未来のことを考えよう~オボロアナグマの肉うどんを添えて~7
しかし贅沢な肉うどんだよな。平素の我が家の肉うどんは、安売りの小間切れで作っている。
それが今日は高級肉をふんだんに使えるのだ。とはいえ、あの安い肉を甘辛く煮たやつも嫌いじゃないんだよな。
ごぼうを薄く切ったものを天ぷらにして添えるのもまた美味しいんだよな。ごぼう天と甘辛い肉がまたよく合うのだ。
……はぁ、なんだか腹が減ってきたな。しかし手を動かさねば、飯は出てこない。
「よし」
気合いの声を出してから、オボロアナグマの肉に包丁を入れる。肉うどんの肉は薄い方がいい。……いろいろな嗜好の人々がいるだろうから異議は認める。だけど俺は、薄切り肉が好きなのだ。
オボロアナグマの肉を、丁寧に薄切りにしていく。これは……思っていたより脂が多いな。よい脂なのだろうが、中年の胃には少々重たいかもしれない。若い頃なら、このたっぷりの上質な脂を見て大興奮したんだろうなぁ。
「わぁ、すごい。美味しそう!」
「きっとお口で蕩けるんでしょうねぇ。想像しただけでよだれが……」
「すき焼きにしても美味しそう。うわ、やばい。お腹空いてきた」
「勇者様、すき焼きとはなんですか!?」
「お肉とかお野菜を甘いスープみたいなので煮て、生卵をつけて食べるんだよ」
「わぁああ、美味しそうですっ……!」
俺の隣では椛音とリズベスさんが、きゃあきゃあと黄色い声を上げつつはしゃいでいる。
……二人には『胃もたれする』なんて発想はまったくなさそうだな。若いっていいなぁ。素直に羨ましいと思う。
それにしても、すき焼きか。たしかに合いそうな肉ではあるな。野菜をたくさん入れて、卵をたっぷり具材に絡ませて……。うう、想像すると空腹感が増してくるぞ。
「さて……」
ここには醤油とみりんがない。だから元の世界の味の再現は最初から考えていない。
味のベースはコンソメ……というのは確定として、あとは生姜、ワイン、砂糖、塩、胡椒でも入れるか。
いろいろぶっつけだが、肉で旨みは確保できるだろうし決して不味くはないだろう。
そう考えた俺は、まずはフランパンでオボロアナグマの薄切りを焼きはじめる。
……ふと、隣に不穏な気配を感じた。ちらりをそちらに視線を送ると──そこにいたのは口からよだれを零しながらフライパンを凝視しているパルメダさんだった。
本当に、仕方がない人だな。
俺は薄切り肉にさっと塩と胡椒で味つけをして焼くと、近くにあった小皿に載せる。そしてそれを、パルメダさんに差し出した。
「……どうぞ」
「えっ。いいのですか?」
「人数分の肉うどんを作るのが大変なので個数制限をかけましたけど、肉自体は余りそうなので。じっと見られると料理に集中できないので、食べてください。パルメダさんは、ハイオークの群れから救ってくれた俺の命の恩人ですしね」
皆の不満を抑え込むため『命の恩人』という部分をことさらに強調する。
すると狙いどおりに、あちこちなら「命の恩人……」「なら仕方ないか」などという声が上がった。
「ありがとうございます!」
パルメダさんはお礼を言うと皿を受け取ってから、カトラリーを料理人に借りに行く。
どんな風味の肉か気になるし、俺も一口食べておくか。