっかりと水を切ったら、あとは椀に盛りつけるだけだ。


「椛音、スープをちょうどいい皿に盛ってくれ。できれば底が深いやつ」

「はーい!」

「八人分な。いや、椛音と殿下が半分こだから一応九人分なのか?」


 くじに当たった料理人五人、椛音、アリリオ殿下、リズベスさん、俺。うん、人数に間違いはない。


「大丈夫、人数くらいわかってるよ。私、算数得意だもん」


 椛音はそう言いながら、底が深いスープ皿を手にする。そして、不器用な仕草でそろそろとスープを皿に盛りはじめた。

 ……零さないといいんだけどな。

 というか椛音、高校生なのに『算数』ってどういうことだ。そろそろ数学も得意になってほしい──って。異世界に来てしまった今、もう必要ないのか。

 椛音が盛りつけたスープにうどんを入れて、その上にオボロアナグマの肉をたっぷりと載せる。するとスープに肉の脂がじわりと滲み、油膜が広がった。オボロアナグマの濃い脂が、シンプルなスープに深いコクを与えてくれるだろう。

 これでオボロアナグマの肉を使った洋風肉うどんの完成である。ちなみに、俺の肉は当然控えめに盛った。明日胃もたれで苦しみたくないもんな。……もっと若ければ腹いっぱい食えたのになぁ。


「やっとご飯だぁ! 待ちわびたよ!」


 椛音はそう言いながら、嬉しそうに器を覗き込む。


「すごく美味しそうですね。ああ、味を想像しただけでときめいてしまいます……!」


 リズベスさんはすんと肉うどんの香りを嗅いでから、胸の前で手を組みつつほにゃりと表情を緩めた。


「……半分こ。いい言葉だな。うん、とてもいい言葉だ」


 アリリオ殿下はそう言いながら、頰を赤くする。殿下、もうちょっと気持ちを隠してください。遠い昔の青春を思い出し、俺まで照れてしまいそうになるじゃないですか。

 アリリオ殿下と椛音の分は一旦は皆と一緒の大きな器に盛って、そこからそれぞれ小皿に取りながらで食べるスタイルのようだ。焼肉屋のスープやクッパでよくある分け方だな。

 最初から小皿に分けてしまってもよかったのではと思うが、椛音なりに『半分こ』へのこだわりがあるのかもしれない。

 このスタイルの方が、『半分こ』感が強くてアリリオ殿下も喜びそうだしな。

 パルメダさんは少し離れたところから、泣きそうな顔をしつつで肉うどんを凝視している。

 ……そんな顔をされると、罪悪感がものすごいんだが。

 椛音とアリリオ殿下に追加で作る分をちゃんと分けてあげよう……うん。

 そうしないと末代まで祟られそうな……そんな気がした。

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